夏休みの夫婦喧嘩


 13日に遊びに来てくれた私の義姉は、山口県萩市に住んでいます。そこで、兄は特別養護老人ホームの職員、義姉は養護学校の学童保育の指導員をしています。
 そう、「養護学校の学童保育」です。
 最初、義姉に聞いたときは「は?養護学校の学童!?」と、?マークがいくつも頭の中をよぎりました。

 養護学校に学童保育があるのって、私もよくは知らないのですが、結構珍しいんじゃないでしょうか。普通の小学校の特殊学級に通う子供も、学童保育となると入るのは難しいと聞くし、障害を抱える子供の放課後活動は、親が面倒見て当然という風潮がある。それゆえ、障害を抱える子供を持ち、さらに仕事を持つお母さんは、夏休みなどの長期休暇の際は、子供の預け先に四苦八苦しているはずです。

 萩市の養護学校の学童保育は、小学部1年生から6年生まで利用できるそうです。時間は午後5時までですが、その間、お母さんは安心して働けます。
 義姉によると、現在、その学童を利用する子供は7人。そしてなんと、指導員の人数も7人!完全なるマンツーマン保育なのです。
 なんという、手厚さ・・・
 なんでも、「養護学校にも学童保育を!」と立ち上げに頑張った方がいらっしゃったのだそうです。もちろんその頑張りゆえの結果なのでしょうが、その声に耳を傾けてくれるお土地柄だったということ。普通の自治体では、養護学校の学童保育なんて、いくら役所に訴えかけても、予算を組もうにも後回しにされてしまうはず。広島市内の養護学校なんて、建物そのものからボロボロだそうです。

 その点、萩市は養護学校自体も、田舎ゆえ各学年の生徒数は3人そこらで、担任教員も各クラス3人の配置。教室でもマンツーマンの指導が可能で、山口県内の他の養護学校と比べても充実しているそうです。
 うらやましすぎる!

 
 いいなあ、いいなあ・・・
 その夜、ずーっと私は言い続けていました。
 今のところ私は外で働く気はないし、学童保育も必要はないけれど、そこに安心して子供を預けることができる学童保育があるのなら、働きたいと思う。「働く」という選択肢ができる、世界が広がるのです。

「いいなあ、萩。ほんと、小学校の間だけでも萩に移住したいわー」
 延々と萩をいい、いいと言い続ける私にうんざりしたのか、夫がぼそっと言いました。
「あっちの町の福祉が充実している、この町はだめだ・・・って愚痴ばかり言っている障害児のお母さんがいるけれど、そこに充実した福祉の町があるのは、それまでに一所懸命動いた人がいるからだ・・・・って○○さんが言ってたなあ」

 はっ?
どういうこと!?
その夫の言葉が、思いきり、思いきり、私の地雷を踏みました。

それ、どういう意味?「福祉を充実させるため」動かない母親は愚痴や不満を言うことすらできないわけ?
そりゃあ、私たちの先輩お母さん、お父さんが頑張ってくれたおかげで、今の福祉があることくらい、私だって分かっているわよ。
今も、子供のことを思ってNPOを立ち上げたり、作業所をつくったりしている親御さんもいる。すごいなー、と思う。えらいなあ、と思う。でも、そんな「えらい」お母さんにならなきゃ、愚痴言っちゃいけないわけ?
そんな「えらい」お母さんなんて、一握りでしょ。
私は、そんな「えらい」お母さんにはなれない。目の前の我が子のことでいっぱいいっぱい。毎日へとへと、くたくたなのよ。
きっと、そうやって1日1日をなんとかやり過ごしている、底辺で頑張っている母親がたくさんいる。「こんな制度が欲しいな」と思いながらも、役所に陳情する気力なんて残っていない。
一所懸命我が子の面倒をみて、気を配って、その母親が、「あの町はいいなあ、福祉の充実したあの町に住みたいなあ」って思うことが、いけないの!?夢を見るのはいけないの?
母親をバカにするな!
そんな「○○さんの言った言葉」を引用して母親を遠まわしに揶揄する前に、子供の食事3食つくってみれば?

きっと、夫も私がこんなに逆上するとは思ってもいなかったんでしょうねえ。そこらへんが、甘いっての。
「そんなつもりで言ったんじゃない」としどろもどろに言い訳するものの、そこにあった嘲笑の匂いを私が見逃すわけがない。たとえ本当に「そんなつもり」じゃなくても、その言葉で私が不快な思いをしたのは事実。「そんなつもりじゃない」で許されるものじゃあないでしょ。

翌朝から、シカトです。返事もしないし目も合わさない。
普段おしゃべりな私が、口をきかない。最大級の怒りの表現です。ま、半日ももたないんですがね。
そこんところを分かっているので、夫も余裕です。「お母さんが、1日中黙っていられるわけないでしょ」って。
結局私の負けってこと?悔しいー!


我が家は朝日新聞を購読しているのですが、今、「産後のうつ」について連載しています。
私も、産後のうつに苦しんだ一人。とても他人事ではなく、また、過去のこととも思えず、興味深く記事を読んでいました。
記事を読むと、当時の私よりも随分ましな状況(赤ちゃんは一人だけ、実家の母親が助けてくれる)の人ですら、産後のうつと診断され、治療を受けていました。
夫に、「今、産後のうつの記事が連載されているんだけど、読んでくれてる?」と聞くと、答えはNO。夫にとって、こんな記事は他人事なんだなあ、と思うと、当時何も助けてくれなかった夫に対する怒りが、忘れることのできない怒りが噴出してきました。

子供を手にかけようとする私を、「このまま車が私を轢いてくれないか」と思いながら夜な夜な歩く私を、電気コードで自分の首を巻く私を、見ていて、知っていて何もしてくれなかった夫。
その悔しさはいまだもって、私の中にくすぶっています。

産後のうつは、病院での治療が必要な病気です。そして、うつ状態の母親はまず、子供や家事から離れた環境で休ませることが一番だそうです。
結局、適切な治療も受けないまま、ずーっとずーっと子育てを続けてきたのです。

今は、子供と離れる時間もできて、それなりに気持ちのバランスを保てるようになりました。けど、何かの拍子にパニックになることも、たまにあります。うつ状態とは言えないまでも、いつ、そうなってもおかしくない火種がくすぶっているのが、自分でも分かります。
きっと、その火種は折につけ発火して、大爆発を起こす。

夫よ、あなたはそんな私をこれからずっと責任をとるんだからね。あのときのツケは一生もんなんだから。
覚悟しろ。

そんなこんなで、この夏休みの間、夫婦仲は微妙でした(笑)。冷戦ではなかったものの、仲良しラブラブとは言えず。まあ、結婚5年以上経ってラブラブもあったもんじゃないですが。

夫は9日間の休みを終え、明日から出勤。
夫、夕方からどんより。「会社行きたくな〜い。悠ちゃん、光ちゃんとお別れだ〜」と泣き言連発です。
こんなに子供にいいように使われて、けったくさい、辛気臭い妻がいても家がいいんかい。
それでも、家がいいんだそうですよ。



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