あわや3人目?!


 あれ?おかしい。来るものが来ない。
 ここんとこ、かっちり狂いなく来ていたのに。
 まさか、まさか?
 身に覚えがあるような、ないような。いや、そんなことあるわけない。ありえない。でも、もしかして?
 いやあああああああっ!

 結局のところ何でもなかったのですが(笑)、2日間ほど地獄の苦しみを味わい、眠れぬ夜を過ごしました。
 たった2日ですが、しんどかった。いろんなことを考えて、頭がぱんぱんになっちゃって。

 今の悠太・光太の状態で、ここでもう一人子どもが増えると、生活できなくなってしまいます。
 核家族の我が家。父と母、二人の大人の手と目があってこそ、なんとかなっている。外に出ても、いつ「抱っこ」「おんぶ」と言って座り込んで動かなくなるかわからない。いつ、二人が別方向に突っ走っていくかわからない。
 大きなおなかで、赤ん坊をおんぶして、全力疾走できるか?17キロの子どもを抱っこできるか?絶対無理。不可能。

 とにかく、今の悠太・光太の生活の質を落とすことだけは避けたい。
 私はつわりがひどいタイプなのですが、あのつわりの最中、子どもの食事だけはつくらなければいけない。それを思うだけで、勘弁。白旗です。
出来合いのものでも食べてくれる子どもなら、いくらでも手抜きができるのですが、「ごめんね、お母さんご飯の支度できなくて」なんて分かっちゃくれませんから。
それに、私以外の誰が、悠太・光太好みの味の食事を作れるというのか。

「別にふりかけご飯でも、毎日カレーでもいいじゃない」と言われるかもしれないけれど、(つわりの期間の)3ヶ月間、ずっとふりかけご飯だけ?
そんなの、私が私を許せません。
子どもがちゃんと食べてくれることが、一番の私の精神安定剤なのですから。

大きなおなかで、どうやって悠太・光太をお風呂に入れる?体を洗うことも、シャンプーも、体を自分で拭くこともできない二人。自分がお風呂に入ることすらしんどくなってしまうのに。

もしまた、切迫早産で長期入院しなくてはいけなくなったら?
それが避けられても、出産のためには少なくても10日は家を留守にしなければいけない。その間の悠太・光太の世話はどうするの?
産後の、床上げまでの間は?
新生児の世話と悠太・光太の世話、私一人でできるの?

数時間や半日なら、遠慮なくおばあちゃんに任せられるけれど、長期は無理。体力的にも、精神的にも無理。だって、やっぱり普通の子どもじゃないんだもの。
毎日一緒に生活している親だから、分かってやれる。毎日一緒に生活していても、何がなんだか分からないことだって、たくさんある。
第一、 あんなでかい図体して赤ん坊とほとんど変わらない、要全介助。
 こんなしんどいこと、親以外の誰ができるのか。

 最終手段として、K学園が経営する児童入居施設に預けるという手があります。一番安心して任せられると思う。けど、それはできるだけ避けたい。悠太・光太を家から切り離すなんて、彼らの負担があまりにも大きすぎます。
 たった1泊の宿泊体験でも、光太はボロボロになってしまったというのに・・・

 絶対に、悠太と光太には迷惑をかけたくない。
 家族間で迷惑云々というのは、いささか神経質かもしれないけれど、でも今まで、悠太・光太を第一に、彼らの気持ちを汲み取って、ゆっくりと、ひとつひとつ、積み木をそおっと積み上げるように築いてきた今の安定した生活を崩すことはできません。
 悠太・光太の、不安で苦痛にゆがむ顔なんて見たくない。絶対に。

じゃあ、どうするか。
堕胎するしかないじゃないか。
でもそんな、そんなこと。
せっかく、私たちを親に選んできてくれたであろう命を殺すようなこと、もっとできない!
でも、生活できなくなるんじゃ、どうしようもないじゃない。

もう、堂々巡りです。

仕方ない。産むしかない。女としてこれで最後のお努めだもの。
夫に、長期休職してもらえれば、なんとかなるだろう。
そう決意したのはいいけれど、そこで最も頭を悩ませたこと。
生まれてきた子が、もし「健常児」だったらどうしよう!!!

次の子がまた障害児だったらと思うと産めない、という話はよく聞きます。最近も、ある掲示板で、それが理由で堕胎する選択をした、という書き込みがありました。その気持ちは痛いほど分かります。
でも私は、次の子が健常児だったらと思うと、そのほうが不安でたまらなくて。

だって。
今まで障害児しか育てたことないんだもの!(単純〜)
健常児を育てるなんて、未知の世界ですから。

園のお母さんたちには、のんびりちゃんのほかに、健常児のきょうだいがいる方がたくさんいらっしゃいます。その話を聞くだけで大変そう。健常のきょうだいのフォローは複雑で、お母さんたちの頭を悩ませる種です。

うちみたいなダブル障害児もまた、大変といったら大変なのですが、ある意味ラクでもあります。悠太と光太のペースにだけ合わせてやればいいのですから。
悠太と光太、形は違いますが、似たり寄ったりの大きさの歯車です。
そこにまた、全く違う大きさの歯車がかみあってくるとなると。
うううう。

それに私は、健常児を愛せるのだろうか?
自信がありません。
悠太・光太のかわいさは格別です。かなりマニアックなかわいさですが。
少し前までは、「悠太・光太に障害がなかったら・・・」と考えることがありましたが、今では全く、針の先ほども思うことはありません。
もう、障害のない、自閉症でない悠太・光太なんて考えられない。悠太と光太は、悠太と光太だからかわいいのです。

打っても打っても響かなくて、ため息ついてあきらめて、忘れた頃に視界の隅でひょっこり、あさっての方向にぼてぼてのボールを転がすような、そんな二人の成長がおかしくて、うれしくて、かわいくて。
そんなペースにすっかり慣れて、はまってしまった私と夫。

打ったら即響いて、コミュニケーションのキャッチボールも直球勝負でどんどん返ってきて、スポンジのようにどんどん知恵や知識を吸収していく健常の子どもの、その成長のスピードに、果たして私たちはついていけるのか。
果たして、私たちはその子をかわいいと思えるのか。

そして怖いのは、もし、健常の子をかわいいと思ってしまったら、悠太・光太への愛情が薄れてしまうことはないのだろうか?
実際、下に健常の子どもが生まれてから、下ばっかりかわいがるようになって、上の子が何か言うたび、するたびに家の中の空気が冷めていくのよ・・・なんてお母さんの話を聞いたことがあります。

私は器用なほうじゃありません。どの子にもそれぞれ公平に愛情を、なんて自信がない。今でさえ、悠太に向ける愛情と光太に向ける愛情の微妙な差に、罪悪感を持っているというのに・・・


そんな感じで、思いつめて、思いつめた2日間。
あー、よかった!妊娠していなくて。心底ほっとしました。「神よ、感謝します」と祈りを捧げたくなったほど。

夫は、「1年間くらい休職しなくちゃいけないかと思った」なんて笑っていました。
夫は、もう一人いてもいいし、いなくてもいい。どっちでもいい、というスタンス。正直な気持ちなんだろうけど、まー、いいかげんな。
結局、妊娠・出産のリスクを背負うのは私、育てるのは私、しんどい思いをするのはぜーんぶ私なんだから。

もし妊娠してしまったら。
今の私の自由が、やっと手に入れた自由が再び奪われてしまうじゃないか。そして何より、妊娠期間プラス授乳期間の約2年間、禁酒しなきゃいけないじゃないかっ!ビールのない夏を過ごすなんて、ありえないっ!
一番はそこじゃ、そこ!うがああああっ!

こんな母親を選んできてくれる酔狂な赤ちゃんなんて、もういないだろうなあ(笑)。



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