ひとりごと


 今回は、他愛もない私のひとりごとです。


 あー。太ってしまった。
 鏡の中に映る自分は、どこからみても「おばさん」である。情けない。
 私のおなかは、私の母親とまったく同じ肉のつき方になってしまった。
 結婚前の体重と比べると、プラス7キロってとこかなあ(それ以上かも)。夫から、「こんなのサギじゃ!」と言われても仕方がない。言わないけれど。
 「太ったね」とは夫は言わない(「そんなこと恐くて言えない!」・夫談)。ニコニコしながら、それでも視線は私の豊満なおなかに釘付けで、やんわりと、遠まわしに「まるいねえ」とか、「ぼよよんってなってる」とか、「パンダちゃん」とか言うのだ。

 でも、弁解するわけじゃないけど、私はもともと太りやすい体質なのだ。私が、小・中・高とどれだけ太っていたか、親・兄弟、親戚、そして高校までの私の友達ならよく知っている。
 20歳を過ぎて、やせた。もちろん、それなりの努力をして。
 おしゃれするのが楽しかった。サイズを気にせずに、着たいものを着られるのがうれしかった。
 夫と出会って、さらにやせた。恋の力は絶大である。

 しかし、産後、「やせる」というよりやつれる一方だった新生児期が終わるとともに、みるみる体重は増え始めた。
 もともと食道楽な私。おいしいものに目がない。甘いものも大好き。家にこもって、他に楽しみもない。食べることしか楽しみがなかった。手っ取り早いストレス解消法が、食べることだったのだ。

 そしてダメ押しが、この4月からの、K学園で食べる給食!
 以前の私の昼食なんて、質素なものだった。納豆ごはん、これだけ。おかずがつくことなんて、まずない。まあ、納豆が好物なのだから文句はないのだが。
 それが、K学園に子供と一緒に行くようになり、毎回、ありとあらゆるメニューが、メインのおかず、サブのおかず、そしてスープとバランスよく出てくる。これがまた、うまいのなんの。
 そのおいしい給食を、うちの子たちは食べないときている。あらあら、しようがないわねえ、残すのもったいないわ〜と言いながら子供のお皿にも手が伸びる。それも二人ぶん。
 今、母子通園は週に2日だが、それ以外の平日にも、この給食の影響が・・・
 納豆だけじゃ物足りない。ゼイタクなことに、「おかずのない昼食」に耐えられなくなってしまったのだ。

 子供がK学園に通い始めて、今までとは違ったストレスも溜まるようになった。それを解消するために飲む、夕食時のビールもやめられない。
 こいつらの世話なんて、酒でも飲まなきゃやってられるか!ってなもんだ。
 以前は週末だけ、それも、一缶350mlの発泡酒を夫と半分ずつ飲むだけだったのに、夏の暑さも手伝って、最近はず〜っと、毎日私一人で一缶飲んでしまう。
 うう、本気で、やばい。

 そんなに太っていることが気になるなら、頑張ってやせればいいじゃないか。
 私もそう思う。結婚前のようにとはいかないまでも、やせて、きれいになりたい。育児中でも、おしゃれに手を抜かず、きれいにしているお母さんを見ると、うらやましいと思う。あこがれる。あんなふうになりたいと思う。
 「いつまでもきれいなママって言われたい!」とうたった雑誌を買うこともある(笑)。
 
けど・・・
いつ、どこへ行くか分からない子供を追いかけるのに、スカートははけない。パンプスもはけない(っていうか、持っていない)。泥だらけの子供に「抱っこ〜」って言われたら。鼻水、ヨダレ、なすりつけられたら。
たまにつけたネックレスは引きちぎられるし(まだ根に持っているぞ、悠太!)、こんな状態で何ができるんだ!

どんどん、理想とするエレガントなママから遠ざかっていく。
しかし、エレガントなママもいいけれど、どーんとした肝っ玉母さんにも憧れるのだ。化粧っけもなく、おしゃれから程遠い、それでも明るく、魅力的でどっしり構えたお母さん。
でも、肝っ玉母さん道のほうが実は難しいかも。
結局、中途半端に、「おしゃれしたーい、でもできなーい。いやーん、また太っちゃった〜」とずっとグズグズ言っているんだろうなあ。


ここんとこずーっと、ソフトに後ろ向きな私。
少し前のことだけど、先月、NHK「生活ほっとモーニング」に明石洋子さん、徹之さん親子が出演されていた。
自閉症の子を持つ親なら、知らない人はまずいないだろう、明石さん親子。息子の徹之さんは、知的障害のある自閉症の人として初めて、一般の公務員試験に受かり、公務員として働いている(このテレビで、マンションのローンも徹之さん自身で返済していると知ってびっくり!)。
そんな徹之さんを育てた明石洋子さんは、私も憧れのスーパーお母さんだ。洋子さんの著書3冊は、夫も私もくまなく読み、影響を受けた。

しかし・・・テレビで実際の洋子さんを見て思った。
「はー。こりゃ、私にゃできんなあ」
明るく、バイタリティにあふれる洋子さん。それでも、徹之さんをここまで育てる道のりは、もちろん平坦ではなかったはずだ。まさに、親子で二人三脚で頑張って、乗り越えてきたのだ。
私には、そこまでできない。

また、明石さんに影響を受けた、というお母さん。
息子さんは、養護学校で職業訓練をいろいろとしたのだが、結局、どこも就職先を紹介してもらえなかったのだそうだ。しかし、明石さんに影響を受けたそのお母さんは、「親があきらめちゃいけない、と思いました」

私は、その言葉を聴いた瞬間、背筋が寒くなった。
親は、私は、どこまで子供のためにすればいいのだろう・・・どこまで、子供の人生にかかわれば済むのだろう?

普通の子供は、ある年齢になると、自分の人生を方向はある程度自分で決める。やりたい勉強、やりたい仕事。それは、親の思惑など関係なく、親はただ、子供を見守り、応援するだけだ。
子供は、親の庇護のもとにあってなおかつ、早い段階で自立の一歩を踏み出す。

けど、私は?どこまで悠太と光太の人生を導いてやればいいんだろう?
子供を自立させるまで?
自立ってなんだ?
就職させるまで?
家を巣立つまで?
できるのか?悠太と光太に。できるのか?私に。

「親があきらめちゃいけない」と言ったお母さん。お母さんがあきらめなかったかいがあり、息子さんは、就職できた。
「一般就労の夢がかないました」とお母さん。
そこで、また私は寒くなる。私は問いたい。
その夢、だれの夢?
息子さんの夢?ほんとう?お母さんだけの夢だったんじゃないの?

確かに、子育ての一つの区切り・ゴールが、子供が自分でお金を稼いで、自活、自立することだと思う。障害者にとって、自立するだけの糧を得ることは難しい。だからこそ、子供を「自立させること」が大きな親の役目・・・夢、なのはわかる。
子供にとっても、「自活・自立」、自分の力で自分の人生を歩くことが、人として、最大の目標だ。

子供の人生は親のものではない。
親の夢は子供の夢ではない。
分かっているけど・・・子供が障害をもつ場合、その線引きは難しい、危うい気がする。

子供と二人三脚のつもりが、子供を引きずっていないか?
今はまだ、何もかも大人の手が必要な悠太・光太だけど、あと十数年後、ちゃんと自分を戒めることのできる親でありたい。


電車通勤をしている夫が、こんな話をした。
帰りの電車待ちのホームで、「キャーっ!」という女性の悲鳴が聞こえてきた。声のするほうを見ると、若い女性が、男にカバンを引っ張られている。すぐさま、そばにいた別の男性がその男を取り押さえ、駅員に男は渡された。大きな事件にはならなかったが、その女性は、恐怖とショックからかずっと泣いていた。その一件のせいで、電車が遅れて、帰るのが遅くなった・・・

夫は続けて言った。「ああいうときって、体が動かないもんだね」
ああいう場面に出くわして、人助けをできる人はそうそういない。トラブルに巻き込まれることが恐い。

私も、経験がある。
高校3年生の夏、家で母と夕食をとっていた。すると、「キャーっ!」という女性の悲鳴が聞こえた。明らかに、尋常ではない悲鳴。恐怖におののく、助けを求める悲鳴。
夕食の手がとまる。なんだろう?でも、こわい。
 私は「誰かが、ふざけてるんじゃない?」母も、「それもそうね」と夕食の席から立つことはなかった。ただ、悲鳴が耳について離れない、心臓はバクバクしていた。

 翌日、悲鳴の主を知った。同じ社宅に住む、私と同い年の女の子。男に自転車ごと倒され、そばの緑地に連れ込まれそうになったらしい。ちょうどそこに、彼女の弟が帰ってきて助けられ、最悪の事態はまぬがれた。
 しかし。恐ろしいのは、そのことが、何十世帯もが住む社宅のすぐそばで起こったことだ。何人もがあの悲鳴をききつつ、(私を含め)助けに行った人はいなかったのだ。

 夫の話を聞いて、そんなことを思い出した。
 「ああいうときって、体が動かないもんだね」という夫に、「それでいいよ」と言った。
 とにかく、夫にはトラブルに巻き込まれないで欲しい。もし助けようとして、その電車のホームの男が刃物を持っていたら?

 見知らぬ誰かのヒーローになんて、なって欲しくない。
 家族のために、小心者でいてほしい。
 そんなことを思う私は、卑怯だろうか?
 こんなことを思っていたら、いざというとき、私たちも助けてもらえないんだろうなあ。

 でももし、夫に万が一のことがあったら。
 結構、経済的には何とかなっちゃうのだ(笑)。家のローンは免除されるし、生命保険もある。子供の手当てもあるし、子供の教育費にさほどお金がかかるわけではない。  贅沢しなければ暮らしていける。というよりも、もしかしたら、今よりも余裕があるかもしれない。

 けど、精神的には、夫がいなければ私は生きていけない。夫の支えなくして、どうやってこの子たちを育てていけるのだろう?
 これからどんどん、体も大きくなっていくこの子たち。一人ならまだしも、二人を。
 
夫には、災いを避け、何があっても生き延びてほしい。
そして、私を看取り、どんな職につくかわからないが、悠太・光太のリタイアした後、彼らの老後の安定を確認しなければいけないという、私との約束がある。
計算すると、夫は90歳までは頑張ってもらわなくてはいけないのだ。


さて、今週も悠太・光太は元気いっぱい!
光太の「笑いの神様」は相変わらず取りついている。食欲も旺盛で、連絡帳に書かれているお昼ご飯の量も、「ふりかけごはん 1膳」から2膳、最近では3膳に。
悠太は・・・ま、いっか。相変わらず困ったちゃんで、何かにつけキーキー言っている。
 やれやれ。君のおかげで、母はビールがやめられないんだぞ!



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