満点パパ・親バカパパ

 夫は、とにかく優しい、穏やかな性格だ。
よく、「おとなしい人ほどキレると怖い!」といわれるが、夫の辞書に「怒る、怒鳴る、ののしる、八つ当たりする」という言葉はない。人を恨んだり、ねたんだりすることもない。夫から人の悪口を言うのを聞いたことがない。
 普通の会社員なので、会社の人間関係や仕事でイライラすることもあるのだろうが、それをまったく家庭に持ち込まないので実際のところよく分からない。
 極たまーにイライラしたり、怒ったりすることもあるみたいだが(その多くは私のわがままが原因だったりするのだが)、それもよーく見ていないと分からない。「もしかして、怒ってる?」と確認して初めて、ああ、怒ってるんだー、と分かる。
 感情の起伏があまりなく、楽しいときもしんどいときも、見た目あまり変わらない。
 夫は、そんな人。

 そんな夫は私より5歳年下だ。
夫がパパになったのは、25歳の誕生日の一ヶ月前。まだまだ遊びたい年頃だったのだろうが(少なくとも25歳の頃の私は遊びまくっていた)、あれよあれよという間にパパになってしまった。

 子供が生まれてからというもの、ありとあらゆる家事・育児をできる限り協力してくれている。
 子供が赤ちゃんだった頃、夜泣きで寝ないときも、「どうして寝ないのっ!」と怒り叫ぶ私の横で、「赤ちゃんじゃけえねえ」と、泣く子を抱っこしながら持ち前の気の長さでまったく動じない。
 私が食料の買出しで外出するときも、泣いてばかりの二人のお守りをたんたんとこなす。「大変だったでしょう」と聞いても、「うーん、なんとかなったよー」。決して、「冗談じゃないよー、もうイヤだ、勘弁してくれよ」なんて私みたいなことは言わない。

 夫も、きっと子供が新生児の頃は大変だったと思う。仕事は忙しく、朝は6時45分には家を出て、帰宅するのは深夜1時、2時なんてのはざら。日付が変わる前に帰って来ようものなら「早かったね!」とびっくりする。平均睡眠時間は4時間。その睡眠時間さえも、子供が交互に泣くのでぐっすり眠れるというわけにはいかない。
 それでも、愚痴一つこぼすことはなかった。

 子供が成長して、表情が豊かになったり、はいはいをし始めたりするにつけ、夫の親バカ度はどんどん増していった。
 かわいい、かわいいを連発するのは当たり前、「可憐な赤ちゃんじゃ」と目を細める。
当時の私は、子供のことをかわいいと思えずにいたので、こんなにも子供のことを「かわいい」と思える夫がうらやましくもあったし、腹がたつこともあった。
 また、あまりにも私が子供に冷たいので、かわいそうに思って余計に愛情をかけてやっているのだろうか、とひねくれて考えることもあったが、単純に、夫にとって子供はただただかわいい存在だったようだ。

 普段は子供をかわいいと思う余裕のなかった私だが、写真だけは違った。少し気持ちの余裕ができ始めた7、8ヶ月頃から、写真をたくさんとるようになった。子供が寝た後、できた写真を眺める。こぼれんばかりの笑顔の数々に、ようやくかわいいなあ、と思うのだ。写真だと一歩さがって子供を眺めることができるのかもしれない。
 けれど、夫は違った。
最近知ったことなのだが、夫は写真を見ても、「こんなの、ほんとの悠太と光太の実力じゃないやい!本物のほうがもっとかわいいもん!」と思っていたのだそうだ。
 これには、私もあごが落ちた。どうりで、写真を見せても反応が薄かったはずだ。

 このホームページの中に子供の写真がいくつかアップしてあるので、悠太と光太の顔は見てもらえばわかるのだが、とってもあっさりとした和風の顔立ち、十人並みの顔だ。けれど、夫は「客観的に見ても、ゆうちゃんとこうちゃんってかわいいよねえ」と最近まで信じていた。ようやく、「もしかしたら、結構ふつうかも・・・」と現実をみつめつつある。

 平日は子供が寝た後に帰ってくる夫。その夫の唯一の楽しみは子供と添い寝することだそうだ。寝顔をうれしそうに眺めて、「はーっ・・・癒しじゃ」
休日も、「何かしたいことはないの?」と尋ねても、「ゆうちゃん、こうちゃんと遊ぶのっ!」・・・ほかにはないのか?
携帯電話の待ち受け画面はもちろん、悠太と光太の写真。仕事の休み時間には動画を眺めたりすることもあるらしい。親バカぶりはどこまでいくのか?

結婚したばかりの頃は、まだ若い「オニイチャン」だった夫。今やどこからみてもいい「オトウチャン」である。
本来、愛情表現もたんたんとしていたはずの夫をここまで「ゆうちゃん、こうちゃんラブラブっ!」にしてしまう悠太と光太、恐るべしというべきか。
いかんせん、私には分からない世界。勝手にやっててちょうだい。
さあ、私は広々と1人で布団に横になるとするか・・・




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