波にのまれる


 夫の勤める会社は製造業。広島の、某自動車メーカーM社の協力会社です。
 夫の会社も、この不況の波に思い切り飲み込まれてしまいました。10月の最終週から残業禁止となり、夫は定時退社で毎日夜7時には帰宅するようになりました。
 こんなこと、(夏休みや冬休みなどの長期休暇を除いて)結婚以来初めてのことです。

 家計はひっ迫!
 もともと、残業ありきの会社。基本給は限りなく低く、残業代込みでどうにかギリギリ暮らしていける、といった感じでした。その残業代が見込めなくなったのですから、それはもう、恐ろしいことになっています。
 ぶっちゃけ、悠太・光太が生まれた頃にもらっていた額の4分の3以下に減っちゃったかなー♪あははっ。

でもその代わり、毎日の夫のいる夕食の食卓は、私にとってこれ以上ない精神的な安定をもたらしてくれました。
夫と、350ミリリットルの発泡酒一缶を半分こして、「おいしーねー」と言い合いながら、できたての夕食を囲み(夫のひざには光太)、7時のニュースを見ながらあーだこーだ世相談義するのが、今の何よりの楽しみです。

食後の皿洗いは夫がやってくれるし、子どもの歯みがきも、一番のストレスだった寝かしつけも夫任せ。
8時に消灯すると、私は一人二階の寝室へ行き、フットスチーマーで温浴しながら、雑誌をめくる。は〜、極楽!

でも同時に、考えても仕方のないことだけど、つい考えてしまいます。
悠太・光太が生まれた頃、夫がこんなに早く毎日帰ってきてくれていたら、どれだけラクだっただろう・・・
育児ノイローゼになんかならなかっただろう、鬱だって軽かっただろう。
午前1時すぎに帰宅して、それから晩御飯を食べて、翌朝6時半すぎには家を出て行く夫、休日もない夫に「助けて」なんて言えなかった。「助けて」と言っても助けてもらえなかった。

たぶん、今の生活が「普通」なんです。
父親が毎日夕食時に帰ってくる、家族で団欒する時間がとれる。(実際は、8時消灯目標の我が家は、食後のんびりくつろぐ時間はなく、食事の後片付けだの就寝準備だので結構ドタバタなんですけどね)
けど、そんな「普通」の生活だと、金銭的に暮らしがたちゆかない。
おかしいよなあ・・・

早く帰ってくる父に、悠太・光太も最初は大喜びでした。
そりゃあもう熱烈歓迎!うきゃうきゃで、「おとーさん、一緒にお風呂入ろっ」とべったり。
けど、最近では「ふ〜ん。お帰り」とちら見して、顔色すら変えなかったりします。お前ら、それはお父さんに対して失礼だろう!

あんなに楽しみにしていたお父さんとのお風呂も、悠太は「あー、ボクもうお母さんと入ったからいいわ」と早々に離脱、ずっとお付き合いしてきた光太も、最近は「ボクも疲れてるし、いいや」と(笑)。
「ゆうちゃーん、こうちゃーん、お父さんお風呂にはいるよぉ。いいの?はいらないの?」と誘うものの、子どもたちは「・・・・・」
寂しいっ!

めったに会えないお父さんだから、子どもたちにとって価値があったのであって・・・毎日会えるお父さん、価値下落中(笑)。
とはいえ夫も、一人でゆっくり入れるお風呂や、子どもにまとわりつかれることのない夕食もまんざらではない様子ですがね。


この冬のボーナス(微々たる金額ですが)が支給されました。
なんとか、今年は支給できたようですが、会社側も(このボーナスは)「貯金してください」(=来年はないと思え)と(笑)。
ほんっと、思います。住宅ローン、ボーナス返済組んでなくて良かった〜!

で。
先々のことを憂い、貯金するタマじゃないのですね、私たち夫婦は。
これが最後じゃ、つかっとけ、つかっとけー!と。
夫、新しいデジタル一眼レフカメラを買いました。今まで使っていたやつが、ガタがきはじめていたので、これはまあ、今の夫にとっては必要経費のうちかと。
デジタルフォトフレームも買いました。
私も、詳しい内容は言えませんが、「最後じゃ、最後じゃ」と呪文のように唱えながら「いろいろと」お買い物を楽しんでいます。
そのくせ、「クリスマスケーキは、今年は丸いのはやめようね。節約、節約♪」なーんてね。
なんか、違うから。

でも、ほんと、どこから削るかです。
私のコラーゲンドリンク?バカ高い美容液?
いやああああっ、それはできないっ!老化を少しでも食い止めたいのっ。
今までずーっと自分の見てくれなんて二の次で、子どものためにやってきたのです。やっと、やっと、自分に手をかけてあげられる余裕が出た矢先だったのに・・・

なーんて言ってると、「別にそこまで、火の車ってわけじゃないんじゃない」と思われそうですが、いやもう、すごいんですよー。車の火がごうごう音をたてて燃えてます。焼け落ちる寸前です。
もうね、あまりにひどくて、とにかく今は現実から目を逸らしたい一心なのです。

でもそろそろ、ちゃんと現実と向き合わなくては。
で、家計簿なんて買ってきました。きっと、続きません(笑)。今まで続いたためしがないんですもの〜。
まあ、気分から盛り上げていかんとね。
(ほんとにそんな悠長なことを言っている場合じゃないのですが・・・)


そんな先行き不安な中、一つうれしくもびっくりなことが。
なんと、私、近所のショッピングセンターの歳末福引で、一等の三朝(みささ)温泉ペア宿泊券を当てちゃったのです!
こんなこと初めてです。

くじ運が良かったためしなんかありません。いつも残念賞のあめ玉やポケットティッシュ。それが当たり前だと思っていました。1等や2等が当たる人なんて、よほど運がいい人で、自分は関係ないと。
今回の福引も、残念賞以外の商品が何かも知らずに、まあ、福引券があるからなあ、やってみるか、という感じだったのです。

9回引くチャンスがありました(ええ、いっぱいお買い物したので・笑)。で、箱の中のスピードくじを9枚適当に引いて、係の人がその紙片をはさみで切り、中を開けます。
3枚開いたところで、うっすらと6等だかの文字が。おっ!500円の商品券じゃないか。それだけでも小躍りです。
そして何も書かれていない真っ白な紙が次々開かれ8枚目のところで、係の人が「んっ?うわっ!一等?一等ですっ!おめでとうございまーす!」と鐘がカランカランと鳴らされ・・・

は?
ってなもんですよ。
ありえない。現実味がないってのは、感動が湧いてこないもんですねえ。係の人のほうが大興奮!自分の担当の箱から一等が出たのがうれしいらしい(笑)。
で、一等って何?と壁のポスターを見ると、「三朝温泉カニツアー」。ペアの宿泊券です。
真っ先に思ったのが「どうしよう。いらない・・・」

だって、遠いんだもの!鳥取県なんですよ。ツアーっていっても、移動は自家用車じゃないか。車でどれくらいかかるだろう。休憩しながら行ったら、片道4時間はかかるだろうなあ。
ペアっていっても、夫と私だけで行けるはずもなく、子どもはどーすんの、って話です。
子ども連れて行くのなら、それなりの追加料金が結局かかっちゃうわけです。今、ほんとに「節約しなきゃ」ってときに温泉に行ったとして、子ども分の追加料金プラス高速代、ガソリン代、食費、雑費もろもろ・・・いくら大人二人の宿泊券をもらったからといって、結構な出費になります。

お金のこともそうだけど、悠太・光太を連れて長〜いドライブ、そしてお泊り・・・きっと、「いろいろ」面倒なこともあるわけで、その想像に難くない「いろいろ」を思うと、とても「一等、やったー!」なんて思えず・・・

係の人に満面の笑みで「年末ジャンボも買われたらいいですよ!」なんて言われて、「いやー、これ(一等の福引)で運を使い果たしちゃいましたよ〜」と答えたけれど、確かにこんなこと、10年に一度、いや、もしかしたら一生に一度の運を使ってしまったかもしれなくて、一生に一度の運を使って三朝温泉か〜、とその小ささにちょっと悲しくなってしまったり。

係の人に住所や名前を伝えたり、一等の目録を拍手の中渡される間も、私のテンションはすごーく低かったと思います。たぶん、係の人が怪訝に思うくらい(笑)。

その日はなんだかふわふわ。
なかなか現実感がないもんです。一等だなんて。あんなたくさんのくじの中からたった一枚の一等を自分がつかんだなんて。
けど、夫が意外と乗り気で喜んでくれて、私もじわじわとうれしくなってきました。

この不況の中、こんな明るい話はないじゃないか。
今まで頑張ったご褒美と素直に受け取って、温泉に行ってカニを食べよう!
こんな機会でもないと、面倒が先にたって家族旅行なんてしないもの。なんか、そういうタイミングだったのかな?なんて。

結局、春休みに行くよう手続きしました。
これからの季節、中国山地越えは危険ですからね。暖かくならないと。
お泊りの家族旅行なんて、悠太・光太が年少さんだった秋以来です。どうなることやら・・・

願うは、そのときまで、夫のクビがつながっていますように。
わかりませんよ〜、ほんとに。底なしの不景気ですから。
ああ、恐ろしや。



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