ドタバタ3月(前編)


 文字通り、3月に入ってからというものドタバタで、あっという間に毎日が過ぎていっています。

 3月初めには特別支援学校の入学面接がありました。
 12月に一度行っているものの、そのときは先生数人と私たち親子だけの面談でした。今回は入学予定者全員(といっても十数名)が集まります。さ〜て、悠太・光太はどんな反応を示すことやら・・・

 と思っていたのですが、半ば予想外、半ば予想通り。
 学校に着いて車を降りると、意気揚々と校舎に向かって歩き出す悠太。きっと彼の頭の中には、前回の面談のときに遊んだ体育館のトランポリンがあったのでしょう。「また、あのトランポリンで遊ぶんだ〜♪」
 「なんでこんなとこ来るの?」と不安げな顔で父の背にしがみつく光太、これはいつものことで。

 ニコニコで校舎の中へ入った悠太の顔が、一瞬にして固まりました。
 ずら〜っと先生が並び、たくさんの人、人。明らかに尋常じゃない雰囲気(そりゃそうだ、入学面接だもん)。
 受付を済ませるとすぐに、親は説明会場、子どもはプレイルームへと別れます。
子どもには名札をつけて、お父さんお母さんとバイバイ。ところが。
名札をつけようとすると、悠太、逃亡!「なにすんのっ!なんなの、これ。いやああああああっ!!」
まあ、その逃げ足の速いこと。なんとか追いついたものの、「なにか、わけの分からないことをさせられる」雰囲気を察知して、「オレによるな、さわるな!」と指一本触れさせてもらえません。
最大級の悠太の抵抗です。

それでもなんとか悠太を捕獲、名札をつけるのはあきらめて、そのままプレイルームへ連行。
プレイルームには大きなエアートランポリン有り、ボールプール有り、いろんなおもちゃ有り。これなら悠太も大丈夫・・・だといいんだけど。
光太は緊張しつつも、割とすんなり父とバイバイできたそうです。

夫と私は二手に分かれて(なにせ二人ぶん)面談や保険調査、スクールバスの打ち合わせ等々。
約1時間半後、プレイルームにお迎えに行ったのですが・・・

悠太、いた。
「なんでオレはこんなところにいるの」と全く不安が消えない固い表情のまま、エアートランポリンに座っていました。温かいお部屋なのに、ダウンジャケットも着たまま。きっと脱がせようとしても、不安で、怖くて誰も近寄らせず、触らせなかったんだろうなあ。
父母の姿を見ると、一目散に「帰ろうよー!」としがみついてきました。

先生の話をきくと、エアートランポリンでは機嫌良く遊んで、時折笑顔も見られたそう。けど集団の設定遊びでは、全く集団の中に入ることができず、部屋の隅っこでみんながやることを見ていたとのこと。
あーあーあー。目に浮かぶわ。

一方光太はこの日絶好調!
初対面の先生にもなつき、先生の引く台車のバスに乗って校内探検をしたり、いろんな遊びをしたそう。お迎えに行ったときも、「オレ、まだ遊ぶもん」とやる気まんまん。
トイレでおしっこもちゃんとできて、先生にも手放しで褒められました。

しかし・・・悠太。
今まで感じることの無かった不安が一気にこみ上げてきました。
あまりに最近の悠太が安定していて、園でも頑張っていろんなことができていて、お家でもいい子で・・・忘れていたのです。
そういえば、悠太ってこういう奴だったわ。
わが道を行く、強制されることが大嫌い。

園でいろんなことができているのも、時間をかけて築いていった先生との信頼関係があってこそ。
見知らぬ場所、見知らぬ人の中に放り込まれて、彼がその見知らぬ人の指示に従うはずもありません。
 そんな扱いづらい悠太の性格も、悠太の個性として今までは温かく見守られてきたのですが・・・
 果たして、特別支援学校とはいえ、この悠太を分かってくれる先生と出会えるのだろうか?

 
 そんな不安をよそに、日々はどんどん過ぎていきます。
 3月半ばには園生活最後のクラス母子遠足がありました。
 光太のクラスは、なんと徒歩での遠足!
 園近くの(といっても、子どもの足で30分はかかる)公園へ歩いて行きました。

 今まではの遠足は全部バス遠足で、徒歩は初めて。
 最初、徒歩遠足というのを聞いて、「ええええええっ!」とどん引き。
なんと、無謀な。こんな、理解できているかどうか分からないのんびりちゃんたちを歩かせるなんて。
第一うちの光太が知らない道を歩くわけがない。たとえ知っている道でも、どんな短い距離でも「おんぶ〜」ですから。
 30分おんぶで歩くなんて、無理。絶対無理!
 他のお母さんたちに聞いても、「うちの子、歩かないかも・・・」という人が多数。

 けど、もしかしたら、頑張れるかもしれない。
クラス内での集団活動もできている光太です。みんなで歩いたら、光太も歩けるかもしれない。
そんな、ほのかな期待をもって、クラス遠足に挑んだのですが・・・・

おい、こら、光太。
出発前からおんぶってどういうことよ。
いつもと違う雰囲気を察して、がしっと背中にしがみつきます。
そして、いざ出発してみると・・・
おおいっ!!光太意外、みーんな、みんな、お母さんと手をつないでちゃんと歩いてるじゃないかっ!
なにが、「うちの子、歩かないかも・・・」じゃ。嘘つきー!
最後まで、徒歩遠足に頑強にブーイングだった私。
「ほらみろー!うちだけじゃないかー!」叫びましたわよ。
情けないったらないですよ。

先生は「まあ、まあ・・・」と言いながら、おだて、なだめすかし作戦でどうにか光太を歩かせようとします。
光太の意思は屈強です。
おんぶしてくれないのなら、絶対に動くもんか!と座り込み、へたりこみ、寝そべり・・・まずは抱き起こそうとするのですが、その手を「やめてください!」と払いのけ。

それでも何とか立ち上がらせ、光太の両手をとって、「はいっ、光太くん、歩こう!いっちにっ、いっちにっ」
けど光太は、くっと下を向いて固まっています。
出発してから3メートルで遠足リタイアか!?

すると光太が、先生に手を引かれ、渋々、渋々、渋々、深く顔をうつむいたまま、足を数センチずつ動かし始めました。
2、3メートル進んでは立ち止まり、「おんぶ!」→座り込み→無理やり立たせ数歩→「おんぶ!」を幾度繰り返したことか。

なぜこんなところを歩くのか、どこへ行くのか分からない(目的地の写真は見たのですが、その道のりが分からない)不安でいっぱいいっぱいの光太。
けど、しばらくすると顔が少しずつ上がり、表情も緩んできました。
やっと周りが見えたかな?クラスのお友達もみんな、歩いてるね。じゃあ、光太も歩こうか。

時々「おんぶ!」「抱っこ!」と訴えながらも、「ちぇっ、ダメか・・・」と歩き出す光太。
住宅街の道をご一行様、てくてく。
ずら〜っと家が並んでいて、光太、何を思ったか、一軒のお家の前で立ち止まりニッコリ、「こんにちは〜♪」と門扉の中に入ろうとします。おい、君の遠足の行き先は○○さん家かい。
「光ちゃん、そこは○○さん家だから」と先生に突っ込まれると、「そっか。違ったか」とそのお隣の家へ「こんにちは〜」(笑)
「そこは、△△さん家」
「なんだ、ここでもないのか」
そうして、そのまたお隣の家へ「こんにちは〜」
そんなに早く遠足を終わらせたいか、光太。

道が下り坂になると、ニッコリ、猛ダッシュ!先生もあわてて追いかけます。私は、「先生、まかせたよ〜」とのんびり。
途中、やっぱり「抱っこ〜」で仕方なくちょっとだけ(先生が)抱っこしたものの、なんとか頑張って公園入り口までたどり着くことができました。

が、ここの公園、公園入り口からがちょっと距離がある。おまけに上り坂。
今までの道のりで体力、精神力を使い果たした光太は、公園入り口にどっかと座り、先生や母に背を向け、砂遊びを始めてしまいました。
明らかに、「もう一歩たりとも動かんぞ」オーラが出ています。
あともう少しだったのに・・・

でも、ま、いいか。頑張ったもんね。
ということで、最後の最後になって、こんなこともあろうかと配備されていた先生の車に乗って、公園に到着。
去年のクラス遠足でも来た、タコさん滑り台のある公園です。
去年はこの滑り台で夢中で遊んだのですが、さすがに今回は歩くだけで疲れたようで、人のいない、静かな場所でまったり。

帰りはみんなで園バスに乗って帰りました。
よく頑張った!
いい思い出になりました。

光太とゴリラ。空城山公園にて。


翌日は悠太のクラス遠足。
悠太のクラスはバスで移動。大きなローラースライダーのある公園へ行きました。
この公園へクラス遠足で行くのも4度目。悠太もしっかり見通しがついているらしく、移動もニコニコ。終始落ち着いています。

今まではローラースライダーにも楽しそうな大型遊具にも目もくれず、淡々、黙々と砂遊び・・・が悠太のスタイルでした。
が、今回悠太はアクティブ!びっくりするくらい、大型遊具をかけまわります。
ほお。変われば変わるもんだなあ。

ローラースライダーにも興味を示しました。
そんな悠太の姿を見た先生が、おもむろに悠太をかつぎあげました。「なに?なに?」とあわてる悠太を「まあ、まあ」となだめつつ、ローラースライダーの入り口目指して、斜面をえっさほいさと登ります。私もあわててその後を追い・・・
ローラースライダーにチャレンジ!
「ボク、いいですから!」とびびって逃げようとする悠太をつかまえ、私の膝の上に座らせ、レッツゴー!ひゃっほう!

滑り終わって、ほっ。
悠太は大丈夫かな?怖かったかな?
すると悠太が私の顔を見上げ、にんまり。「さあ、お母さん、行きましょう!」
ローラースライダーにはまっちゃった〜!

この日私は何度ローラースライダーに付き合わされたことか。へとへとです。
一人で滑れればいいんですけどね。そこはやっぱり、傍についていないと危険ですから。悠太も、自分ひとりで座って滑るのは怖いんです。母の膝じゃないとダメなんですって。
でも、園生活最後の遠足、思う存分楽しめて良かった!

(後編へつづく)

おやつ待ちの悠太。遠足にて。



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