ミラクル卒園式


 卒園式が近くなると、なんだか親もそわそわしてしまいます。
 なんてったって、我が子の初めての大舞台ですからね。
 夫も、毎日のように「寂しいねえ、寂しいよお」とつぶやきます。

 事前に卒園式のプログラムをもらいました。それに「おもいでのアルバム」の歌詞が載っていました。
 「いつのことだかおもいだしてごらん あんなことこんなこと あったでしょ〜♪」って歌です。(この歌のタイトル、初めて知った!)
 式の最後に、みんなで歌うのだそうです。
 
 うれしかったこと おもしろかったこと いつになっても わすれない
 もものおはなも きれいにさいて もうすぐみんなはいちねんせい

 もー、この歌詞を見ただけで涙が出て・・・
 あんなこと、こんなこと、ありました。うれしかったこと、おもしろかったこと、山のように。
 珠玉の3年間でした。

 寂しいね、寂しいよ。
 でも悠太と光太は、あともう少しでK学園とも先生たちともお別れ、ってことが分からない。
最後の日になって、大好きな先生とバイバイしても、それが最後なのだと知らない。また明日も、春休みが終わった後も、大好きな園バスに乗って、K学園に行けると思っている。
その無邪気な笑顔が切ない。


さて。
卒園式、子どもにとっても初めての大舞台なら、親としても初めての大舞台です。子どももスーツを着て、夫もスーツを着て、私も黒のフォーマルを着ておめかしして。
「やっぱ、私もきれいにしとかんとなあ」と、卒園式の4日前、美容院に行きました。髪を切って、カラーしていた生え際がかなり黒くなっていたので染めなおして、すっきり。よしっ!

奥さんの変化に無関心な旦那さんも巷ではいるようですが、うちの夫は、髪を切っても、新しい服を買ってもいつも「似合うよ、かわいいよ」と言ってくれる人です。
なのですが・・・・
あれ。髪を切った翌日の朝、「おはよう」と言ったっきり・・・何も言わない?
 気付いてない?いや、でも、髪の長さも結構違うし、髪の色もきれいになったのに?
 けど、その日の夜も、その翌日も、そのまた次の日も、夫は何も言わない。まじで気付いてない?えええっ?そんなのあり〜?

 「あ〜、お母さんが髪切ってるぅ。かわい〜い」
 夫がそう言ったのは、髪を切った4日後、卒園式当日の朝。私が化粧をして、フォーマルに着替えた後です。
 おい、やっと気付いたんかい。

 そりゃあね、夫が私と顔を合わせるのは、私が化粧もしていなくて、髪も洗いざらしやぼさぼさの夜か早朝かですよ。
 それを差し引いても・・・気付かないなんてねえ。それだけ、私を見ていないわけですよ。関心がない。関心がなくなってきている。

 奥さんの髪型の変化に気付かない旦那さん。それってどうなの?ありえないーと思っていたら、あ、うちもやんか(笑)。
 結婚してもうすぐまる7年。夫婦ってそういうものなのね・・・
 また、4日後に気付くってのが微妙でね(笑)。ギリギリセーフ?


 そんなこんながあった、卒園式当日。
 光太は、着慣れない、襟元までかっちりとしたシャツにかなりご立腹。スーツもイヤイヤ、そこを無理やり着せて出発。
 悠太はご機嫌ニコニコ。車から降りて、園への道のりもウキウキで歩きます。「お父さん、おんぶー!」の光太はいつものことで。

ニコニコで会場に向かう悠太。


 園へ着くと、先生方も黒のフォーマルでお出迎え。
 ここからはクラスごとに行動するので、私は悠太と、夫は光太と二手に分かれます。
 悠太は、クラスのお部屋から卒園式会場の二階ホールまでの移動も、私と手をつないですんなり、ニコニコ。なんだかとっても頼もしい、かっこいい!

 二階のホールは、いつもはたくさんのおもちゃ、大きなトランポリン、ボールプール、いろんな遊具でいっぱいの遊び場です。
けど、そこへ入ると、今日は雰囲気が違う。クリスマス会やおひなまつり会とも違う。ずらーっとイスが並んで、人がいっぱいざわざわしていて、先生たちもみんな黒い服。「ギャー!イヤー!」となっても仕方がないと思っていたのですが・・・
あれ?悠太がニッコリ。なんか、この雰囲気を楽しんでるっぽい?

まずはクラスごとの記念写真撮影。
集合写真といえば、悠太は抱っこですよ。
嫌がる悠太を無理やり抱っこして、せっかくの一張羅、親子でよれよれになりながら、笑顔も引きつったまま、ハイ、チーズ!のはずが。

何ごと!?悠太が、用意されていたイスにすんなり座るではありませんか!
信じられない思いで私は悠太の後ろに立ちます。写真撮影が終わるまで、悠太はちゃんとイスに座っていてくれました。
おかげで、子どもは前列のイスに並んで座り、親がその後ろに立つ、という普通の記念撮影ができちゃいました!すごーい!

光太も、最初はイスにすわっていたのですが、撮影直前になって「やっぱりお父さ〜ん」と抱っこ。ま、それでもいいよね。

 クラスごとに分かれて着席。子どもの隣に親が座ります。
 ここでも悠太はイスにすんなり座っちゃいました。それもニコニコで。それだけで信じられない思いです。
 とりあえず、「その場にいること」が目標だったのです。
いつもと違う雰囲気です。しんどいです。イスに座れなくてもかまわない。ホールの後ろのほう、すみっこのほうでもかまわない。それでもしんどかったらホールから出てお部屋で遊んでいようか。
そんな感じだったのです。

でも悠太、明らかにその「いつもと違う雰囲気」を楽しんでいます。
光太は光太で、ニコニコ。今から何をすればいいか分かっているらしく(練習したもんね)、式の始まる前からステージの上に歩いていったり、やる気まんまんです。

式が始まりました。
 悠太の席、光太の席のすぐそばが、証書を受け取りに行く通路のレッドカーペットになっていて、二人ともその感触がお気に入り。その上にごろ〜んとして他のお友達の行く手を阻んだり、何度もはいはいしてステージまで突進しそうになったり、それを食い止めるのに私も夫も忙しかったのですが、それでも、たしなめると悠太はイスに戻って座り、光太はお父さんの膝に座ってニコニコ、終始落ち着いています。

光太とお父さん。

 光太は何をすればいいのか分かっているので、自分の順番が来る前からまだかまだかと前に出ようとします。そのたびに「まだだよ」と引き止めます。
 ちょっと待ちくたびれちゃったかな。順番までは分からなかったね。
 光太の名前が呼ばれる頃にはすっかりやる気を喪失していて、練習のようにはうまくできなかったけれど、なんとかステージに上がり、仏頂面でも証書を受け取ることができました。
 証書を受け取った後は、「ほうっ。やっとオレの仕事は終わったぜ」とばかりにリラックスする光太でした。

仏頂面の光太。 クラスに戻って上手に受け取りました。


 悠太の名前が呼ばれました。
 悠太を立たせ、「ほら、行ってこい!」と前へ押し出します。2、3歩前へ進み、「このまま行ってくれるのか?」と思ったところでくるり!「やっぱ、やーめた」と身を翻して母のもとに戻ろうとする悠太。
 そこへ助っ人先生登場、先生に手を引かれステージ前まで。先生に背中を押された後は、自分でしっかりステージへの階段を上り、証書を受け取りました。
 証書を手にステージから下り、立ち止まり、たっぷり拍手をもらい(笑)、自分の席にニッコリ、とってもいいお顔で戻ってきました。
 やったぞ、悠太!かっこよかったよ!
 
上手に証書をもらいました。悠太。


 こんなに、二人ともちゃんとできるとは思っていませんでした。
 いくら練習でできていても、本番は雰囲気が違います。先生からも、本番では難しいかもしれないね、と言われていましたし、私も夫も「絶対無理!」と思っていました。
 でも、「練習でできた=できた」のだから、それで良し!それで十分だと思っていました。
 けど、式の後先生も言われていましたが、みんな、本番に強い!

 悠太・光太だけでなく、みんな頑張りました。
 普通の幼稚園や保育園のように、みんながぴしっと整列して、礼儀正しくしているわけではありません。ぴしっとした式も、それは立派で、子どもの成長を実感できるでしょう。
 私自身、そんな「ぴしっとした」式しか知らない、のんびりちゃんたちの式を見るのは初めてだったのですが・・・

 すごく楽しかったです。子ども一人ひとりがそれは個性豊かで。
 のんびりちゃんの中にあっても、しっかりお返事できて、証書を両手で受け取れて、おじぎまで完璧にできる子もいます。
 でも。

 いつもと同じようにおちゃらけて、ママのカバンを抱えてステージに上がりそうになった子、式の雰囲気が怖くて、いやで、「帰りたい、帰りたい」とグズグズ泣いていたのに、自分の名前が呼ばれるや、ものすごい勢いでステージに上がり、証書を受け取った子、耳をふさぎつつ頑張った子、意気揚々とステージに向かって行くと思いきや、そばで写真をとっていた先生のもとへ行ってしまった子、なかば先生に引きずられるようにしてステージに上がった子・・・

 もうみんな、かわいくて、かわいくて、一人ひとりの姿が素敵で。
 「みんなちがって、みんないい」そんな言葉がこんなにもぴったりくる。
 結局、ほぼ全員がステージに上がって証書を受け取れたのです。
 やっぱり、年長さんってすごい!みんな立派!

 涙ぐむ先生、お母さん、お父さんもいらっしゃいまいした。思わず、もらい泣きしそうになってしまいました。
 でも、今日は笑っていようと思いました。
 だって、こんなに楽しい式なんだもの。こんなに悠太・光太が立派に、頑張ってくれたんだもの。
 悠太・光太の門出の日なんだもの。
 「おもいでのアルバム」も笑って歌うことができました。

 でも実のところ、一粒でも涙を流したら、手をつけられないくらい号泣しそうだったからなんですが(笑)。
 「卒園式が終わってもあと3日通えるし、まだ余裕、余裕」なんてウソ。精一杯強がってみました。

 先生が作ってくれたアーチをくぐって、退場、式も無事終了。
 クラスのお部屋に帰って、プレゼントをいただきました。保護者会からは、名前入りの鉛筆、そして先生からは手作りのフォトフレーム。うれしい!

 本当に温かい、まさにミラクルの卒園式でした。
 こんなに素敵な卒園式をありがとう!
先生がた、そして子どもたちに感謝の気持ちでいっぱいです。

そして、悠太、光太。卒園おめでとう。
3年前は、箸にも棒にもかからなかった君たち。クラスの活動にも全く参加できず、お部屋の水道でひたすら水遊びしていたり、園庭で一人、砂遊びしていたり生垣の葉っぱをいじっていたり。
そんな君たちを見るにつけ、お母さんは悲しかった。

でも、そんなお母さんにある先生はこう言いました。
「あんなふうにしている悠ちゃんも、光ちゃんも、あれはあれで必要な時間なんでしょうね」

 あれが?必要な時間?
 お母さんはそのときは先生の言葉の意味がわかりませんでした。
 でも今なら分かります。そして、心からそうなんだなあ、と思えます。
 あれは、君たちにとって必要な時間だったんだね。
 誰にでも言えることだけど、無駄に見える時間も、遠回りした道のりも、決して無駄じゃない。すべて必要なものなんだよね。

 人一倍どころか、十倍、百倍、のんびりな君たち。
 そんな君たちが3年後にこんな奇跡を見せてくれるなんて。
 ううん、奇跡じゃないね。
 3年間頑張った証が、この卒園式の姿だったんだよね。
 君たちの頑張りに脱帽。
 君たちを尊敬します。

 
 尊敬はするけれど。
卒園式すべてが終わって解散した後、光太は一目散に園庭の砂場へ突進。一張羅スーツ姿のまま、砂をつかんでは頭から砂をザーッ。
おいおい、光太、勘弁してくれよ(涙)。
やっぱりおバカはおバカのままなのですね。トホホ。


そしてこの日のお昼ごはんは、祝!卒園記念ファミレスデビュー!
今まで、マックデビュー、フードコートデビューは果たしていたものの、ファミレスにチャレンジする自信がありませんでした。ダメだったときのお財布も痛いし〜。
 でも、今の悠太・光太ならいけるんじゃないか、と。
 ココスの500円券もあったし(笑)。

 ココスに到着。
 そりゃあ入ったこともないお店ですから、少々ご立腹です。でも、メニューを見せてちょっと納得。どうやら、ここでご飯を食べることがわかったかな?
 おなかもすいて、ちょっとイライラ・・・そのとき、運ばれてきたお水を一口ごっくん。
 「うひゃー、冷たい!」
 氷の入った冷たいお水が気に入ったよう。すっかりご機嫌、にっこりの二人。

 これってすごい!なにせ悠太なんて1年くらい前までは、あったかミルクオンリーの子たちだったのですから。
 冷たいお水をおいしいと感じるなんて、すごいね、よかったね。

 オーダーしたのはフライドポテト、ミートソーススパゲティにピザ。ほぼ、手づかみOKのものばかりです。
 ほどなく料理が運ばれてきて・・・悠太・光太はフライドポテトをパクパク、にっこり。
 今、スパゲティブームの悠太。食べてくれるかなーと思っていたのですが、残念ながら、二人ともスパゲティには手をつけませんでした。
 うーん、スパゲティ、まだお外で食べるぶんには、垣根が高かったか。フライドポテトほど安心感がないんでしょうねえ。
 でも、ピザには興味しんしん。はしっこの生地の部分を結構かじっていました。

悠太,光太の初ファミレス。


 食べられたものはフライドポテトだけ、だけど、ファミレスも余裕でクリア!
 おなかが満たされてうれしくなって、ちょっと(かなり?)ゴソゴソしたり座席の上でぴょんぴょんしたり、軽〜く(かなり?)人目を引くくらいお行儀は悪かったのですが、店内を暴走することもなく、店から逃亡することもなく、親もゆっくり食事を楽しむことができました。

 ま、外食マナーはおいおい覚えていってもらうとして。
 しばらくは、「ちょっと、なに、この子たち!」と思われるかもしれませんが、明らかに普通でないお子たちですからね。温かく見守ってやってもらえたら、と思います。
 マック、フードコートに続き、ファミレスも。
 悠太・光太の世界がどんどん広がっていくね。

 彼らが3歳の頃だったか、外食させたくて(自分が外食したくて)、無理やり頑張ったことがあります。経験させないと、いつまでもできないから、と。
 でも、ダメでした。全然。
 悠太・光太も周りが見えていなくて、分からなくて、しんどいだけでした。子どもがしんどいと、親もしんどい。自信喪失。撃沈。

 何を焦っていたんだろうなあ、と思います。
 ほかの子が外食できるから?
 ほかの子と悠太・光太は違うのにね。
 ほら、3年たったら外食だってへっちゃらさ!

 何事も、時期があるのですね。時期が満たないまま何かをやろうとしても、空回りするだけ。
 時期を待つ大切さを教えてくれたのもK学園でした。
 3年待ってだめだったら、5年まちましょ。
 5年待ってだめだったら、10年まちましょ。親の仕事は待つことさ。
 10年待ってだめだったら、20年?
 そりゃー、ちいとしんどいかのう(笑)。
 まあひとつ、私たちが生きているうちに、よろしく頼むぞ、悠太、光太。


 家に帰った後は、大きな丸いケーキで「そつえんおめでとう」お祝い。
 とことんお祝いしちゃうもんね!
 カットしたはしから、ケーキのクリームをがっつく「野獣」光太なのでした。

 K学園に通えるのもあと3日。
 最後まで、元気で頑張ろう!

丸いケーキでお祝いしました。 卒園の記念品を頂きました。



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