そうは問屋がおろさない


 この冬は暖冬さまさま。
微妙に体調を崩したり、嘔吐・下痢にはしっかりお世話になりましたが、昨シーズンのようにひどく風邪をひくことがありませんでした。
3学期もあとわずか。このまま元気でいてくれるといいなあ。うん、大丈夫だろう。
そう思っていた矢先の、3月半ば。悠太・光太、二人してひどく風邪をこじらせてしまいました。
発熱、鼻水、咳のフルコース。
ちょっとした風邪なら、「大丈夫だ、お前ら行ってこーい!」と突き放す鬼ハハの私も、このたびはさすがに、「お前ら、休め」。

少々のことでは病院に行かないのですが(どうせ薬が飲めない。自然治癒力にすがるのみ)、季節柄インフルエンザの可能性も捨て切れなかったので、受診しました。
結局、インフルエンザではなかったのですが。

いつも患者が少なくて(だからそこを選んだのですが)、子どもも診てくれる内科。けどその日は月曜日ということもあって、待合室には数人の人がいます。悠太・光太は待ち時間がつらいので、診察の順番が来るまで子どもは車で夫と待機。私一人で待合室で順番待ちしながら、子どもを連れてくるタイミングをはかっていました。

すると、「悠太くん、光太くん、次ですよ〜」と、受付のお姉さんがわざわざ声をかけてくださったのです。頼んでいなかったのに。
最初から、「順番が近くなったら教えてください」と頼んでおけばよかったのですが、なんだか忙しそうで、はばかられて。こっちの都合で余計な手間かけたら申し訳ないなあ、って。そんな手間でもないはずなんですけどね。
一瞬でも「えっ。忙しいのにー」という顔をされたら、落ち込んでしまいそうで。ヘンなとこ、神経質で甘え下手です。
ここらへん、もうちょっとずうずうしくならんと、ですね。子どものためなのだから。笑って「お願いします〜」と言えるようにならないと。

なんか、うれしかったー。
めったに病院自体行くことがないから、「かかりつけ」とは決して言えないのですが、ここの内科、インフルエンザの予防接種の料金も安かったし(子ども1回1800円)、診察が怖くて、お父さんにしがみついて前を向けない二人にも無理強いすることなく、「背中でいいですよ」と聴診器は背中から当てるだけ。お口あーんもなし。触診もなし。
ありがたい。
ちょっと物足りない気はするけれど(触診って大切だろうし)、泣き叫ばれるより、こうやって、「何も怖いことないよ」と少しずつ慣れていったほうがいい。その道のりは長そうだけれど。

それに、ここで処方される薬は、抗生物質と、鼻水・咳を抑える薬を分けて、2種類出されるのです。
これがまた、ありがたい。
全部を混ぜて1種類にすると、量が多くなる。抗生物質は苦味が強いので、悠太・光太は絶対に口にしない。2種類にしてもらえると、抗生物質は無理だけど、鼻水・咳の薬は、ミルクに混ぜてもほとんど味が変わらないので、悠太・光太も飲めるのです。
抗生物質を飲まないとなかなか治らないのは分かっているけれど、こればかりは仕方ない。飲める薬を飲んで、少しでもラクになれるのなら、それで今のところ十分。
普段、薬を飲まない子たちなので、たまーにこうして薬を飲むとよく効きますねえ。眠くなる成分があります、ということだったのですが、昼寝をしない子が、ほんと、こんこんと眠り続けます。眠れ、眠れ〜♪いえーい。

 子どもが病気で家から出られない日が続くと、やはり困ります。
 なんといっても、買い物ができない。
 だいたいの食材は週1回のまとめ買いなのですが、それでも週半ばにはあれこれ、足りないものが出てきます。
 今回もしかり。
 ううう、困った。卵が切れた。牛乳も、光太の杏仁豆腐も。普通食の食材しかないから、風邪でも食べられそうなものも買っておきたい。困った。
 卵・牛乳くらいなら夫に頼めそうなものなのですが、やっぱり、私が見ないと分からないものがある。

 困りに困って、はた、と気がついた。
 最近、24時間営業のスーパーがあるじゃないか!
 夫が帰ってきてから深夜に出かけるのはしんどくて考えられないけど、早朝ならなんとかなる。朝はめっぽう強い私。いつも平日は5時起きだし。

 近所のスーパーは残念、24時まで営業しているけれど、朝は9時から。で、ネットで調べたら、24時間営業、あった〜!車で10分もかからないところ。
 24時間営業のスーパーができ始めた頃は、「コンビニもあるのに、誰がこんなの利用するのー?人件費や光熱費もかさむだろうに・・・」と思っていたのですが、間違っていました。ごめんなさい。利用させて頂きます。あいててよかった。ありがとうー!!
 これで、子どもが病気時の買出しの問題、クリアです。

 ただし、光太の杏仁豆腐をのぞく。
 相変わらず、杏仁、杏仁の光太。そして、前にも書きましたが、さすが自閉ちゃん、メーカー限定。
なんでプリンとかヨーグルトでなく、杏仁なんでしょう。杏仁豆腐自体を置いていないスーパーもあるくらいですから、人気商品ではないはず。光太の好きなメーカー(ちなみに、フジッコのアジアンカフェシリーズ。私たち夫婦もこれが一番好き)を置いているのは、大きなショッピングセンター内の食品売り場だけ。
 こればかりは、私が買いに行けないので、夫の定時退社の日に買って帰ってもらいました。ほっ。
 杏仁を切らすとどうなるか・・・ああ、恐ろしい。


 夫が、杏仁とともに、ホワイトデーのプレゼントを買ってきてくれました。
 380円のミニブーケ(値段を知っている私)と、焼き菓子いろいろ。
 あら、うれしい。ホワイトデーのお返しなんて久しぶり。けどね、ホワイトデーに「どら焼き」ってのはどうよ。
 「だって、お父さんが食べたかったんだものー」あんたかい。まあ、私の好きなレーズンサンドもあったから、よしとするか。

 夫と知り合って初めてのホワイトデーのプレゼントは、スウォッチの時計でした。
 ちょうどその前、私が「時計をなくした」と言っていたのを覚えていてくれたのです。
 次の年は、婚約期間中。で、ホワイトデーにくれたのは、雑貨屋で買った小さな犬のぬいぐるみ一つ(明らかに1000円以下)。・・・・・まじかよ。
 翌年は悠太・光太もすでに生まれていて忙しく、夫も深夜1時、2時帰宅の休日出勤ばりばりのとき。当然、ホワイトデーはなし。
 それからもずーっと、なし。
 いいんだけどさ。

 今年のバレンタインデー、夫が「お返しは何がいい?」と聞いてきました。
 「うーん。そうだ、携帯のストラップが今ないから、ストラップかな〜」
 「携帯のストラップってどこに売っているの?文房具屋さん?それとも100円ショップ?」
 「もういいです。忘れてください」

 夫はこういう人です。素です。天然です。決して嫌がらせではありません。
 だーれーがっ。どこの女性が、ホワイトデーに100円ショップで買ったストラップを喜ぶかっての。
 あのスウォッチはなんだったんでしょうねえ。しくしく。


 さて。
 結局3月12日・月曜日から16日金曜日までみっちりお休みした悠太・光太ですが、自宅療養生活、一番私が精神的にしんどいのは3日目かなあ。
 4日目はあきらめが勝ちます。5日目ともなれば、惰性。
 後半になるにしたがって、家の中がぎすぎすしてきます。私はもちろん、子どももストレスがたまっていく。家中、いやーな空気が蔓延します。

 4日目の夜。
 その日の午後、たっぷりお昼寝をしたため、夜はなかなか眠れなかった光太。一方疲れ果てた私は、気持ちよくうとうと・・・・
 そこへ光太の魔の手が。目潰し攻撃ーっ!
 な、なんだ、なんだ。眠りの淵からいきなり引き戻された私。なおも光太は私の目をめがけて手を伸ばしてきます。
 
 正確には、目ではなく「まつ毛」なんです。
 ちょっと前から、自分のまつ毛の存在に気付いた光太(悠太も)。周りの人のまつ毛も気になって、気になって、さわりに来るのです。
 「これ、なんだろう。お父さんにもあるね。お母さんにもあるね」と。
光太が悠太のまつ毛を触ろうとして、思いっきり指を悠太の目に突っ込み、悠太が大泣き、なんてこともありました。

やーめーてーっ!
あんたたちのまつ毛はお父さん譲りで長いけれど、お母さんは無いんだからっ!(無いことはないけれど、短い、少ない。目を閉じると、つまめないくらい)
これが、私が起きているときにやられたら、笑って対処もできるのですが、いったん眠ってしまった後。
 不快指数200パーセントです。

 専業主婦にとって、家こそが職場。家事や子どもの世話は仕事です。
 家がくつろげる場所であったり、子どもと遊ぶのが「余暇」の夫とはまったく違うのです。
 病気で寝込んでいる子どもの世話をするということは、24時間職場に缶詰め状態で、24時間仕事の書類と格闘している、ということ。
 この夜の光太の奇襲は、つかの間の休息時間に「おら、仕事じゃ。働かんかい!」と目の前に書類を突きつけられたと同じです。

 私も普通の精神状態じゃない。本気で頭に血が上ってしまいました。
 「やめてって言ってるでしょうっ!」とぐいっと光太を押しのけます。
 この「やめて」。光太にとっては「遊ぶの?うっきゃーっ?」の勘違いキーワードです。どんどん光太はエスカレート。べたべた触ってきたり、私の上に覆いかぶさってきたり。
 幻覚が見えます。
 掻き分けても、掻き分けても書類の束が迫ってくる。もう限界なんだってば。休ませてよ、休ませてってば!

 たまらず、寝室にしている和室から子どもを残して逃げ出し、トイレに鍵をかけて立てこもりました。
 もういやだ。いやだよう。
 トイレの床にうずくまりながらも、光太のことが心配です。
 泣くか?私を探して追いかけてくるか?
 けど、あまりにも静かです。なにやっているんだろう。

 しばらくして、そっと寝室に戻ってみると・・・光太は、すでに眠っている悠太に添い寝してケロッとしていました。
 なーんだ。拍子抜けとはこのこと。
 お前は、人肌があれば誰でもいいんだよね。そういう奴だった。「お母さんいなくなっちゃった。まあいいや。悠ちゃんがいるもーん」
 はあぁ。

 この後再び光太に見つかり、振り出しに戻る(涙)。
 結局、光太は夫が帰宅する11時ごろまで起きていて、夫の晩御飯を一緒につまんだそうです(私はもちろん、夫に光太をまかせて避難)。


 こんなこともありました。
 光太が悠太に「これっ!この本悠ちゃんにあげる!」と一冊の雑誌を悠太に押し付けています。でも悠太はそのときは、別の絵本に夢中。光太が差し出す雑誌には見向きもしません。
光太はなおもしつこく「悠ちゃん、これあげる!この本悠ちゃん見てよーっ!」と泣きながら訴えます。
母には分かる。光太は、悠太にその雑誌をパラパラして欲しい、それを一緒に横から覗き込みたいのです。って、お前が見たいのなら、お前がパラパラすればいいだろうが。

そんな光太の意図が悠太に通じるはずもなく。光太、「んあーーーーっ!」と雄叫びをあげつつ、悠太の首根っこをがしっとかき抱き、ホールド状態。逆ギレ?
すかさず悠太逆襲、猫パンチ、パンチ、パーンチ!
結局、二人して大泣きです。
それをしら〜っと見ている私。仲裁する気力もないし。
 二人が離れる時間もいるよなあ。ずーっと二人でひっつきもっつきだと、悠太と光太の間だっておかしくなっちゃいます。


 ようやくお外解禁となったその週末は、悠太・光太、5日ぶんの「お外」を取り戻そうとするかのように、大爆発の大暴走でした。
 とにかく、お外、お外、お外。
 午前中、お外。昼からもお外。夕方も「お外行くーっ!!」
 そのたびに夫も私も子どもにみっちり付き合わされるのですから、たまったもんじゃありません。
 私が食材の買出しで留守にしていた間、夫はモーレツな「お外」コールに根負けし、子どもを外に出したそうなのですが、暴走する二人に、一瞬で後悔したそうです。
 
 体が楽になってうれしいんでしょうねえ、病み上がりはいつもハイテンションになるのですが、こんな「爆発」は初めて。夫も私もヘトヘトでした。

 この「お外大爆発」で、しみじみ実感しました。
 悠太・光太の「〜したい」という気持ちが強くなっていること、ごまかしがききにくくなっていること、そして、力が強くなっていること。
 家に入って欲しいのに、一瞬の隙をついて脱走する悠太。抱きかかえようとすれば暴れる、抱えられないから、地面に寝そべる悠太を文字通り引きずって、顔を真っ赤にしながら汗だくで家まで運んだのです。

 もう、人目なんて気にしていられません。けど、この様子を見て他人はどう思うでしょう。うちの事情をしっている人でも、あっけにとられるに違いなく。
 なんだか、情けなくなってしまいました。

 人目といえば・・・お外での「人目」も痛くなってきました。
 公園では、悠太の遊ぶ姿を子どもたちがじーっと見つめます。わざわざ立ち止まって、異物を見るような目で。
 確かに、もうすっかり普通とは違うオーラが出ているのですよ。大きな体で、一人、砂をつかんでは上からぱらぱら〜、枯葉をつかんでは上からはらはら〜・・・延々やっていますからね。私から見れば、「あー、科学してるなあ」と微笑ましいのですが。

 ブランコも、悠太はいまだに一人で乗れず、母と二人乗りなのですが・・・そんなにヘンかなあ。いいじゃん、親子で楽しんでるんだから、そんなに見なくても。
 と、うれしくなった悠太が「っでぃ〜っ、あっだーっ!」
 ささささーーーっと悠太周辺の空気が冷たくなる。あはは、これは引くよなあ、やっぱり。分かるけどぉ。

 最近、スーパーへ悠太と二人で行くことがあるのですが、いやー、そのときも他のお客の視線が痛い、痛い。
 全然、迷惑なんてかけていないんですよ。ただ、突然走り出したかと思ったら、急に座り込んだり、床に頬ずりしたり。従業員用の通用口の扉に向かって行ったり、その通用口のマットの上に寝そべったり。
 行動はちょっとヘンだけど、決して、人様に迷惑をかけていない。なのに、どうしてこんなに視線が痛いのかしら〜。ヘンだから、かぁ。

 私からすれば、悠太は楽しそうにしてくれているし、短い間ならちゃんと手をつないで買い物にも付き合ってくれるし、「おしまい、帰るよ」と言えば察してくれるし、お金を払うときはおんぶの状態でいてくれるし、上出来、二重丸です。
 せっかくスーパーに入ることに慣れてきてくれたのなら、分からなくてもいい、少しずつでもいから、買い物が楽しいことだよと教えたい。体験させたい。それだけなんだけどなあ。

 きっとこれから、もっともっと、見られるようになるんだろうなあ・・・
 悠太の、光太の笑顔を見ていれば、そんなのどうでもいいことなんだろうけどね。でも、まだ、どうでもいいふりはできそうにありません。
 修行じゃのう。

元気になりました。光太。
土管のトンネルにも入れます。奥には悠太もいます。
「おーい!出てこーい!」


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