ふりかけ事件


 ここのところ、目に見える成長はすべて悠太にとられていた光太。
 でも、光太も最近随分しっかりした行動をとるようになりました。性格がはっきりしてきたというか。几帳面な部分が出てきましたねえ。

 部屋のドアやトイレのドアがしっかり閉まっていなかったら、「はっ!開いてるじゃないですか!」と憮然とした顔で閉めてまわる。父が蓋を開けっ放しにしてそこらへんに放り投げていたお尻拭きのケースを、蓋をちゃんと閉めて、元に置いてあった場所へそそくさと戻す。「これは、ここに置かなきゃダメでしょ!」
 小姑?(笑)

 ちょっと前から、親が誘わなくても、自分でトイレに行って、便座もちゃんと上げて、おしっこしてくれるようになりました(お水は流さないですが)。
 今まで、親がトイレに誘わない限り、部屋中どこでもかしこでも水たまりを作る人だったのに・・・その水たまりに気付かず踏んづけたときの悲しさよ。我が家では、その水たまりは「光ちゃんトラップ」と呼ばれていました。
 
 光太が自分でトイレで行くようになってから、まー、トイレがえらいことになっているのですが(どんなおしっこの仕方をしているのやら・悲)、汚れるのはトイレの中だけだし。光太がトイレに入るたび掃除をしなきゃいけなかったりするのですが、忙しいときに「おしっこは?」とたびたび気を遣って誘う面倒に比べたら、なんのこれしき。
 自分で行きたいときにトイレに行ける。素晴らしい!
 
 その光太の最近のキーワードは「証拠隠滅」。
 お茶の入ったコップを勢いよくテーブルに置いてちょっとお茶がこぼれちゃったり、すくいあげたプリンが口に入る前にぽとっと落ちちゃったり。そんなとき、「ああっ、やっちゃった!」と思うらしく、それを親に見つかる前に必死で隠そうとするのです。

 ちょっと前までは、手で拭き拭きしてさらに被害を広げていたのですが、最近はちゃんと布で拭こうとします。
 ただ、その布、布なら何でもいいんですよね。
 たたんで置いておいた洗濯物だったり、夫が今まさに着ようとしていたパジャマだったり。思わず、「ああああっ、それは・・・」とストップをかけたくなる。でも、「ん?なんですか?」とさも自分が正しいことをしていると自信たっぷりの光太の顔を見ると、「いいよ、続けて。えらいね〜。拭いてくれたのぉ」とニッコリ、褒めるしかないじゃないですか。

 この間もこぼしたものを拭こうとして、キョロキョロ、その日に限って布が目の届くところにない。どうするのかなーと見ていたら、別の部屋、椅子の背にかけてあった自分のパーカーをわざわざ持ってきて拭いているのです。
 そこまでするか(笑)。
 学校でおしっこを失敗しちゃったときも、濡れた床を自分の靴下で拭こうとしていたらしく、先生も笑っていました。


 ある日の夕方のこと。
 夕食の支度も済み、さあ、後はお風呂を入れるだけ・・・と対面キッチン越しに居間を見ると、なにやら光太が必死で手で床を拭く仕草をしています。
 なあに、どうしたの?と近づいてみると・・・
 「ぎゃあああああっ!!なに、これーっ!!」
 その日の朝開封したばかりのふりかけのビンが空になって転がっていて、ふりかけがソファ周辺に全部散らばっていて・・・そして、「うきゃきゃ〜♪」ニッコニコでふりかけで遊び、頭から足先まで全身ふりかけまみれの悠太の姿が。
 ひいいいいっ!

 あまりの惨事に頭真っ白。
 集中して台所仕事をしていたし、ソファの背に隠れて、そのときまで何が起こっているか、全然気付かなかったのです。
 これ、どうやって片付ければいいのーーーー!?

 とりあえず、掃除機、掃除機。
 掃除するんだから、あっちへ行け!と追いやった悠太が動くたび、ふりかけがはらはら落ちて被害拡大。悠太の頭なんて、ふりかけの色で茶髪になってんですよ!ふりかけは体温でねちょねちょになってるし、ソファの背と座面の隙間にふりかけが入り込んで、隙間をほじくってもほじくってもふりかけが出てくるし・・・

 「なにやってんの、あんたたちは!!」
 こんな雷の落し方をしたのは、何年ぶりか。もう、絶叫です。
 頭には血が上り、情けなさに涙があふれ・・・
 何が情けないって、こんなに真剣に叱っているのに、悠太がへらへら、全くこたえていない、私がなぜ怒っているのか全く分かっていないのです。それがまた怒りに拍車をかけます。
 一方、顔面蒼白で固まる光太。
 その光太を見ていたら、怒りは簡単に収まらないまでも、事の全容が見えてきました。

 もともと、ふりかけのビンを上にしたり下にしたり、ビンの中のふりかけがサラサラ〜っと動くさまを見て遊ぶのが好きな光太。この日は何らかのアクシデントで蓋が外れてしまったのですね。故意に蓋を外すことは絶対しないです。というか、蓋を外す方法、手の力の込め方をまだ知らないので。

 光太は、こぼれてしまったふりかけを「やばい!」と思ったはずです。「こぼしちゃった、こぼしちゃた。どうしよう」とどうにか「証拠隠滅」を図ったはずです。なんてったって、ふりかけは光太にとって大事な食べ物ですから。
 ふりかけをぜ〜んぶ撒き散らし、悪ノリをしたのは悠太です。悠太は、ふりかけが食べ物という認識はありません。だから悪いことをしたという自覚はない、いくら私が怒っても理解できない、へっちゃらなのです。

 怒鳴り散らしながら掃除する私、テンションが上がってニコニコで走り回る悠太、事の重大さを理解していて、一回りも二回りも縮こまる光太。
 さすがにそんな光太を見ていると「もうええわ」という気になってきました。
 結局、1時間かかって掃除を終えました。
 
 普段なら、お風呂から上がって夕食の時間です。うーん、今からお風呂に入っていたら、夕食が遅くなっちゃう。おなかもすいているだろうし・・・
 先にご飯食にしちゃおう。そうしよう。うん。
 お風呂→夕食の順番を逆にしたのは、実はこの日が初めて。お風呂に入らず夕食のお皿を出し始めた母に、ちょっと戸惑い気味の悠太・光太。微妙な空気の中、夕食が始まりました。

 夕食のテーブル、いつもなら光太のお皿の傍にはふりかけのビンがあるはずです。でも、この日はありません。だって、さっき、からっぽにしちゃったから。
 いつもなら、もしふりかけのビンがなかったら、「んあああああっ!」(ふりかけ、ないよーっ!)と大文句を言うはずです。けど、神妙な顔でふりかけのかかっていないご飯をちまちまついばむ光太。
 よおく、よおーく分かっています。

 きっと、何年か前なら、たとえふりかけのビンがからっぽになったのを見たからって、それはそれ、これはこれ。食卓にふりかけがないことをその原因の結果とは理解できなかったと思います。
 うんうん、賢くなったなあ。
 反省している様子ありありの光太がいじらしくて、「もー、仕方ないなあ」と買い置きしてあった新しいふりかけを出してしまいました。
 甘いなあと思いつつも。
まあ、いいじゃないか。ねえ。


自分でトイレに行っておしっこできるようになった光太ですが、悠太も誘わなくても自分でおしっこしています。それも、トイレではなくお風呂場に行って。
鼻歌まじり、わざとらしく父や母と視線を合わさないように(でもこっちを意識して)すすす〜っと歩いていく悠太。
「あれ、どこ行くの?」と尋ねても「・・・・」(そりゃあまあ、答えちゃくれないんだけど)
で、悠太の背中を目で追っていくと、行き先はお風呂場。そこでじゃじゃじゃじゃじゃ〜っ。はー、すっきり!とにっこり戻ってくる悠太。
悠ちゃん、トイレはその隣なんですけど・・・(笑)。

偶然かな?と思っていたのですが、いやいや。どうやらお風呂場ですると決めたよう。もちろんトイレに誘えばトイレでしてくれるし、お風呂場でしても、水で流せばいいだけだから別にいいっちゃいいんだけど・・・
なんなんだ、その自信たっぷりな「オレ、できたよ!」って顔は(笑)。
ちょっと違うから。


ふりかけ事件の後日、「黒いりごま事件」が起きるのですが・・・
黒ごまはさすがに光太にとっても「食べ物」ではなかったようで、悠太と二人で「うひょひょ〜!」と遊んでいました。
幸い土曜日で夫がいたので、怒り役も片付け役も夫まかせ。私が怒ると、本気で子どもが怯えますから、私はあえて傍観。
「こらっ!ダメでしょっ!もぉーっ」
そんなんで、あいつらが聞くかい(笑)



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