頑張ってるよ


 光太の下の前歯が一本抜けました。
 悠太のときのように、新しい歯が生え始めているわけではなく、「あれ?なんか歯の位置がずれてる(前に出てきている)なあ」とは気付いていたのですが、グラグラしているか、とかチェックもしたことありませんでした。

 それが、歯みがきの後、ガーゼで歯を拭いていると(うがいがまだできないので)、「あれ?血が出てる。あれ?歯がない!抜けた?あれっ、歯、どこ!?」
 光太もヘンな顔をしています。もしかして、歯、まだ光太の口の中?
 「光ちゃん!歯、ちょうだい!ごっくんしちゃダメっ!」
 と言っても、光太に通じるわけはなく、「ちょうだい、ちょうだい」と母に連呼されて、懸命に「お手」してくれる光太(笑)。
 それでも、なんとか口の中にあった歯を出して、手渡してくれました。

 わー、光ちゃん、歯が抜けたねえ。おめでとう。
 って、感動薄すぎなんですけど!悠太のときは、あんなに大騒ぎしたのに。
 二番手の宿命だよなあ。思えば、初めての寝返りも初めてのあんよも、なにもかも「初めて」を悠太にとられてきた光太。悠太のときはもろ手ををあげて大騒ぎするのに、光太ができるようになったときにはいつも「ふーん、そっか」って(笑)。
 ちょっと、かわいそう?
 

 さて、学校生活も2週目。
 食欲も落ちて、それはもう、見ちゃいられないくらいげっそりやつれて、朝バス停に着くと泣いていた悠太でしたが、週半ばくらいから泣かなくなりました。
 悠太の中で、何かしらの覚悟ができたのでしょうか?
 学校でも笑顔で過ごせる時間が増えてきたそうです。それとともに、食欲も徐々に上向きに。金曜日には笑顔でバスに乗り込んでいきました。
それを見て、私もやっと一安心です。

家庭訪問と参観日が早速ありました。
特別支援学校とはいえ、学校は学校。もっと杓子定規なのかと思っていたのですが、とても柔軟に対応してもらっています。

光太はふりかけがないとご飯が食べられないのですが、そのふりかけの量も半端じゃありません。ごはんに白いところが見えると、食べる手がストップしちゃいます。
学校の栄養士さんからは、ふりかけは小袋一つまで、とお達しがあったのですが、「それじゃあ、光ちゃんは足りないよね。いい、いい。食べれるんだったら、食べとけ食べとけ!」と、マイふりかけボトルから、がんがんにふりかけをかけてもらっています。

おかわりも基本NGなんですよね、学校って。献立の全体量で必要なカロリーとか塩分とかきっちり計算されてるんでしょうねえ。
でも、おかわりできないぶん、最初からごはんを大盛りにしてもらったり、他のお友達が食べなかったお魚をもらって、お魚好きの光太はちゃっかり二人ぶんのお魚を食べて帰ってきたりしています。

悠太は、先生から「頑張ってるよ〜」といっぱい褒められました。
「頑張って、溜め込んじゃうんだよね」
そう!そうなんです〜!
その場で、イヤー!とか、ギャー!とか言えない悠太(親や長い付き合いの人にはまた違いますが)。大人が自分に何をさせようとしているのか、大人の意図を理解し始めた悠太は、その意図に従おうと頑張ってくれます。

頑張るのはいいのですが、頑張りすぎてストレスどんどん溜め込んでしまって、それでも頑張って耐えてしまう悠太。
その悠太の溜め込んでしまうしんどさを、先生がちゃんと分かってくれている、こんな安心なことはありません。


参観日では、その悠太の頑張りを(もちろん光太の頑張りも)たっぷり見ることができました。
それにしても、学校の1日はすごい!休憩をしっかりはさみながらも、ぎっちりのスケジュール。朝の会やって、中庭で遊んで、パズルにゲーム、体力づくりの体操と平均台とマット運動(といってもでんぐり返り)やって、シーツブランコに手遊びいっぱい。
参観はそこまでだったけど、午後は小学部全体で新1年生の歓迎会があったそう。
まー、濃い中身だこと。
K学園時代の1週間分のスケジュールを1日に詰め込んだ感じですね。そりゃあ、疲れるわ・・・

光太の教室に入ると、朝の会の最中。
母の姿に気付くやそわそわ、とたんに落ち着きがなくなって「お母さん、抱っこ〜!」
きっといつもは、ちゃんとやってるんだろうになあ。
その後の授業も、母を見つけては「抱っこ!」と駆け寄ってくる。それを阻止しようと先生のおヒザに抱っこでホールドされると、「ええい、離せ〜!」と先生をガブッ!していたそうです。
ひゃー、先生ごめんなさーい!

悠太は笑顔で落ち着いていました。
 ちゃんと椅子に座って活動に参加。でも、母の姿を時折ちらっ、ちらっと見てははにかんだ顔でニコッ。まるで、「ボク、頑張っているでしょ!」って言っているみたい。
みんなでパズルの時間も、型はめパズルや絵合わせのパズルなど、先生に手助けしてもらいながら、ちゃんとやっていました(あの悠太が!)。

クラスが少人数というのが悠太にはちょうどいいみたい。悠太を含め4人。他のお友達の様子がしっかり見えるんでしょうね。みんながやっているから、ボクもやろうか、という気になる。
仲良し(?)のお友達もできたらしく、お友達の顔をさわったり、スキスキ〜しにいったり、そのお友達が遊んでいると、なんとなく自分もそばに行って遊んでみたりしているそうです。

参観終了後、給食風景をちょこっとのぞいてみました。
給食は全校生徒がランチルームに一同に集まって食べます。
光太は、大盛りふりかけごはんをパクパク。そして悠太は・・・この日、なんと白ごはんをつまんでは口にしていたのです!もちろん、量は少ないです。でも、ランチルームに入るのを嫌がることもなく、おとなしく座って、ランチルーム全体をマンウォッチング(?)しながら、のんびりと白ごはんを少しつまんではモグモグ・・・

感動です。
白いごはんだけって、家では食べません。最近は、食べなくてもとりあえずお茶碗に悠太のぶんもごはんをよそうのですが、「これはボクのじゃないです」とお茶碗をつき返します。
その悠太が。
エライ!えらいぞ悠太!

夫が、毎日のようにつぶやきます。
「悠ちゃんは頑張り屋さんじゃねえ。こんなに頑張り屋さんだったっけ?」
ほんとうに、ねえ。私も、こんなに悠太が頑張る子だとは今まで知りませんでした。悠太の頑張りは目を見張るものがあります(もちろん光太も)。
あの卒園式前後、そしてそれ以降、急成長の二人です。

この春は、悠太・光太にとって、とってもしんどい春だったはず。いきなりの環境の変化、大人でもかなりキツイです。それを彼らには事前に説明してやることもできないのですから、どんなに悠太・光太が不安だったことか。

でも、それを受け入れる力がある。それを乗り越える力がある。
どんな子どもでも、こんな重度の知的障害のある子どもでも。それは強い、強い、生きる力です。

そして、困難・苦難を乗り越えた後の子どもってのは、こんなに大きく見えるものなのか。自信に満ちて、すがすがしい。ひとまわりも、ふたまわりも大きく、逞しくなった気がします(それって目の錯覚?実際、悠太は痩せて小さくなったんですけどね・笑)。


学校生活も落ち着いてきて、悠太・光太にご褒美。週末はちょっと遠出で、倉敷チボリ公園に行ってきました。
ご褒美もなにも、私が行きたかったからなんですけどね。春休みは人が多いのでパス。行くのならゴールデンウィーク前、と決めていたのです。

高速道路を下り倉敷市街地に入ると、悠太はどこへ行くか分かったらしく、「うっきゃ〜!」どんどんテンションアップ!
結構な曇天、風が吹けば肌寒いけど、震えるほどでもない。こんな天気のせいか、ゴールデンウィーク前という時期のせいか、園内はがらがら。
おかげで、乗り物も待ち時間なしで乗ることができました。

観覧車とメリーゴーランドに乗って、とりあえず昼食。レストランに入って、ピザとパスタと山盛りのフライドポテト。うーん、定番のオーダーだ・・・
子どもはやっぱりポテトしか口にしませんが、店内飲食ももう何の心配もありません。

昼食後、メリーゴーランドにもう一度乗って、次に子どもが向かったのは急流すべり。えー、やめとこうよー、絶対こわいってばー。
でも、悠太・光太はやる気まんまん。待ち時間もないし、まあいっか、と乗ったのですが・・・

最初は二人ともニコニコ。けど、どんぶらこ、どんぶらこと行くうちに、次第に怖くなって、不安になってきて・・・クライマックスは急流ざっぱーん!はたと子どもの顔を見ると、二人とも顔面蒼白。
だーかーらー、やめとこうって言ったじゃない。もう。

その後はどんな乗り物に乗っても、特に光太が「これって怖い?怖い?」とびびりまくり。チボリ鉄道にもびびって、父の首に両手を回してしがみつく光太。って、あんた、乗ったことあるでしょ!

それまでおんぶをねだることもなく、ちゃんと園内を歩いてくれた悠太も電池切れ。グズグズ、おんぶ〜とテンション↓。早々に帰宅の途につくことに。

メリーゴーランドに乗る二人
急流すべりの途中。余裕の光太。 急流すべりの後。びびりまくりの光太。


公園を出る前に、売店で風船を買いました。ヘリウムガスが入っていて、ふわふわ浮かぶ、あの風船です。
最初に園内に入ったとき、真っ先に悠太が風船に興味を示して、すごーく欲しそうな顔をしていたのです。
くーっ!この日を待っていた!

この、ふわふわ風船、実は私の憧れなのです。
私が子どもの頃、お祭りなんかでよく見かけるこの風船(昔は決まってうさぎちゃんの形でしたねえ)、欲しくて欲しくて・・・でも、おねだりしても、買ってもらえませんでした。「高いから」とか、「すぐにダメになるんだから」とかって。(もしかしたら何度かは買ってもらったかもしれないのですが、記憶にない。記憶にあるのは、買ってもらえなかった悔しい気持ちだけ。)
欲しくても手に入らなかった・・・その幼少の頃の気持ちを今もひきずっているのです。

今でも、ふわふわ風船が大好き。あの風船に詰まっているのは、ヘリウムガスなんかじゃない。夢です。幸せです!
いくら大人になって、自由になるお金を手に入れたからといっても、さすがに自分のためにふわふわ風船を買ったことはありません。けど、自分の子どもが欲しがったら、絶対に買ってあげようと思っていました。

なのに・・・欲しがらないんですもの、うちの子ってば。ぜ〜んぜん興味がないんだもの。
「風船いらない?いらない?」と聞いても、ふいっとどこかへ行ってしまう。さみし〜い。
それがやっとこの日、興味をもってくれた。欲しがってくれた。よっしゃ!買ったるでー!

ふわふわ風船、2個お買い上げ。
悠太、大喜びで、きゃいきゃい言いながらジャンプ、ジャンプ!
ほ〜ら。こんな笑顔が見れるなら、1個300円の風船なんて安いものじゃないの。この笑顔だけで、値段のもとを取っているじゃない。

風船が気に入った悠太


ところが。
車に乗り込むと、光太もニコニコ、うれしそうに風船で遊び始めました。
ちょっと光ちゃん、大事に扱ってよ!
光太は扱いが雑なのです。爪立てるわ、歯をたてるわ。
そして15分もしないうちに、後部座席から、ぷしゅううううう〜っという音が聞こえてきて・・・

あああああ。ああ、ああ。こんなに悲しいことがあるかいな。自然にしぼむのならまだしも。300円で15分。私の夢が、幸せがしぼんでゆく・・・嗚呼。(笑顔だけでもと取ったんじゃないのか?)

もう1個はなんとか家に帰るまで私が死守しました。
家に帰ってもニコニコで風船とたわむれる二人。うふふ。うれしいね、楽しいね。そして、30分もしないうちに、今度はパーン!と破裂音が。破裂音?破裂音ですって!?
「・・・・・・・」
ハイ、ふわふわ風船終了。
私の夢と幸せはあっけなく壊れて消えてしまいました。
ゴム風船じゃないのに、破裂するんだね〜。あはは、あはは。
もうやだ、こいつら(涙)。

まあ、一時でも楽しめたんだからいいか。
と無理やりまとめてみました。
さあ、この調子で(どの調子だ)来週も頑張ろう!
もうすぐゴールデンウィークだ!夫はGWもカレンダーどおり出勤だ!えーん。

森林公園に遊びにいきました。
桜をバックにお母さんと光太。
ロープのジャングルジムで豪快に遊ぶ悠太。
足が浮いています。


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