憂いの光太


 春先から、な〜んかヘンな光太。
 気持ちの浮き沈みの周期が早い。いったん沈んだら長い。疲れやすい。

 まず、テレビの音が許せなくなる。
 調子のいいときはケラケラ笑ってみるテレビも、どの番組がダメというのではなく、とにかくテレビがついている状況がしんどいらしいのです。

 その割には、「テレビつけてー」と言ってくる。テレビをつけると、「やっぱりダメ。消して」。消すと、「やっぱりつけて」。「うわーん、消してってばー!」この繰り返し。
 こうなると、テレビを消してリモコンを隠します。それでもしつこくリモコンを探す光太。
 光太、混乱しまくっています。

 私の想像に過ぎないのですが、光太、気付き始めたのかなあ、と。いろんなことを。自分の周りにはいろんなことがあって、分からないことだらけだということ。
 分からないから、自分の可能な限りで、手がかりをたぐりよせようとしているんじゃないかなあ。

 分からないことの一つが、「時間」。
 教育テレビの幼児番組は、同じ番組を朝も夕方もやっているのですが、それがまずアウト。
 何も考えなければ、好きな番組を1日に2度見られて「わ〜い」だったのですが、はたと光太は気付いた。考えた。「今、朝?それとも夕方?分からない、どうすればいいのー!?」

 さっき家に帰ってきたばかりだというのに、夕方の幼児番組を見たとたん、泣きながら通園リュックを持ってきて「行かなくちゃ、行かなくちゃ!」と焦る光太を見て、あわててテレビを消しました。
 改めて光太の混乱の大きさに気付いたのです。

 また、調子の悪い、しんどいときほど、その日の予定や見通しが立たないことが気になるようです。
 しんどいくせに、園に行きたがる。普段のお出かけ時間は8時50分なのに、7時半ごろから、自分のお着替えの服を持ってきて、「(これを着て)早く行こうよー!」とアピールします。これがニコニコなら「あらまあ、そんなに行きたいのね」とほほえましいのだけれど、光太の顔は蒼白でぎゅっと思いつめた表情。もちろん時間が早いので、「まだ行かないよ。もう少し遊ぼうね」と言うのですが、そうなると、絶叫・号泣です。お出かけまで延々と。私もきついです。
ただただ、光太はいつもと同じ場所へ行くことで、早く安心したい一心。
 それだけ、光太のなかで切羽詰っている、不安でいっぱいということなんだろうなあ。

 予定や時間が伝えられたら、光太の不安も軽減できるのだろうけれど、特に時間は伝えるすべがありません。
 こんなとき、言葉で教えられない、言葉が分からない、伝わらない辛さが身にしみます。

 もともと自閉の部分は十分持ち合わせていましたが、あまりの知的の重さに隠れて、さほど目立つことはありませんでした。よそのお母さんからは「自閉じゃないよね?」と言われるくらい。
 でもここにきて、自閉の芽もしっかり顔をのぞかせるようになりました。


 ずっと低空飛行だった光太、GW前日から急浮上。ようやく笑顔とおしゃべりが戻りました。
 よっしゃー!とあちこち連れまわしたのが災いしたのか、5月4日には急降下。
はやっ!好調期、たった6日かい。またもや硬い表情の無口な光太になってしまいました。

 楽しい外出もストレスです。
特に判で押したような「いつもと同じ」を好む光太にとっては(もちろん悠太も)、普段と違うこと、よく知らない場所、人のにぎわい、音の洪水・・・楽しいことも、しんどさと常に隣り合わせです。
そのストレスをうまく消化できず、臨界点にきてしまったようで、あっという間の急降下。
やばい。非常にやばい。だって、5日には母方のじじ・ばばが遊びに来るのに。

母方のじじ・ばば(私の両親ですね)は、大の光太びいきなのです。
もちろん悠太もかわいいのだけれど、遊びに来ても部屋のすみでじっとして絵本をみている悠太より、やんちゃでお調子モノで、人の真ん中が大好きで、甘え上手でおねだり上手な光太がより一層かわいいと思うのは人情というもの。
いつも、「光太はかわいいのう」「光太はどうしよるか?」と気にかけるじーちゃん。時折、「悠太もいるんですけどぉ」と突っ込みたくなったりもしますが。

今のこのしんどそうな光太に、いつものニコニコは期待できません。ああ、じーちゃん・ばーちゃんがっかりするだろうなあ。
光太とうってかわって、超・超・絶好調の悠太。
よし、悠太。接待係はおまえにまかせたぞ!

こどもの日。果たして、悠太は立派にじじ・ばばの接待係を勤め上げたのです。
ここんとこ、対人面がぐーんとアップしている悠太。めったに会うことのないじじ・ばばにも終始笑顔をふりまき、ばーちゃんとバランスボールでキャッチボール(?)したり、じーちゃんに体をつかって遊んでもらったり。
悠太もうれしくて仕方ない。
じじ・ばばは親のように手を抜かず、本気で遊んでくれますからねえ。「もう飽きた」だの、「疲れた」だの言わないし(笑)。
じじ・ばばも、赤ちゃん期以降の悠太とこんなにふれあったのは初めてじゃないかなあ?いつも、甘えてくるのは光太だったし。

その光太も、時折笑顔はのぞかせるものの(客に気を遣っているのです。頑張らなくていいのに・・・)やっぱりしんどくてグズグズ。
事前に光太の様子を説明していたものの、いつものやんちゃな光太を期待していたじじ・ばばは、ちょっぴり寂しそうでした。
光太だって、いろいろあるんだよ。ね。


さて、GW明けて。
まったくテレビをつけられなくなってしまいました。
去年もテレビを嫌がる時期が長い間ありましたが、それは教育テレビの幼児番組や、以前見ていたビデオ限定。自分とあまり関係ないニュースやバラエティ番組は気にせず見せてくれていたのですが・・・
もう、テレビがついている状態が許せないらしいのです。

そして5月9日。
この日は園の親子遠足で動物園へ。私一人で悠太・光太を連れて、は不可能ですから、もちろんお父さんも仕事をお休みして参加です。
それがまず、光太の混乱のもと。
1週間の流れはだいたい理解している光太。どうして平日にお父さんが朝いるのか分かりません。通園リュックはあるのに、いつまでたっても家を出る気配がない。
光太、大パニックです。
「テレビつけて!」「消して!」「つけて!」「消して!」うわあああああああんっ!
テレビのリモコンを隠しても、そのリモコンを探して、さらにパニック。
これはいかん。テレビがある限り、光太のパニックは続く。
とうとう、テレビを居間から撤去。物置と化している2階の寝室へ持って上がりました。

テレビ撤去には、難色を示した夫。「そこまでしなくても」と思ったのか。
あんたは平日いなくていいかもしれないけれど、毎日光太のパニックに付き合うのは私なのよーーーーっ!
「2階に持っていったら、テレビ見れなくなっちゃうからね。それでもいいのっ?」と念押しする夫。しつこい。いーんだってば。どうせ居間にあっても、テレビつけたら怒るんだから。それよりか、テレビがなくなって、光太が安定するほうがいいでしょ。

 そんなこんなで、バタバタした遠足当日の朝。いいお天気。絶好の遠足日和。
 我が家は現地集合で動物園へ(遅刻しちゃいました。ごめんなさい)。
 うちの園のほかにも、幼稚園の遠足の団体さんがいたのですが・・・普通のこどもって、みんな賢い!ちゃーんと列になって、動物を見て、動物の説明をきいて。
 その幼稚園の皆さんが通り過ぎる目の前で、水遊びスペースで激しく入り乱れて水遊びするK学園の子どもたち。悠太・光太は最初から水遊びが目的の水着持参だし。
 この日の予想最高気温27度ですから。水遊びしないで、何をしろというのでしょう。
 うはははは。そこの幼稚園の園児たち、うらやましーだろー!

 でも、あまりの激しさに、行きかう人々が引く、引く(笑)。
 悠太は、底に敷き詰めてある玉砂利を口に入れちゃうのですが、どこぞのオバサンが、「ひいいっ」という顔で、これでもかというくらい悠太をジロジロ見ます。
 おらおら、人の子をジロジロ見てんじゃねえよ。そんなに、砂利を口に入れる子どもが珍しいのかよ!
まあ、十分珍しいですかね。でも、K学園ではさほど珍しくないんだもんなあ。
事実、悠太のそばではもう一人、同じことをしているオトモダチが・笑。それでもって、母親同士、「あれって、(口から)出すよねえ」「出す、出す。いくらなんでも、ごっくんはしないって」と落ち着いてますから〜。そんなことでいちいち騒ぎ立てていたら、のんびりちゃんの母親やっていられないのです。

 かの失礼なオバサン、私は結構離れたところに居たのですが、私の殺気を感じたらしく、はた、と目があってしまいました。そそくさと知らんふりをして立ち去るオバサン。このヘンな子の母親だってこと、気付いただろうなあ。
 そう、私が母親じゃ。文句あるかーっ!

 悠太は延々と水遊びに没頭していたのですが、光太は人が多くてうるさいのがイヤだったみたい。ちょっとお水遊びをすると、「もういい、おしまい」と出口を求めてさまよい始めました。
 その後は光太はお父さんとおんぶでお散歩。人気の少ない静かな場所で、二人でラブラブ、のんびり過ごしていたようです。お父さんは、普段見ることのないライオンやトラを見ることができて満足。

トラをバックに光太。

  水遊びを存分に楽しんだ後は、お待ちかねお弁当タイム。
 この日私は朝4時半起きで、お弁当づくり頑張りましたー!
 なんてったって、初めてのお弁当持参の遠足(去年は雨で中止でした)。アウトドアでレジャーシートを広げてお弁当、ってのは私の夢でしたから、気合も入ろうってもんです。
 3段のお重におにぎりつめて、大人のおかずと、子どものおかずをつめて。

 とりあえず何かしら子どもも口にしてくれたのですが、暑さと疲れと興奮状態から「食事する」という気にはあまりなれなかったよう。
 それでも、その場から逃走しなかっただけで二重丸です。親はのんびりお弁当が食べられたし。
 光太も、しんどいなか、よく頑張ってくれました。


 さて、居間からテレビがなくなった我が家。
 最初の2日くらい、テレビ本体がなくなったにもかかわらず、リモコンを探して混乱していた光太も、今ではすっかり落ち着いてくれました。
 悠太は、テレビがついていたら見るけれど、なければなかったで全然平気。テレビがなくてつまらな〜い、なんてことはなく、静かな時間を楽しく遊んでいます。

 ちょっとキツいのは親のほう。
 といっても、光太がいるときはテレビをつけることはできないし、子どものいない日中も、忙しくてわざわざテレビを見ることはないので、あってもなくても同じこと。
 まあ、7時のニュースが見れないのが寂しいのと、天気予報が見れないのが困るかな。特に天気予報はこの時期、子どものお着替えを半袖にするか長袖にするか決めかねるので重要。ということで、テレビを見られなくなった今、毎日177です。
 
 テレビを見ながらごはんを食べることもなくなって。
 夫いわく「スローライフって感じだねえ」。
 確かに。
 でも、スローライフって、ゆっくり食事をしながら会話を楽しむ、って感じがするんですけど、私と子どもだけのときは、会話なんてないですからーっ。あまりに静かで寂しい〜。それに、ゆっくりなんてできない、ドタバタだし。

 夫婦の会話といっても、夫と一緒に食事をとるときは、いつもは私がどうでもいい話をして、それを夫がうんうんと聞いているという感じ。
 ちょっとはお父さんも何か話ししてよー。通勤風景とか職場の人の話とか。どうでもいいことでも、私にとっては面白いんだから。
 そう言って夫の尻をたたいて、夫がしばらく考えた挙句、「そういえば」と話始めたエピソード。本当にどうでもいい話なんだけど、私のツボにはまったのでご紹介します。

 夫の勤める会社は社員の人数の割りに社員食堂がなく、家からお弁当を持ってこない人は、仕出しのお弁当を頼みます。その日のお弁当のメニューはみんな一緒です。
 職場で夫の隣に座っている人が、お弁当の中身を見た瞬間、その人の好物でないものがおかずのとき(だいたいが魚だそう)、いつも、「うわっ、まずそう!」と言うのだそうです。
 本当に、いつも、いつもで、お魚大好きの夫は、それを聞くのがすごくイヤで(力説!)、その人の「まずそう!」の言葉を聞きたくないがために、その人がお弁当のふたを開ける瞬間を見計らって、席を立っているのだそうです。

 とまあ、すごーくどうでもいい話なんだけど、夫の人となりを知っている人なら、「ああ、分かる、分かる」と思ってもらえると。
 席を立ってまで避けなくてもいいと思うんだけどなあ。そんな人です、夫は。

 その夫、遠足に行くのに「家族病気につき」と会社をずる休みしてしまいました。とてもじゃないけど、事前に有給休暇を申請できるような仕事の状態じゃなかったらしいです。夫に休んでもらわなかったら、遠足行くのも不可能だったので仕方のないことなのですが・・・
 そのせいか、ますます夫、追い詰められ・・・最近またもや眠れぬ夜を過ごしているようです。仕事が気になって目が覚めてしまうのだとか。夜中や明け方にゴソゴソと仕事をしていたりもするし。
 うーん。大丈夫だろうか?


 遠足後、光太は浮上。
 やっぱり、いつもどおりの変わらない生活が一番です。
 しかし、このままのいい状態がいつまで続いてくれるやら・・・
 なんと、18日の金曜日から、1泊2日で年長さんのキャンプがあるのです。もちろん親抜き、先生と子どもだけ。
 どうにかいい状態のまま、このキャンプを迎えられることを祈るのみです。

 久々に夫婦二人きりになる18日。夫はこの日、まるまる休みをとって、子どもを送り出した後デートする予定なのですが・・・早くも暗雲たちこめてきました。
 ああ、フレンチ・フルコースが。
 ナイターのカープ戦が。
 カープ戦見た後、居酒屋さんに行こうって言ってるんだけどなあ・・・
 頑張れ、夫。



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