裸族の館へようこそ


 ただいま我が家へお越しいただきますと、もれなく裸ん坊の光太がお出迎えいたします。
 104.5センチ、体重13.2キロのスレンダーなボディ。これでもか!と浮き出たあばら骨がチャームポイント。そして4歳9ヶ月、若さはじけるお肌はぴちぴちのすべすべでございます。どうぞご存分に、ほおずりしてやってくださいませ。

 はー。
 なにゆえ君は、その貧弱な肉体を惜しげもなく披露するのか。

 もともと脱ぎっぷりのいい光太ではあったのですが、4月の下旬に入って、急に、家では服を着なくなってしまいました。100歩譲って、半袖の肌着1枚(もちろんノーパン)。
 気候が暖かくなってきたせいではありません。まだまだ朝晩はもちろん、日中も肌寒い日があります。元気なときに薄着で過ごすのはいいと聞きますが、裸(もしくは肌着だけ)というのは度が過ぎているというもの。

 何度着Tシャツを着せようとしても頑強に拒み、無理やり着せてもすぐに脱いでしまいます。
 衣服調節は体調管理の基本。風邪をひかせてしまったら一大事。家族全滅は避けられません。またあの苦しい引きこもりの日々はイヤ。絶対イヤ!

 ということで、光太対母紛争勃発です。
 折りしも、その日(4月21日)は園の家庭訪問日にあたっていて園はお休み。予想最高気温は15度とこの時期にしては低め。室内とはいえ、かなり肌寒く感じます。
 光太は素っ裸でリラックス。そこへ、
 「光太、着ましょう」と肌着をかぶせる私。
 「あっあっあっ!(いやーっ!)」
 「光太、服、着ます」
 「うわーん!(いやだって言ってるでしょ!)」
 「光太、着なさい!」
 「んぎゃーっ!」
 「着ろ言うとるじゃろうがーっ!」
 光太、号泣しつつ逃走。
 こんの、クソがきゃー!
 「もう着んでもいいわ!お前なんか風邪でもなんでもひいてしまえ!」
 そう言って、部屋の窓を全開にしてやりました。ひんやりした風が部屋の中へあっという間に入ってきます。
 仏の顔もはがれ、ただただ、思うようにならない光太が憎たらしく、光太をいじめたい、いたぶりつけてやりたい。
 ほれ、どーだ。寒いだろう。お前が服を着んからじゃ。お母さんの言うとおりにせんけえじゃ。
 やっていることは、かなりやばい。鬼ハハですよ。でも、引くに引けなくなってしまった。

 寒くなりゃ、いやでも着るだろう。
 時間がたつのを待ちます。そうして、部屋が冷え切ったところを見計らって肌着を持っていったのですが・・・光太、その肌着を見ただけで「んぎゃーっ!」と逃げてしまいました。
 光太よ、なぜそうまでして着ないのか。
 なんで着ないの?なんで?なんで?
 結局、部屋の寒さに負けたのは私、すごすごと窓を閉めました。そして、ヒーターをつけると・・・すっ飛んで来るのですよ、光太のやつめ。ヒーターのまん前に座って、ぬくぬく〜って、やっぱりあんた、寒いんじゃんっ!


 私も頭では分かっているのです。光太はただ、着たくないだけ。裸でいたいだけ。自閉ちゃんで、裸ん坊が好きな子は珍しくありません。もともと接触過敏のある光太ならなおさらのこと。
 そして、この裸ん坊をこだわりというならば、そのこだわりはずっと続くわけじゃない。ちゃんと時期がくれば、家の中で服を着られるようになることも分かっているのです。そんな、目くじらをたてることじゃない。
 きっと、これがよそ様の子どもなら、「ああ、今は服着たくないのね」の一言ですむはず。でも、我が子です。理屈じゃないのです。

 私の性格も性格。
 私は、猪突猛進タイプの単純バカ。何かに行き詰ったり、問題にぶちあたったとしても、ちょっと一休みとか、迂回して別の方向から考えてみようとか、そういった柔軟な対応ができないのです。
 この時点で、私の正しい答えは唯一、「光太に服を着せること」でした。

 だって、いやなのです。
 裸の光太が家中を走り回り、ジャングルジムによじのぼり、カーテンを全開にしてカーテンレールにぶら〜んとぶら下がる。通りすがりの人に、ちんちんはもちろん、お尻の穴まで見せちゃいそうな勢いなのです。
 サル山のサルか、っての。
 これを見た普通の人は、さすがに、引く。
そのうち児童相談所に通報されちゃうかもしれませんねえ(笑)。笑い事じゃないけど。


先日、園の保護者会の集まりがあり、「うちの子も家では裸よ」というお母さんとお話しました。
「裸で寒くないの?」
「寒くないみたいよ〜。うちの中で、あの子が一番元気で風邪もひかないの。風邪ひいてる弟が飲んだジュースをあの子が飲んでも、風邪がうつらないのよね〜」と笑うお母さんに(もちろん笑い話になるまでは、そのお母さんもすったもんだされたそうですが)、「へー、そんなもんかー」と。
もう少し、おおらかに構えなきゃなあ。

でも・・・数日裸でいた光太、あんた風邪ひいちゃったじゃないの!
ほら見たことか。裸の光太が風邪を引き、おまけに私も風邪をひいてしまいました(光太に意地悪をした罰が当たったか?)。
おまけに風邪をひいて以降、服は脱がなくなったのよね。よく分かっていらっしゃるわ。

光太。裸で毛布は気持ちいい?


さて。私は疲れました。疲れています。
何に疲れているかというと、子供の食事づくりに、です。
温かいものしか食べない子供のために細心の注意を払って食事の温度に気を遣い、冷めにくくかつ食べやすいメニューを考え、そしゃく力の弱い悠太のために、今でも食事の形状は離乳後期のまま。サトイモの煮物もすべて1センチ角に切り玉子でとじたり、煮込んだ白菜もみじん切りかつ片栗粉でとろみをつけたり。
どうにか、「食べていただこう」といたれりつくせりなのです。
それなのに、子供は(特に悠太)ちらっとその食事を見て、「オレ、こんなのいらな〜い。それより、ドーナツくれよ」とそっぽを向いたりする。

くっそー!こんなのやってられるか!!
飽きた。燃え尽きた。もう、知らん。
子供もそれなりに大きくなり(まだ軽量だけど)、どうにか大きくしなければ、この一口に出来る限りの栄養素とカロリーを・・・という重責からも解放された。
光太は手づかみで何かしら食べることはできるし、悠太も温度にさえ気をつけて、カレーやハヤシライスなどごはんにかけるものであれば、スプーンを使って上手に食べられるようになった。親の食事にも以前から興味を持っているし、食べられるものも増えてきている。
そろそろ、子供の食事づくりに血眼にならなくてもいいんじゃないか?

我が家の食事の介助は、親がひとさじすくっては直接舌で温度を確かめて、一つのお皿とスプーンから悠太、光太に交互に与えるというもの。これじゃ、わざわざ風邪菌を口移ししているようなもの。でもそれはう仕方の無いこととして割り切っていた。
けど。
そろそろ、そんなことはしなくていいんじゃないの?

もう、自分たちで食べてごらん。
自分たちの力で、自分たちの手で。食べたいものを、食べたいだけ。
もう、追いかけていってまでスプーンをつきつけたりしない。
決まった食事だけでなく、いろんな食べ物を見て、さわって、匂いをかいで、かじって確かめてごらん。

ふと、その時期が来たような気がしたのです。

今、新たなチャレンジを始めています。
できるだけ、自分で食べさせる。手づかみもちろんOK。
普通の赤ちゃんでも、手づかみ食べの時期はどんどん手づかみで食べさせて、しばらくすると手づかみを卒業していくのですが、まあ格段にのんびりなうちの子のこと。この先、この手づかみ食べの時期が何年続くかは分かりません。
でも、長いはいはいの時期が赤ちゃんの丈夫な足腰をつくるように、手づかみで食べる、自分で食べる、確かめる行為は、これからの悠太・光太にとってとても大切な、生きていくための基本となるはずです。

ということで、いつものごはんにかけるメニューはそのまま、新たなメニューが加わりました。ランチョンマットを2枚敷き、悠太の席・光太の席を決め、お皿もちゃんと二つ。
最近よほどいつものごはんがマンネリ化していたのでしょう、ごはんを食べることにおざなりだった悠太・光太ですが、新しい試みに興味津々!
急に珍しい料理を出してもさすがに口にはしないので、二人が食べられそうなメニューが主です。
悠太はスパゲティとギョウザが大好き。
光太はお魚(フライ、煮魚、焼き魚なんでもOK)、サラダ、玉子焼きが大好き。
食べられないものは、見るだけでもいいのです。ちょっと手にとって匂ってみてくれたら、しめたもの。

光太はスプーンがまだ使えないので、どうしてもスプーンを使うメニューのときは私が介助するのですが、8割、9割がた自分で食べています。
悠太は、スプーンを使うメニューは上手に食べるくせに、手づかみが下手。スパゲティを手づかみで食べるのですが、なかなか口に入りません。
それでも、自分で「食べたい」一心で、時間をかけて少しずつ口にしていきます。
そりゃあもう、頭も顔も服もめちゃくちゃ、床も悲惨なことになります。後片付けのほうが大変で、介助していたほうがある意味ラクだったかも(笑)。

けど、「自分で食べている」という実感は、子供に自信を持たせます。
二人の表情が、とってもうれしそうで楽しそうで。
あー、こんな顔をするのなら、もっと早い時期にやってみても良かったのかな、とも思いました。
結局、私が子供の手を離せなかったのかも。
4年間ずーっと続けてきた食事の介助、完全に卒業というわけにはいきませんが、新しいステージに入ることができたようです。

ただ・・・余波が少々。
手づかみ食べが苦手な悠太、いろいろ口にはするものの、モグモグしつつ、結局口から吐き出したりして、時間をかける割になかなか量が胃袋にはいっていかない様子。
手づかみ食べを始めて5日目の朝。あれ?悠太、痩せたかも(笑)。悠太が一回り小さくなっているみたいなのです。
いつも夕食は、ご飯ものを大人並みに食べる悠太、それでも背ばかり伸びて体重は増えないというのに・・・ありゃりゃりゃ。
まあ、いいか〜

ドーナツを食する悠太



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