ボクのお願い


 問題です。
 ある日の夕方、悠太がニコニコでトレーナーの裾をたくし上げ、おなかを見せながら近づいてきました。さて、悠太は何と言っているでしょう?
 1番:「見てみて〜。ボクのおなか、ぽんぽこりんでしょ〜」
 2番:「おなかなでて〜。おなかさすって〜」
 3番:「トレーナー脱がせて〜」

 なにぶん、言葉を喋ることができない悠太(もちろん光太も)のこと。想像力を働かせて、彼が何を言わんとしているか判断しなくてはいけません。まあ、それほど難解な要求はまずないのですが。

 このとき、私は2番と3番で迷いました。うーん。どっちだろう?
 悠太、おなかをなでてもらうのが好きです。催眠術のかかったカエルのごとく、おなかをなでてやると、うっとり(笑)。
 けど、トランポリンで遊んでハアハア言っていた直後のこと。暑いから脱ぎたいのかな?でもなー、脱いだら寒くなっちゃうからなあ・・・

 ちょっとの間、どうしようかと逡巡していると、悠太、「ボクの言っていることが伝わってないな」、と感じたのでしょう、すかさず悠太のお気に入りのパジャマを持ってきてニッコリ。
 なーるほど〜。「このパジャマを着たいから、トレーナー脱がせてください」か。

 「おまえ、トレーナーくらい自分で脱げよ」と突っ込みたいところですが、それよりも、とっても分かりやすく伝えてくれたことに感動です。
 悠太、えらいぞ。よく分かったよ!おうちに帰ってリラックスしたい、お気に入りのパジャマに着替えたいよね。

 今でもまだ、要求の表現はクレーンか現物を持ってくるだけですが(「お外へ行きたい」と思えば靴下を持ってくるとか)、その原始的な表現にあっても、最近は、より的確に気持ちを伝えようとする創意工夫があちこち見られます。
 「お外」とか「ミルク」とか、単語だけだった要求が、徐々に二語文になっている、といった感じです。

 この「パジャマ着たいから、トレーナー脱がせて」と言った同じ日に、園であった出来事。
 この日は、あいにくの雨模様。大好きな園庭では遊べません。
 けど、そんなことは分からない悠太。「お外行きます!」といつも園庭に出るときにかぶる帽子をかぶってアピール。
 けど・・・誰もボクのお願い、聞いてくれない。むむむむむ。
 そこで悠太、もう一押し。大好きなS先生がいつもかぶっている帽子を、わざわざ引き出しから出してS先生のもとへ持って行き、「先生もお外行こう。ねっ!」

 悠太、よーく見ているのですね。いつもS先生がかぶっている帽子を。それがどこにしまってあるのかも。
 S先生、その手の込んだ頼み方に、ついついほだされてしまいます。
 悠太、よーく知っています。誰が一番優しい(甘い)のか。きっと、ほかの先生に頼んでも、「悠ちゃん、ごめんね。今日は雨だからね。お部屋で遊ぼうね」といなされてしまうはず。それが当然なのですが。
それでも、こんなふうに、懸命に伝えようとする悠太の気持ちに応えてくれる。だから、悠太もS先生のことが大好きなんだろうなあ。

 悠太も、いつもいつも、無理難題・自分勝手な要求をするわけじゃない(と思う)。要求しても「ごめんね」と断られて我慢することだってある(はずだ)。悠太だって、集団の中でちゃんと頑張っているのです(ちょっとフォローしてみました)。
 
 さてさて。
 雨の中、意気揚々とS先生とともに園庭へ出たものの。
 「雨なんだ・・・」と納得、お外遊びをあきらめて、早々にお部屋へ戻っていったのだそうです。
 「雨だからお外へは行けません」といくら言ったところで、悠太には分かりません。ちゃんと見て、自分で納得する時間を与えてくれた先生に感謝です。
 「とってもいい時間を過ごせました」とこの日のお手紙に書かれていた先生の言葉を読んで、悠太の笑顔が見えるようでした。


 最近の光太は、とにかく「おともだち、スキスキ〜?」なんだそうです。それも、自分より体の小さいおともだち限定(笑)。自分より小さい子を見つけては、抱きつき攻撃をかましているそうです。
 結構迷惑だと思うのですが・・・光太、ほどほどにね。

 家でも相変わらずお父さんに、私にスキスキ、チュ〜っな日々。
 おまけに、お風呂に入り、私が湯船につかるやいなや、「お母さん、足伸ばして!」と命令、おひざに乗ってきて、私の胸に顔をうずめて「うふふふふ〜?」といイチャイチャ。
 あんた、今更カンガルーケアかい。
 私と身長差が40センチくらいしかないので、可憐な光景からは程遠いのですが、うれしそうに、幸せそうに見つめてくる光太の頭を抱いて、「いい子、いい子〜♪」

 ほんとうの赤ちゃんの頃、光太をこうやってやることができたら。
 光太の頭をなでながら、いつも、思います。
 保育器ごしになでたり、体を持ち上げる形の「抱っこ」はできても、母親の裸の胸元に赤ちゃんを乗っけるカンガルーケアはできませんでした。当時、そこのNICUでは、カンガルーケアを取り入れていなかったようです。

 もし、最初の頃に、肌と肌で光太の重みと体温を感じることができていたら。
 自分の中の、光太に対する思いも違っていたのかなあ・・・なーんて。
 でも、それは終わったこと。いくらでも、取り戻せるから。
 光太、まだまだ、お母さんの赤ちゃんでいてね。


 今年のバレンタインデーは、手作りキットのフォンダンショコラをつくりました。
一口サイズのチョコレートケーキ、中はとろ〜り。おいしいっ!
 光太がすっかりチョコ好きになってしまったので、今年はやりがいがありました。
悠太はまるで興味なしだったのですが、光太は大喜び。手も、口の周りも、お父さんの服も、壁も、床も、チョコレートだらけにして、食べてくれました。ううう。
 お母さんの愛がこもっていたんだけど、分かってくれたかしら?
 


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