びっくり箱なふたり・光太編
ふたりは外遊びが大好きだ。けれど私にとってはこれがひやひやもの。いつも、車がめったに来ないのをいいことに家の前で遊ばせているのだが、いつ脱走しても追いかけて捕まえられるように、私は二人の中間地点に立ち見張っている。けれど、最近は行動範囲も広がり、足も速くなり、いつの間にかふいっと姿が見えなくなってどきどきすることがある。
2日前、夕方外遊びをさせていたときのこと。
ぼすっという、何かが落ちる音がして次の瞬間、「うわーーーーんっ!」と光太の泣き声が聞こえてきた。
尋常ではない泣き声にあわてて声の出所を探し駆けつけると、光太が、家の前にある駐車場の裏の溝、ゆうに1メートル2、30センチはある高さから落ちていたのだ。
足から落ちたのだろうが、幸い、その溝には枯れ草がたまっていてクッションになったようだ。
ショックで号泣している光太を抱き上げると、右目の上に深めのかすり傷があり、大きなこぶができていた。
とりあえず、家に連れて帰りなだめる。
こぶができたこと、すぐに泣いたこと、傷もさほどひどくないこと、で、とりあえず様子を見てみることにした。
しばらくすると、ショック状態からも立ち直り、落ち着いてテレビを見始めた。
けれど、何か腑に落ちない。もやもやしている。
光太が落ちた場所、そこは、いつもの遊び場だった。光太は(悠太も)段差にはとても慎重で、今まで溝にはまったり落ちたりしたことがなかった。
なのに、今頃になってどうして落ちたんだろう?気が抜けたんだろうか?たまたま足をふみはずしたんだろうか?あの、慎重な光太が?
翌日になると、こぶの部分の腫れはひいたが、その代わり、そのこぶがあったすぐ下の右のまぶたがはれあがっていた。まるで試合の後の辰吉のようだ。
その尋常じゃない腫れ方にさすがに病院につれていったのだが、こぶの内出血が、下におりてきただけのことで、心配ないとのこと。ようやく安心。
その日も家の前で遊んでいると、光太が、自分が落ちたみぞを覗き込んで、耳を両手でふさいでいる。
「そうだよね、昨日ここに落ちたんだよね。こわかったね」と言葉をかける。
しばらく後、今度は父の手を引いてその溝のところまでやってきた。その溝のほうへ父の手を持っていって、今度は自分で下りようとする仕草を見せた。
「やめんちゃい、危ないよ」と光太を抱きとめる夫。
それを見て、はたと思い当たった。
光太は落ちたんじゃない。あの溝に下りようとしていたんだ!
下りようとして、失敗して落ちて、額を打ってしまったんだ。
昨日からのもやもやが一気に晴れた。
光太があの場所に落ちるはずがない、というのは母の確信だった。
そういえば最近、かなりの高さの塀の上からも下りようとする、無謀なチャレンジ精神を何度も見せていたことを思い出した。
なるほど、道理で・・・
けど、こんなことはごめんだよ〜
今回はたいした怪我じゃなかったからまだいいけれど・・・
でも、これからどんどん、危ないことをやるようになるんだろうな。
そういうときに、1人につきっきりでいるわけにいかない双子はつらい。
「危ないよ、だめだよ、やめて!」そんな言葉がこの子たちに通じたら・・・
ふたりの自閉ちゃんを私1人で見る限界が近づいている。
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