光太はいい子


 最近よく、夫も私も、「光太はいい子じゃのう・・・」とつぶやく。
 最近の光太は、とっても安定している。早寝・早起き・快食・快便。もちろん、何かのきっかけで「キーッ!」とか「うわーん!」ということもあるが、ほぼ1日中ごきげんで、ニコニコしている。
 夜中に起きてしまった悠太が朝方まで寝付けず、「眠れないよ、眠たいよー!」とギャーギャー泣く声に、朝5時前から起こされても、「あれ、もう朝ですか?おはようございます。いや、お気遣いなく。ボクはお水遊びしてますから」と、早朝からお風呂へ直行。自分でパジャマを脱ぎ、お湯を出して「あーっはっはっは〜」と遊んでいる。

 早起きの光太は、朝からおなかがすく。
 以前は朝ご飯なんて食べられなかったのだが、この2学期に入ってからというもの、毎日しっかり朝ご飯を食べている。
 悠太が、なかなか朝は食べられないので、朝食の時間はできるだけ先延ばしにしているのだが、それまで光太のおなかはもたない。「おなかすいた、何かちょうだい。ポテトチップちょうだい」とお菓子の入った戸棚の前でアピールする。
 うーん。朝からお菓子はやめとこうよ。これでどう?と、ふりかけご飯を見せると、にっこり。うれしそうにつまんでいる。
 ポテトチップも大好きだが、「ごはんはイヤだ!お菓子がいい!」というわけではないらしい。うう、いい子じゃ。
 ふりかけご飯も先に食べているのに、二人に、と用意した朝食もしっかり、当然のごとく食べる光太。エネルギー満タンで出発!

 お昼も、ちゃんと園でふりかけご飯を食べる。給食の準備を先生がしているときから、椅子に座って、ご飯を今か今かと待っているらしい。
 おやつも食べるし、夕食もしっかり。
 とにかく、3食しっかり食べている。

 私が子供に望むのは、「ごはんをちゃんと食べましょう」これだけ。どれだけあんたたちがおバカだろうが、そんなことは実はどうでもいいの。ごはんを食べてくれる、それだけで、花マルの100点満点!

 ここ最近の光太の精神状態の安定は、3食しっかり食べていることにあるような気がする。
 おなかがすくと、誰でも元気がなくなる。ごはんを食べると、元気が出る。
 園での活動を光太が思う存分楽しめているのは、遊んでおなかがすいても、ちゃんとご飯が食べられる(ボクが食べられるものがある)という安心感があるからじゃないのかなあ。
 とにかく、いい子の光太なのだ。

 一方、悠太は・・・
 夜中に起きてはギャーギャー泣き、家族みんなを寝不足に陥らせる。朝起きてはぐずぐず。朝ご飯は食べない。見るのもイヤといった感じ。
園での給食も、もちろん食べられない。最近は、家でつくったクリームシチューやカレーを持たせて、どうにか何か食べてくれないか、と試行錯誤しているのだが、食べない。母子通園で私が付き添う日は、私の介助で食べてくれることもあるのだが、やはり、温度のこだわりが強い悠太には、親以外の人の食事の介助はハードルが高いのかもしれない。

悠太はおやつも食べない。
今、口にするお菓子はスナック菓子の「サッポロポテト」だけなのだが、その食べ方も・・・見ていると、こめかみがぶちキレそうになる。
小袋を抱え込み、一本つまんで、先っぽ1センチばかりを齧っては、残りは袋にもどす。齧っては袋に戻し、齧っては戻し・・・
よだれがついたものを袋に戻すのだから、しばらくすると、小袋の中はまんべんなくしめっぽくなる。そうすると、もう食べない。袋をさかさまにして、中身をぶちまけ、握っては上からぱらぱらと落として遊びはじめる。
だいたい、お菓子は移動の車の中で食べさせることが多い。園バスに送っていく車の中(朝ご飯のかわり)、園バスから降りて帰宅する車の中。毎回車の中は、悠太がぶちまけたサッポロポテトだらけになる。

ちゃんと一袋をまじめに食べてくれれば、それなりのカロリーになるものを、おなかがすいているだろうに、結局胃の中に入っているのは、数本分にしかならない。
しばらくするとまた欲しがるのだが、食べ残しは食べない。新しく、自分の目の前で封を切ったものでないといけない。
ご飯の食べられない悠太のために、ほんの数本分を与えるために、ひどいときは、一袋40円の小袋を、1日に3つ開けることもある。

もったいない。情けなくて仕方がない。何がいやかって、食べ物を粗末にすることが一番いやだ。
ご飯を食べてくれれば、それだけでいいのに。
そんなだから、単独通園の日は、悠太は一日一食、夕飯しか食べられないことが多い。
悠太も、お菓子より、ご飯のほうがおなかにたまる、心地よい、おいしいことは分かっている。夕飯は、文字通り、飢えた子のように食べる。泣きながら食べる。光太が食べようとすると、「おまえはあっち行け!」と怒る。

園では、ちゃんと楽しく遊んでいるようだ。でも空腹のまま。空腹のままで頑張っているものだから、家に帰ると、それはそれは荒れる。荒れ狂う。夕飯を食べて満たされるまで。
おなかがいっぱいになれば、この嵐は去ると分かっていても、疲れる。
「そんなになるのだったら、どうして朝食べないの!どうしてお昼食べないの!どうしてお菓子食べないの!」と、声を荒げることもある。
そんな悠太の横で、光太はニコニコ、キャッキャッと笑い声をあげながら、ソファの上をジャンプ、ジャンプしている。
なんていい子なんだ、光太は・・・


そんな光太の、ちょっと「へ〜」な今週のエピソード。
台風が去ったばかりの水曜日。園バスに乗せようと家を出たのだが、いつもの道は大渋滞。広島インターから北に車で5分ほどに我が家はあるのだが・・・どうやら高速道路はまだ通行止めで、高速道路の開通待ちの車の群れに巻き込まれてしまったらしい。
まったく身動きとれなくなってしまった。これは、園バスには間に合わない。園に連絡して、バスには乗らず、私が直接園まで送り届けることにした。
どうにか迂回すると、高速道路近辺の道以外は、すいすい。園バスが到着する前に着くことができた。

悠太・光太を、それぞれのクラスに送り届ける。悠太はすんなり入室。
実は、光太の様子を楽しみにしてきた。連絡帳には、「お部屋に入るなり、ゲラゲラ笑いながら走り回っています」と書かれていたり、単独通園のクラスにもすっかり馴染んでいる様子。クラスで、光太はどんなに楽しそうな顔をするのだろう?

「光ちゃん、おはよ〜」
いつもの先生、いつものクラス。
しかし、光太、入室するなり、表情を固くして、体を縮こまらせて抱っこを拒否し、お部屋から脱走、逃走!すごい勢いで廊下を走っていく。
「あれ、光ちゃんどうしたの!?」
 どうやら、「お母さんと一緒に来たのに、どうしてこのクラスなの?ここじゃない!」と混乱してしまったらしい。
 月・水・金と園バスに乗って、単独通園のときに入るクラスと、火・木と母子通園で入るクラスは違うのだ。
 光太、ちゃんと分かってるんだ。ただ、連れてこられたまま、「まあ楽しいからいいや、わ〜い」と遊んでいるんじゃない。お母さんと来る日とバスに乗る日の違いも分かっていて、遊ぶお部屋も、一緒に過ごす先生のこともちゃんと認識しているんだ。
 光太、かしこ〜い!
 感動してしまった。

 おバカだから、と見くびってはいけない。けど、本当に、どこまで分かっていて、どこまで分かっていないのか、見極めるのは難しい。
 実は、母が思っているよりも、いろんなことを分かっているのかもしれない。
 ちなみに、その日は最初は混乱したものの、しばらくすると納得して、落ち着いて遊ぶことができたらしい。
 えらいぞ、光太!


 さて。
今回の衆議院選挙、私は期日前投票を利用した。子供のいる日曜日、子連れで投票に行くのは難しいので、期日前にできるのは、とっても便利!

20歳になり選挙権を得てから、私は出来る限り選挙に行くようにしている。当然の権利、だけどその権利を獲得するまでの道のりを思うと、政治のことはよくわからないまでも、その権利を無駄にすることは申し訳ない。

私が初めて行った選挙は、参議院選挙だった。ミニ政党が乱立した選挙で、おもしろかった。当時、私はフリーターで、一生懸命に政見放送も見て、考えた。考えて・・・私の初めての一票は、太平シローが党首の政党に入れた(笑)。その政党(今では名前も覚えていないが)は、全国でも得票数が5000票に満たなかった記憶がある。
へ〜、私の一票がこの中に含まれているんだなあ、ととても感慨深いものがあった。

話はそれるが、20代前半、いろんなものを見て、いろんな経験をした。
「憲法第9条の会」の集会にも参加した。リベラルなものに憧れていた。政党を超えた集会、のはずが、事実上、当時まだ勢いのあった社会党の集会だったことに、複雑な思いを抱えた。
アルバイトとして、1日8時間、フルタイムで働いていた私に、警察官は「無職」の烙印を押した。自分で働き、お金をかせいでいることに誇りを持っていた私は、「世間」が私をどう見るかを知り、悔しくて仕方がなかった。
2年間のアメリカ留学の最大の土産は、今、日本のお上がいかんとしてでも国民に植え付けたい、ゆるぎない「愛国心」だった。

 日本で生活していることが当たり前と思っている私たち。日本で生きる覚悟、なんてなかなか実感することはないだろう。その覚悟が、私の中には確かにある。
 そして、この国で結婚して子供を持った私は・・・その子供が障害者であるという事実をつきつけられた。圧倒的な健常者のための国のなかにあって、初めて、マイノリティの立場に立ってしまった。

 今回の衆議院選挙、こんなに真剣に考えて、悩んだのは、初めての参院選以来だった。
 郵政民営化、是か非か。そればかりが表立ったこの選挙。その陰に、悠太・光太にとって死活問題になりかねない法案があることを、どれくらいの人が知っているのだろう?

 前回の国会で、衆議院解散により廃案になった「障害者自立支援法」。今度の国会でも再度提出され・・・きっと、可決されてしまうのだろう、悔しいけれど。
 それでも、それを推し進めようとする政党に、多勢に無勢とは分かっていても、「否」と祈るような気持ちで意思表示してきた。

 この国を率いていくのに、大きな力をもつ勢力は必要だろう。しかし、親として一番に思うのは、「誰が、親亡き後のこの子たちの将来を幸せにしてくれるのだろう?」
 どうか、どうか。この子たちの幸せを。
 夫は、投票直前まで、誰に入れるか、どの政党に入れるか悩んでいた。その思いは、私と同じだっただろう。

テレビのニュースで映された、街頭インタビュー。「投票に行きますか?」の問いに、へらへら笑って「行きませ〜ん」と応えていたあなた。あなたの一票、私にちょうだい!
初めて、票が欲しくて買収する人の気持ちがわかった。


ちょっと堅い話になってしまったので、お口直しに、この週末のお話。
夫の兄夫婦のところに、2ヶ月前に男の子の赤ちゃんが生まれた。悠太・光太の初めてのいとこだ。その赤ちゃんに会いに行ってきた。
生まれてまだほやほやの、柔らかい赤ちゃんの感触に癒されてきた。悠太・光太は、まるで赤ちゃんのことは目に入らず、初めて訪れたお家をうろうろするばかりだったのだが。
いつか、悠太・光太にも弟か妹が出来る日がくるかな?

夫の兄夫婦の家と、私の実家は目と鼻の先。その足で、私の実家にも立ち寄った。あまり行くことのない私の実家だが、悠太・光太はすっかり「じじ・ばばの家」を覚えていて、くつろいでいる。
台所をうろうろしていた光太が、はた、と止まった。私を連れてきて、何かを欲しいとアピールする。「なに、どうしたの?牛乳飲むの?さっき飲んだじゃない・・・」
果たして、光太の目線の先には。
あ、これ。これかー!
爽健美茶の2リットル入りのペットボトルが。この、爽健美茶のペットボトルが、大好きな光太。あのラベルの柄がいいのかなあ?
500mlのものならまだしも、2リットル入りのボトルなんて、大きい、重い!あんたの手にあまるでしょ。
「ください、ください」と懇願する光太。
「あー、あれはねえ。梅酒が入っているのよー」とおばあちゃん。なおさらダメじゃん!
 相手にするのがメンドウになって、知らん振りを決め込んだ私。すると光太は、そばにいたおばあちゃんにお願いしている。それも、おばあちゃんの腰まわりに抱きついて、下からうるうるお目目で見上げて。

 その光太のかわいさに、思わずほだされたおばあちゃん。光太に、梅酒入りのペットボトルを渡してしまった。光太、大事そうに抱え込み、ニッコニコ。もう手放すつもりはない。
 おばあちゃんは笑いながら、「もういいよ〜。あげる、あげる」
 やったー!でかした、光太!5年ものの梅酒、ゲット!実家で漬け込んだ梅酒。欲しくても「ください」とは言えなかったのよ〜。

 その夜、夫とともに、光太の戦利品の梅酒を、ロックで飲んだ。
うーん、おいしいっ!
おいしかったよ、おばあちゃん♪




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