ある日の出来事


 ある日のこと
 さあ、もう寝る時間。私と光太は布団に横になりました。けど、悠太はいつまでたっても薄暗い部屋の中、遊びモードでなかなか布団の部屋へ来ません。
 それが不満な光太。大好きな(?)悠くんがボクの横に来てくれない!(悠くんが来ないとね、いつまでたってもボクは端っこ。真ん中にならないのっ!ボクはお母さんと悠くんにはさまれて、真ん中で寝たいの!)
 で、業を煮やした光太、寝そべったまま手を悠太のほうへ伸ばします。
 最近、光太は何か用があるときは、手を上げて無言で人を呼ぶんです。夕食時など、光太は艶然とソファの上で絵本片手にくつろぎながら、母を見据えて手を上げ、「ちょっと、ごはん持ってきて」って、あんたが食べに来なさいよっ!
 さながら、喫茶店のウェイトレスに「ちょっとお姉さん、お水」と言わんばかりの仕草。結構ムカつくもんです。
 さて、このときも、光太は悠太を呼ぶべく手を上げて・・・偶然にも、手首をくいっくいっと。まるで手招き、「おいでおいで」しているかのよう。
 光太、(もちろん悠太も)手招きなんて発想はありません。手招きの意味すらわかっていないでしょう。
 「悠くん、来て〜!」の気持ちが、あの偶然の手招きになったのかな〜と思うと、おかしくて。「上手においでおいでできたね〜」と褒めちゃいました。悠太には伝わらなかったけどね(笑)でもお母さんには君の気持ちはちゃんと伝わったよ。
 悠太が布団に来たら来たで、また真ん中場所取り争いするくせにねえ。それでも、悠太がいてこそ、の光太のベッドタイムなのですね。


 ある日のこと
 子供と私でお風呂に入っていると、光太が真剣な顔でせまってきて、私の鼻の穴に人差し指をぷすっと突っ込んできました。
 どうも最近、人の鼻の穴が気になって仕方の無い光太。お父さんには無遠慮に鼻の穴に指を突っ込んでは「やめて〜」と嫌がられているのですが、母の鼻の穴に指を突っ込んできたのは初めて。まあ、なんて恐いもの知らずな。
「やめて」「やめて」「やーめーてっ!」とそのたびに顔をそむけます。すると、今度は下から母の鼻の穴を覗き込んできました。
いや、そんな、無垢で純粋な瞳でまっすぐに鼻の穴を覗き込まれても。恥ずかしいじゃないですか。鼻の穴なんてあんたにもあるでしょっ。あんた、いつも自分の鼻ほじってるじゃないの。
よく分からんけど、不思議だったんでしょうね。鼻の穴を科学する男、光太。


ある週末のこと
週末といえば、私は子供に関する全般、食事の介助もお風呂も排泄も遊びも、ほとんどノータッチで夫におまかせです。
子供も得たもので、週末、何か用事があるときにはいつもお父さんに訴えに行きます。私は、「あー、らくちん、らくちん」と左うちわ状態です(実際は、買出しやら食事の支度やらで私も忙しく、子供の世話までまわらないだけですが)。
しかし、この状態に甘んじすぎたか。

週末、子供がまったく私に寄り付かなくなってしまったのです。特に、光太。悠太はまだニコニコしながら「抱っこ〜」と甘えてくることもあるのですが、光太にいたっては、私が気まぐれに「光ちゃんおいで〜♪」と両手を広げても、素通りしてお父さんの背中へ。お父さんの背中に張り付く光太に、しつこくも「お母さんにおいで、おいで」と手を伸ばしてみても、ぷいっと顔を背けて「お母さんはイヤっ!ボクはお父さんがいいのっ」と母を拒否するのです。
そして、お父さんとラブラブ状態を満喫。ボクはお父さんがいれば他には何もいらない、とそれはそれは・・・おもしろくないわけです、私としては。
「遊んで〜」とそばに来れば、「ええい、寄るな、触るな、あっちへ行け!」というくせに、都合のいい言い分だとは分かっているのですがね。

あー、そー。そんなにお母さんが嫌いなの。って誰があんたたちに、手のかかるおいしいご飯をつくっていると思っているの!冗談じゃないわよ!それなら、あんたたちの大好きなお父さんにごはんを作ってもらいなさいよっ!あんたたちの好みの味を全部知っているのはお母さんだけなんだからね!
ああ、腹が立つ、腹が立つ。

そりゃあ子供にとってみれば、怒ったりむすっとしていたり、都合のいいときにだけ(でもないけど)愛想笑いでご機嫌をとるお母さんよりも、いつも穏やかで、静かで、優しいお父さんのほうがいいに決まっている。

以前通っていた双子サークルのお母さんの1人が言っていました。「子供(男の子ふたり)が今、お父さん大好きで、お母さんは嫌い!って言うんです。もう、泣きました」
そのときは、ああ、そういう時期なのよ〜と他人事だったのですが、いざ我が身に降りかかってみると、とても平常心ではいられません。
母親が1日どれだけ子供に心を配って過ごしていると思っているのか。体調管理に食事、生活リズムを乱さないために、どれだけ私が子供に合わせて暮らしているというのか。
それを、週末、片手間に子供の相手をするだけの(そこまで言うと夫に申し訳ないですが)父親に、子供の「1番」をとられるなんて。

まあ、平日にもなればいやでも「お母さ〜ん」とやってくるのですがね。「へーっ。お母さんでもいいの。お母さんのこと嫌いじゃなかったの?へーっ!」
と、とことんひねくれた母親でございます。


ある日のこと
夕食どき。光太の体調思わしくなく、光太は一足先にごちそうさまして、和室のすみっこでうんち。それもノーパンで大量垂れ流しのゲリ。ひーっ!畳にしみこんだら大変!と、まだ食事中の悠太の食事介助を「あんた、自分で食べてて!」と放り出し、光太のゲリうんちの処理に追われていました。
なんとかうんちを始末して、手を洗ってテーブルに戻ってみると。悠太がもくもくと自分でスプーンを使って食事を続けていたのです!私が目を離してから5分以上はたっています。

園では自分で食事をするようになって久しい悠太も、家では「あ〜ん」と口を開けて待つ全介助。今まで、その悠太の雄姿を見るチャンスはありませんでした。
もちろん、スプーンですくう動作もまだまだ下手っぴで、ぽろぽろこぼれます。スプーンが間に合わないときは手づかみだったりします。
でも、その顔が真剣そのものなんですよ。懸命に、目の前のお皿と格闘しているのです。
「あらー、上手に食べてるねえ」と言うと、「ふふんっ!ボク1人で食べれるよ」とどこか得意げな表情です。「お母さんがあげようか?」と私がスプーンを手にしようとすると、「ボクが食べるの!」とその手を払いのけられてしまいました。

今では文字どおり、どんぶり飯を食べる悠太ですが、こんなとき思い出すのは、あの食べなかった時期のこと。食べ物に関心すら持たず、何をつくってもことごとく拒否していた二人。どうやってこの子たちは大きくなるんだろう、食べ物に関心がないということは、生きる意欲がうすい子たちなんだろうか・・・と毎日毎日心配していた時期。
それがまあ、こんなに「自分で食べたい」という意思を見せてくれるなんて・・・
こんな日が来るなんて。
思わず目頭が熱くなってしまった夕べのひとときでした。


 さて、そんなこんなの今週末、悠太・光太、そして夫は嘔吐下痢症に倒れております。もー、特に光太のひどいこと。ミルクを飲んでは(普通なら、水分補給はイオン飲料がいいのですが、悠太・光太は飲めません)、その3分後にはお尻から水便をジェット噴射させています。そしてすぐまたミルクを要求。
 夫婦して子供のエンドレスのゲリうんちの始末に追われる週末となってしまいました。
 今のところ私ひとり無事なのですが。最後に倒れたりして。



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