おねだり上手は世渡り上手


 どうしてこんなに光太はかわいくて、悠太は面倒くさいのか。
 光太だってぐずる。よく泣く。困らせることだって、悠太と同じくらいある。なのになぜ、「光太はかわいいのう」と目を細め、「もーっ、悠太はー!」とため息をつくのか。
 光太は華奢で小顔で、悠太は丸くて頭が私と同じくらいでかくて、山賊むすびのようだとか(←イメージ)、そういう見た目だけの問題ではない気がする。
 なんでだろう。


 少し前の園からのお手紙に、光太が給食のオレンジを食べた、と書いてありました。オレンジなんて、もちろん家で食べさせたことはありません。
 おおっ、オレンジを食べたのか。それじゃあ、ジャパニーズ・テーブル・オレンジはどうだ!とみかんを早速買ってきました。
 「光太、みかんはどう?みかんを食べられたら、日本人として幅が広がるぞ!」なんて言いながら。

 去年までは見向きもしなかったみかん、けど光太、私が皮をむく間から興味しんしんです。
 「ほら、これをこうやって、お口にぱくって。食べ物だよー。おいしいよー」
 光太はおそるおそる手に取り、匂ったり、なめたり。うーん。それじゃあ味は分らないよー。光太、もぐもぐしないと。
 光太、がんばります。口に入れてキャンディのように口の中で転がしたりしながら、少しずつかじり始めました。もぐもぐごっくん、とはいかなかったけれど、味は気に入ったよう。小分けにした房を、ひとつずつ全部かじって、よだれまみれにしてしまいました。
 ううう。もったいないけれど、さすがにこれは私も食べられないぞ。
光太、みかん、おしまいね、とよだれまみれのみかんを下げました。
すると光太、ててててーっと台所に走り、新しいみかんを手に取り、私のところへ戻ってきました。その両手に大事そうに持ったみかんを母に差し出し、にこ〜っ。「みかん、もういっこちょうだい」


これだ!これです。(前ふりが長かったけれど)なぜ光太はかわいいのか。このおねだり上手なところです。おねだりするときは、必ずにっこり笑顔で相手の目をじーっとみつめます。光太のこの笑顔に、私も夫も骨抜きにされてしまうのです。決して無理強いはせず、「お・ね・が・い」と笑顔で大人を意のままにあやつる光太。小悪魔?いやいや、計算ずくではない、この笑顔。天性のものなんでしょうねえ。
もちろん、おねだりされても「ダメよ」と言う場面も多々あって、そのときは光太も「うわーんっ!」なのですが・・・


一方悠太、ほんっとにかわいくない!腹が立つのは、彼のは「おねだり」ではなく「命令」なのです。決して下手に出ない。
二人とも言葉は喋らないので、仕草や表情から彼らの「ことば」を受け取るのですが・・・どう見たって、悠太のは命令口調なのです。笑顔で命令。
「はよー、ごはんくれや!」「お外連れて行け!」「おんぶしろー!」「ボクと遊べ!」
こっちの都合、親の都合なんてあったもんじゃありません。自分の要求が通るまで泣く、わめく。(夫を)ひっかく、(夫を)噛む。
夜寝る前ミルクを飲みたがるので、ミルクを作っても「いらない」と言う。「いいの?飲まないの?じゃあ、もう寝るよ」と消灯して、気持ちよ〜くうとうとしかけた頃になって必ず、「ミルクくれー!」と夫の手を引っ張って、夫を引きずり起こす。いやがらせか、あんたは!
もう、ほんと、面倒くさいのですよ、悠太は。


 先日の光太のクラスの母子通園日のこと。
 お部屋へ入ると、光太は先生といちゃいちゃ、ラブラブの真っ最中。おひざに抱っこしてもらって、先生にチュ〜、チュ〜しています。私がわざと近くに寄って、「光ちゃん、光ちゃん」と声をかけても、てんで無視です。
 まーねー。こういう奴よ、光太は。
 先生とひとしきりラブラブした後、私のところへやってくると思いきや、よそのお母さんのおひざにすとん。にっこり、抱っこしてもらって、チュ〜っ!きっといつも、そのお母さんにかわいがってもらっているんだろうなあ。
 私とそのお母さんが並んで座っていても、にっこり、そのお母さんのところへ行きます。
 え、母は?おい。その社交性、どうかと思うんだけど。
 結局、私のところへ来たのは最後の最後。
 バイバイするときも、給食を目の前にすると、母にはもう見向きもません。まあ、いいんだけどぉっ。

 悠太はね、こういうとき後追いしてくれるのですよ。それもまた、面倒くさいんだけど。
「お母さんっ!お母さんっ!お母さんがいなくなったー、うわーんっ!」ショックでなかなかお昼ごはんを食べられなくなることもあります。母がいなくなった後は、すごーく寂しそうなのだそうです。


 光太は甘え上手でもあります。その寄り添い方はまさに絶妙。
 夕方、園から帰ってきた汚れ物の仕分けや下洗いをするのですが、その量たるや、ため息ものです。夕方になれば、私も疲れているし・・・ふう。しんどいなあ。
 そんなとき、とことことこ・・・と光太がやってきて、「なに?何か用?ミルク?」ととんがる私に、やさしくチュ〜っ。にこっ、と天使の微笑み。
 もう、あまりのかわいさにクラクラします。疲れが吹っ飛ぶとはこのこと。

 悠太はというと、ぐいぐい手をひっぱって、「おうっ、母ちゃん、こっち来いや。オレと遊べよ。ここ、くすぐれや。おお、そこじゃそこじゃ」
 だーかーらーっ。お母さんは忙しいんだってば!また一気に疲れが・・・はあ。

 まあ、光太のかわいいところあり、悠太のかわいいところあり、といった感じなのですが・・・光太、3歩リードかな?


 さて、10月は本当によいお天気が続き、毎週末お外へお出かけでした。
 10月22日は広島市森林公園へ。
 ここへは春先に行ったきり。しょっちゅう行く場所ではないのですが、悠太・光太はお気に入りの公園です。
 この日、悠太はロープでできたツリー型ジャングルジムに初挑戦。光太はすでに1年前からマスターしているのですが、いかんせん、悠太はへっぴり腰。でも、「ボクもやってみたいよ〜」オーラを発する悠太に、夫がよいしょと悠太をロープの上に乗せてみました。
 ロープの上で緊張して固まりつつも、なんとなくいい気分、といった感じ。
 けど、しばらくすると「ボク、これからどうしたらいいんだろう・・・」と困ってしまった(笑)。よし、おしまいにしようね。

悠太。のぼってみましたが・・・

 光太はロープをつかんですいすい行きたい方向へ移動します。たまに、下から「光ちゃーん」と呼ぶと、にこっ。母がそこにいることをちゃんと意識してくれます。この、「一緒に遊んでいる」感覚がうれしい。
 いっぱい遊んで、もういいだろうという頃に「光ちゃん、おいで。もうおしまいにしよう」と声をかけ、両手を広げて「おいで」のポーズをとりました。すると、結構離れたところにいた光太が、私のところめがけてまっすぐに来てくれたのです。その光太をしっかり抱きとめて、ロープから下ろします。
 じんわり、感動。
 呼んだら、戻ってきてくれたよ。すごいよ、光太。もう、走っていく背中を必死に追いかけるだけではありません(もちろん、追いかける場面のほうが多いけれど)。

 「見えない糸」の話を思い出しました。
 誰の話だったか、講演会の講師の先生が言ったのか、それとも園の先生だったのか思い出せないのですが、普通は、親と子の間に見えない糸があるのだ、と。
普通の子供は、親からそんなに離れた場所に行かないし、親が呼べばちゃんと親のもとへ戻ってくる。それは、そこに見えない糸があるから。

悠太と光太は、糸のない凧。糸のない凧を追いかけて、追いかけて、つかまえようとしてもまた風にふかれて飛んでいく。その凧をつかまえたときはもうヘトヘトで。すごく疲れて、悲しくて。
でもこのとき確かに、光太との間に、すごーくすごーく細いけれど、見えない糸がつながっているのを感じることができたのです。
親が子供を呼んで、子供が親のもとへ戻ってくる。
そんな当たり前のことが、すごくうれしい。


この日の光太は、吊り橋がお気に入りでした。丸太が渡してある、本当の吊り橋。かなり怖い。私は渡ることができません。高所恐怖症の夫も怖いはずですが、仕方なく光太に付き合います。その吊り橋を、マイペースで渡っていく光太。疲れたらよっこらしょ、と転落防止用のネットに降りて(!)休憩。やめてくれー。

途中、吊り橋を渡りだしたものの、やはり怖くてなかなか進めないおばさんがいたのだそうです。そういうとき、後ろの人は普通追い越さずに待つのですが、光太がそんな暗黙のルールを分るはずもなく。そのおばさんが持っていた荷物をぐいっとつかみ、追い越し、おまけにきっとそのおばさんを振り向き、まるで「おばちゃん、おそいわよっ!」とでも言うかのようにきっと睨んだのだそうです(笑)。
夫いわく、「すげー感じ悪かった」。って、ほんまかいな。

光太。吊り橋もスイスイです。


29日、県北の三次市にある「みよし風土記の丘」へ行きました。
ここは悠太・光太には初めての場所ですが、私のおすすめスポット。古墳や高床式住居などがあるほかは特に何もなく、芝生がいっぱい。きっと、悠太・光太も気に入るだろうと思っていたのですが・・・
思いのほか、不評。せっかく高速で1時間かけて行ったのに〜。悠太はまあまあだったのですが(悠太はどこへ行っても砂遊び)、光太が思い切り不満顔でグズグズ。
ということで、急遽目的地を変更して、県立みよし公園へ。

ここも初めての場所だったのですが、行ってみると、大きなふわふわドームががあって、グズグズ光太の目がキラリ〜ン!もちろん悠太も「うっきゃー!」
それはそれは大喜びでございました。
これといって何もない、静か〜な場所が好きな二人だけれど、あまりに何もなさすぎてもつまらないのね。母、学習いたしました。
とっても楽しかったらしく、帰ろうとしても「まだ遊ぶんじゃー!」と光太は激怒。いつもは車に乗ると落ち着くのに、車にのってからもずっと、「あったった、たったってって、だったーっ!」と大文句垂れていました。それもまた、かわいいんだけど。

県立みよし公園にて。悠太。


悠太・光太を外へ遊びに連れて行くと、そりゃあ大変です。予想外の出来事に遭遇したり、ちっとも気が抜けません。結局、親が一番疲れます。「もう、行くんじゃなかった」と思うこともしょっちゅうです。
ドライブの間、夫とこんな話をしました。
「悠太・光太の手が離れて、夫婦二人できれいな公園へ行って、お弁当食べて・・・そりゃあ、のんびりできるけど、それって楽しいのかなあ」
「うーん。悠ちゃん・光ちゃんがいたほうが、楽しいだろうね」
「そうだろうねえ」

あいつらの背中を追いかけるだけでも、どんなに大変でも、それでも、悠太と光太がいてくれるから楽しいんだろうな。



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