医者いらずのはずが・・・

 天は二物を与えずというが、悠太と光太はいたって健康だ。
0歳代、1歳代前半まではそれなりに熱を出したり嘔吐下痢症になったりと、一通りの病気をして医者のお世話にもなったのだが、1歳代後半になると、とんと病気をしなくなった。あっちこっち外へ連れ出しているものの、昨シーズンの冬も熱を出して寝込むことはなかった。風邪をひいたとしても鼻水をたらすぐらいで、本人たちは元気いっぱい。周りのお友達は「風邪ひいて熱が出たのよー」という話をしょっちゅう聞くのだが、そんな話を聞くにつけ、「うちの子は元気だなあ・・・」とつくづく思っていた。また、そんな医者いらずのわが子が密かな自慢でもあった。
 この冬も今まで鼻風邪をひくぐらい。このまま無事終わると思っていたのに・・・
 それは突然やってきたのだ。

 3月15日・月曜日の夜。
寝かしつけようとすると、光太が妙にまとわりついてひざまくらをせがむ。おかしいなあと思いながらも、「もー、うっとうしいなあ、あっち行ってよ」といつもの調子の母。そうこうしているうちに、いつもは夜10時になっても11時になってもなかなか寝ようとしないのに、9時前にすーっと眠ってしまっていた。
「あれ?おかしいなあ」と思いながらも、「しめしめ早く寝てくれたぞ、ラッキー!」
後は悠太だけだ。
 いっこうに寝る気配のない悠太の相手をしているうちに10時を過ぎ、寝ていたはずの光太が泣きながら起きてしまった。
「どうしたの?光ちゃん」と抱きかかえる。そこで初めて、光太が火の玉のように熱いことに気がついた。
 普段あまり熱を出すことがない、ということはこういう事態にも慣れていない。
とりあえず、熱さましの座薬を入れてその晩は様子を見たのだが、座薬を入れてもいっこうに熱が下がる気配もない。すっかりうろたえる母。

 翌日、小児科に連れて行くと、扁桃腺がはれているということ。扁桃腺のせいで熱が出たのなら悠太にはうつらないな、と一安心。
 元気いっぱいの悠太の相手をしなくてはいけないため、義母に泊りで応援を頼んだ。
 幸い丸二日で光太の高熱も下がり、二晩泊まってもらった義母も帰っていったのだが・・・
 
 18日・木曜日。何か、変なのだ。光太ではなく私が。夕方になり、悪寒がひどくなる。子供をお風呂に入れると、熱めの湯船につかっているのに寒くてしようがない。
これはまずい!と夫にSOSの電話を入れる。7時ごろ夫が帰ってきたときには、すでに38度8分まで熱は上がっていた。光太の熱がうつってしまったのだ。
 私がうつるということは、悠太にもうつるはず。
果たして19日・金曜日の明け方、悠太が火の玉になり泣いて起きてしまった。

 その頃になると、光太は熱は引いていたものの鼻水とせきがひどくなり、夫の付き添いのもと、家族みんなで再び小児科に行った。先生いわく、「ウィルス性のものはうつりますよ〜」早くそれを言って!
 それまで家族の看病を一手に引き受けてくれていた夫も、20日・土曜日の晩に発熱してダウン。
 かくして、家族全員にウィルスの嵐がみまったのだ。

 とにかく並みのしんどさではない。私も食欲がまったく無くなってしまった。
幸い、高熱のあった2日間を除いて光太はしっかりと食事をとっていてくれたのだが・・・
 悠太が、熱が引いた後もまったく食事をとってくれなくなってしまった。
「熱も下がって体が動くようになったんだから、何か食べてみようよ」、と食事を準備するのだが、のどが痛いのか食べようとしない。おなかは空くらしく、食事時になると自分から椅子に座るのだが、いざ、一口くちにすると、とたんに「べーっ」と吐き出してしまう。味覚がいつもと違うのか、舌に乗せた瞬間に拒否してしまう。
食べたい気はあるのに、食べられない、その状況に悠太もパニックを起こし号泣。
「うーん、まだしんどいんだろうなあ」
 そう気をとりなおそうとするのだが、次の日も、また次の日も、一口も食べようとしない。食事時になるとパニックを起こす悠太。

 そうなると、今度は私が精神的に追い詰められてしまった。
 「食べない」トラウマがフラッシュバックする。
 どうしよう、また食べなくなっちゃう。このまま食べられなくなったらどうしよう、餓死したらどうしよう、救急病院に行って点滴してもらわなくちゃ!
 夫は、「まだ悠太はしんどいんだよ、体調が戻ったらまた食べてくれるよ」となだめようとするのだが、私はすっかりパニックをおこしてしまっている。
 「体調が戻ったらって、いつ?もうとっくに熱も下がっているのに!」

 丸3日、飲み物以外を受け付けなかった悠太が、4日目の午後、自分から「ぼうろ」を口にした。おいしかったらしく、ぼうろをどんどん口に運ぶ。
「悠太が食べた!」
 ほっとすると同時に、涙がぽろぽろこぼれる。
「よかったね、悠太。食べられたね!」
子供がぼうろを食べて涙する母なんて、めったにいないだろう。

 その日の夕食から、最初は嫌がったものの、ちゃんと食べてくれるようになった。
「おいしい」と感じる感覚がやっと戻ってきたのだ。一口、また一口食べてはにっこり。

 一番最初に熱を出した光太は、2週間近く経ちすっかり元通り、元気になった。悠太も10日ほど経つのだが、まだもう少ししっくり来ないらしい。外遊びをしていても、あまり走り回ることなく、じっとしている。でも、随分笑顔は戻ってきた。
 病気になって改めて、元気でいてくれることのありがたさが身にしみる。普段は忘れているが、元気でいてくれることが一番の親孝行なのだ。

 でも、しばらく病気はこりごり!!




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