悠太、デビュー!


 クリスマスの翌日の夜のこと。
さあ、明日で2学期も終わりかー、としみじみしていたそのとき。
寝る前の歯磨きをしていた夫が、素っ頓狂な声を出しました。
 「あれ〜?悠ちゃん・・・これ、歯!?何か白いものがコンニチハしてるよぉ」
 えええええええええええっ!!

 なに、なに。どれどれ、見せてっ!
 ニコニコの悠太の口の中を覗き込むと。
 「ひいいいいいっ!」
 下の前歯、乳歯の内側から、永久歯がのぞいてるー!
 ちょっと、どうすんのっ。普通は乳歯がグラグラしてから生えてくるものなのに、乳歯はびくともしていないのよー!

 もう、顔が青ざめました。
 このままでは、歯並びが悪くなってしまう。早く抜いてあげなきゃ!
 ということは・・・歯科へ行かなきゃ!どうしようぉぉぉぉっ!

 悠太・光太も6歳。
 早い子では年中さんのうちから乳歯が抜けて、永久歯が生えています。周りの同い年の子も、「歯が抜けたよ〜」という話をよく聞くようになっていたので、私も随分前から「まだ、歯は動かないかな〜?」としょっちゅうチェックしていました。
 でも、ぐらっとする気配もない。
 びくともしない二人の乳歯に、「まあ、まだまだよねえ。二人とも、乳歯が生えてくるのも遅かったもんねえ」と余裕をかましていたのです。

 私の中のシナリオでは、歯がグラグラしてきて、それを気にする子どもが自分で歯を動かして、動かして、そのうちぽろっと抜ける・・・という筋書きができていました。
それなのに、それなのに。
まさか、こんなこと・・・歯科に行かなきゃいけないことになるなんて!

歯科だけは、絶対に行きたくなかった。
だって、絶対無理だもん!悠太・光太に「治療」なんて理解できないもん!怖くて、泣き叫ぶもん!暴れるもん!お口あーん、なんてできないもん!
 そんな怖い目にあわせるなんて、ダメ。絶対にダメ。
 絶対に、虫歯になんかさせない!
 だから、子どもがどんなに嫌がっても、1日1回、夜寝る前の歯磨きだけは、押さえつけてでも欠かしたことはありませんでした。
 おかげで、今まで虫歯ゼロ。本当にきれいな歯で、歯並びも完璧でした。

 けど、抜歯だけは、歯科に行かなければどうにもならないじゃないか。
 くうううっ。
 診察台で怯える悠太のことを想像しただけで、胃が痛くなります。
 でも、行かなきゃ。

 返す返す、園の先生には「治療するときが初めての歯科にならないように」と言われてきました。
 「虫歯を治すよ」「大人の歯がはえてきているから、子どもの歯を抜くよ」
 そんな理屈が分からない子たちです。
 初めに強烈な恐怖心だけを植えつけられると、歯科の建物の前を通るだけでパニックを起こすようになることもあるそうです。

 なので、一つ一つ段階をふませます。まずは待合室に入るところから、次は診察室へ入れればOK、次は診察台に座る、診察台に寝転がる、そして月1回ペースで歯磨きトレーニング。
 治療は、そうやって歯医者そのものへの抵抗を軽減してからやるのがベストだそうです。

 それは重々承知でした。
 でも、うちはどうするの?
 たまに熱を出して病院にかかるときでさえ、私一人ではどうにもならず、夫に会社を休んでもらわなければならないのです。
 歯科へ行くために、毎月会社を休んでもらう?
 家族で過ごせる貴重な土曜日を歯科に行くのに費やすのは、正直なところ面倒、という気もありました。
 そうやって、歯科へ行くのを先延ばし、先延ばしにしていたのです。
 でも、もう先延ばしになんてできない!

 幸い、我が家から車で5分のところに、広島市でも珍しい(唯一かな?)「障害者対応」とでかでかと看板を掲げた、歯科があります。
 ただそこは、数少ない、障害者が安心してかかることができる歯科ということで、なかなか予約をとることができないという話をきいていました。

 恐る恐る予約の電話を入れてみたところ、かなり先まで予約がいっぱいなのだけど、唯一、その電話した日の午後3時40分から、1件キャンセルが出たのでいかがですか?とのこと。
 なんてラッキー!
 もう、後先考えず飛びつきました。その後夫に電話して、急遽帰ってきてもらって。
 
 はああ。
とうとう永久歯です。大人の歯です。
私だけなのかしら、こんなに気持ちが複雑なのは。
本当に、大きくなってしまうのです。幼児じゃなくなっちゃう。寂しいよお。
小学校1、2年の子を見ると、顔はまだ幼いのに、にっと笑ったら、前歯だけがにょきっと大きくて。そのアンバランスさがどうも気になって。
ああ、もうすぐ悠太もあんなになっちゃうのか・・・

これからどこへ行くか、何をされるか分かっていない悠太。
乳歯の悠ちゃんとこれでさよならなんだね。
悠太をぎゅーっして、送り出しました(私は光太とお留守番)。
悠太、記念すべき(?)歯科デビューです。

ああ、今頃悠太は泣いているだろうか、もう歯は抜いてもらっただろうか・・・
気が気じゃありませんでした。
家を出て約45分後、悠太帰宅。
「どうだったー?」玄関に駆けつける私。
「今日は抜歯は無しだって」
へっ?
 
 歯医者さんいわく、乳歯の内側から永久歯がはえるのはよくあることで、放っておいても大丈夫とのこと。そのうち、舌で生えてきた永久歯を前に押して、乳歯も動き出すから、抜歯はまだ先でも大丈夫なんだとか。
 まずは歯磨きトレーニングから始めましょう、と歯磨きをしてもらって今日のところはおしまい、だったそうです。
 ほっ。
 なーんだあ。焦って損した〜。

 歯科デビューした悠太。
 待合室では比較的ごきげんだったそうです。靴を脱いで遊ぶスペースもあって。
 しかし、いったん診察室に入ったら、さすがに「ボク、何か怖いことされるんだ!」と気付いたらしく、隅っこに逃げて、そばに近寄ろうとする大人を「あっち行け!」と振り払い・・・
 診察台に上がるまでが大変だったそうです。

 診察台ではお父さんに押さえつけられ・・・でも、歯磨きするんだ、ということは分かったらしく、うわーん、うわーん泣きながらもお口をあーんして、協力してくれたそうです。
 えらかったね!

 担当してくれたのは優しい女医さんで、さすが「障害者対応」、夫いわく、泣こうがわめこうが暴れようがへっちゃらな雰囲気だったそうです。
 ありがたや〜。
 きっと悠太なんか「へ」でもない、もっと手ごわいお子様も、日々診察されているんでしょうねえ。

 これを良いきっかけに、光太の予約もとって、定期的に二人の歯磨きトレーニングに通うことになりました。
 高かった、いや、高いと思っていた歯科の敷居も一気に低くなりました。
 最初から、こうやって歯磨きだけでも通えばよかったんですよね。
反省です。
 
 でも、もうしばらく乳歯のままの悠太と一緒にいられるんだね。
うふふっ。良かった。


思いもかけない2007年の終わりの騒動でしたが、これで本当に新年を待つのみになりました。
さあ、来年はどんな年になるかな?
きっと、悠太・光太にとっては試練の年、そして親も忍耐の年になるかもしれません。
でも、それを乗り越えた先の喜び、二人の成長も待っているはず。

遅い筆で申し訳ないながら、また来年も、山あり谷ありの我が家の様子をお伝えしたいと思っています。
どうか、お暇つぶしに「ゆうた・こうた通信」に立ち寄ってみてくださいね。

それでは、
今年1年お付き合い頂いて、本当にありがとうございました。



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