そうだったんだ


 1学期が終わりました。
 1学期の間だけでも、随分と成長した姿を見せてくれた悠太・光太です。

 悠太は園でもミルクを卒業できたし、ズボンを上手にはけるようになりました。
ズボンをはけるようになってアピールの幅も広がってきました。プールへ行きたいときは水着をうんしょ、うんしょと頑張ってはきます。
「えーっ、プール行くの〜?めんどくさいなあ」となかなか親が腰を上げないときは、「もーっ、じれったいなあ。それならこれでどうだ!」ともう一枚水着を重ねばき(笑)。
分かった。分かりましたから。プール行きましょうね、はいはい。

腕力も随分ついてきました。もともと悠太は運動神経がにぶく、へにょへにょちゃん。その悠太が、棒ぶら下がりの楽しさを覚え、10秒以上棒にぶら下がることができるようになりました(今のところの記録は23秒!)。
壁やバランスボールを使っての逆立ちにハマったり。
とってもアクティブな面を見せてくれた1学期でした。


光太にとっては、年長になって担任の先生ががらっと入れ替わり、1学期最初の頃は誰を信頼してよいのやら分からず、ちょっとしんどいスタートのようでした。
けど今では4人の担任の先生みんなになついて、いっぱい甘えさせてもらっています。
中でもH先生は、光太にとって衝撃かつ幸せな出会いとなりました。

今までの担任の先生は、もちろん優しい先生ばかりだったのですが、どちらかといえば「元気いっぱいサバサバ系」。しかし、今年度担任となったH先生は、これでもか!というくらい、愛情たっぷりラブラブ系。
「んもーっ、光ちゃんたら、かわいいんだからっ。うふっ」とハートマークいっぱいつけて光太を包み込みます。
このH先生のラブラブオーラに、光太、完璧ノックアウト。あっという間に、全幅の信頼をH先生に置くようになりました。「これでいいのかな?」と確認をするときも、H先生の顔をちらっ、ちらっと見ては判断します。あの顔は、母の私にも見せたことはないなあ。
大好きなH先生のもと、「H先生が何を言っているのかな?ボクに何をして欲しいのかな?」とH先生を理解したい一心で、いろんなやりとりができるようになりました。
やっぱり、愛の力って偉大〜!
そんなH先生だから、たまにこっぴどくしかられると、効くんだよねえ(笑)。

とにかく、園にいるときの光太は、お家の光太と別人!
大嫌いだった手洗いもできるようになったし(以前はウェットティッシュで拭くのが精一杯だった)、トイレでは自分でズボン・パンツを上げ下げし、帰るときは先生の声かけで自分のリュックを取りに行き、自力でリュックを背負い・・・
移動するときも一人で突っ走って行かないし、クラスの活動にも積極的に参加。
すばらしい!

手づかみ食べもスキルアップ!
光太、いまだにスプーンはほとんど使えません。頑張ってはいるのですが、一口、二口で「こんなもんで食ってられるかー!」とスプーンをぽいっ。手づかみに走ります。
家ではもちろん、園でも、食べたいという意思をまず尊重してあげたい、ということで手づかみ食べは容認です。

で、その手づかみ食べの、食べこぼしが随分減ってきたのです。
ごはんなど、以前は口に入る量が多いか、こぼす量が多いか分からないくらいだったのに。
よーく光太の手先を見ると、絶妙の力かげんでごはんを指先でふんわりつかみ、口へ運んでいるのです。ほーっ。何事も経験、上達だねえ。
インドのように、手で食べるのが本式、って国もあるのだから、ねえ。
よっ、目指せ、インド人!
けど、光太。君が食べるとき使っているのは専ら左手。ダメよ、光太っ。左手は不浄の手なのよーっ!


先日、「ニワトリはハダシだ」という映画DVDを借りて見ました。
去年までは毎週のように映画館で映画を見ていた私ですが、最近はもっぱらDVDをレンタルしています。
もともとレンタル屋さんは苦手です。なぜなら、返しに行くのが面倒!
いくらCDを安く借りられて買うよりお得といえど、返しに行く手間を思うと、レンタルするくらいなら買うほうがまし!という究極の面倒くさがりです。

けど、何年ぶりかにレンタル屋さんに入って気がついた。
この間見た映画が、もうDVDになってるー!あれも、それも、これも。近くのシネコンでは公開されなかったミニシアター系も、新作も、レディースデー千円の半額以下で見られるじゃないか!やるじゃないか、レンタル!

いくら千円のときにしか見ないといっても、ときには月に3本も4本も見るのですから、無収入の主婦の身としてはかなりの出費です。
これはいけない!節約できるところは節約せねば(今更?)。
ということで(説明が長い)、DVDレンタルです。

で、その「ニワトリはハダシだ」
重度の知的障害の男の子が、その桁外れの記憶力を利用されて事件(検察と暴力団の癒着)に巻き込まれ、その男の子を救うために養護学園の女性教師が奔走する、というお話でした。
その男の子、全然「重度」じゃないじゃん、と突っ込みたくなるのは置いておいて(ちょっとトロいだけで、普通に会話できるし、コミュニケーションとれるし。まあ、本当の「重度」では話が進まないんだろうけど)、おもしろかったです。

検察の幹部を守るために、判断能力のない知的障害者に罪をなすりつけて、少年院送りにして、事件の一件落着を目論見る警察。「それは違うんじゃないか」という部下に対して、「こんなこと、よくあることじゃ!」と豪語する上司。
えー、よくあることなの?
お話自体はもちろんフィクションなんだけど。
でも、全くありえないことじゃないんだろうなあ。
重度の知的障害児の母親としては、複雑。

女性教師が養護学園をやめようか迷っていたとき、病身の母親が彼女を諭します。
「お釈迦様が亡くなって何十億年か後に、弥勒菩薩様が救いに来てくださる。でもその前にも、菩薩様は人間の姿になりかわって現れる。
布袋様のようにいつもニコニコした、欲のない、知恵のうすーい、あの(養護学園の)子どもたちのように。
お前は、あの子たち(菩薩様)に助けられている。お前の活きる場所はあの養護学園にしかない。やめたらいけない」
(細かいところはあやふやですが、趣旨はこんな感じ)

そのせりふが天啓のようにおりてきました
いつもニコニコした、欲のない、知恵のうすい。
そうだったんだ。
悠太、光太、あんたたちは菩薩様だったのね!!
なるほどねえ。君たちは、私たちを救いにきてくれたんだね。
 しかしまあ、なんともけったいな菩薩様だこと。

 悠太・光太が菩薩様なんだ、と知ってから、ちょっとした菩薩ブームです。
 「よっ、菩薩。うんち出たか?」
 「ちょっとぉ、菩薩、そこどいてよー」
 「もー、菩薩、さわんないでよ。やめてよっ」
 子どもに悪態をつくときでさえ、なんだか笑えちゃうのですね。ありがたや、ありがたや、と。


 それでなくても、最近悠太・光太がかわいくて仕方がない。
 「これから先、どんどんかわいくなるよー」という園の先生の言葉どおり、年々、日に日にかわいくなる。
 それが証拠に、とうとう、子どもの寝顔に「かわいい〜」と見惚れるようになってしまったのです。
以前はどうあがいても「ブサイク!」としか思えなかったのに。
 やばいなあ。

 先日、悠太をクラスのお部屋に送り届けた後、バイバイして先生と個別懇談に向かうときも、「いやーっ、お母さん、行っちゃだめーっ!!」。
 まるで今生の別れのように、私の姿が見えなくなるまで、窓から顔を出して、手を伸ばして「んあああああっ!」って言っていた悠太。
 
 この間も、悠太がちらっ、ちらっと私の顔を何かもの言いたげに見ている。
「なあに?」と尋ねると、ぱああっと満面の笑顔で、うれしそうに私の膝に座ってくる。なあんだ、甘えるタイミングを見計らっていたのね。

 光太は光太で、うんちをした後のお尻を拭いてあげていたら、おもむろに体を折り曲げ、私の正面にまわりこんできて「チューっ」。
 「お母さん、いつもボクのお尻を拭いてくれてありがとう」
 いえいえ、どういたしまして。
 それはいいけど、あんた、うんちした後、手でお尻の穴さわったでしょ。お手々がくちゃいわよっ!

 かわいくて、面白くて、一緒が楽しくて。
 今までになく、母親としての喜びを実感する毎日です。
 母親だから子どもが慕ってくれるのか、子どもが慕ってくれるから母親になれるのか。
子どもを身ごもったときから母親として目覚める人もいるけれど、私はダメだった。産んだ後も、ずっと。コミュニケーションをとりにくい彼らだったから、余計に自信を失くしていった。
子どもを産んだから母親なんじゃない。子どもが、私を母親に育ててくれるんだなあ。


 もともと私は、思い込んだら一直線、まわりが見えなくなるタイプです。
 溺愛、とはよくいったもの。
 これ以上悠太・光太にのめりこんだら。子どもが、じゃなく自分がダメになりそうでこわい。
 もし、悠太・光太が「いじめ」なんて受けようものなら、はらわたが煮えくり返り、頭は瞬間沸点。前後見境なく逆上して、相手に殴り込みをかけることでしょう。
 もし、悠太・光太に「何か」あったら。
 たぶん、私は生きていない。

 そこで、はたと思いあたりました。
 きっと、どこのお母さんも、温度差はあれ、同じような気持ちで子どもを育てているんだろうな。
 そして、私の母親も、同じような気持ちで私を育ててくれたんだろうな。

 こんなふうに、自分の母親のことを思ったのも初めてでした。
「自分が母親になって初めて、育ててくれた親の気持ちを知る」なんてよく言いますが、私にはそんなことありえない!
 今までは、授かったのが双子だったこと、障害児だったこと、私の子育てのほうが100倍大変だわ(実際そうだったんだけど)、お母さんは私よりも全然ラクだったんだろうなあ、いいよなあ・・・としか思えませんでした。
 「ラクな子育てなんてない、大変な思いをしているのはみんな一緒」と言われても、それは正論、私だって頭では分かっているけど、でも実際、こんな(自分みたいな苦労している)のは、みんな一緒じゃないだろ、と。

 悠太・光太への愛情が深まるにつれ、悠太・光太が与えてくれるものの大きさに気付くにつれ、ささくれだっていた気持ちも少しずつ凪いでいきました。
 そして、無性に母の声が聞きたくなりました。
 母に電話すると、相変わらずマイペースで、実家の犬の話や近所の犬の話を延々としてくれたのですが。
 クンちゃんがどーの(へーっ)、ナナちゃんどーの(ほーっ)、トム君がどーの(ふむふむ)、ビリー君がどーの(あらら)、モモちゃんがどーの(・・・)・・・
 ええいっ、テリー君って誰じゃいっ!分からんわいっ!

 ま、とにかく夏休みには悠太・光太連れて一度会いにいくからね。



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