おうちが一番!


 夫も夏休みに入った2日目、8月10日から、久しぶりの家族旅行に行ってきました。
 旅行、といっても近場。我が家から車で2時間足らずの、広島県内のリゾートホテルに併設してあるログコテージに泊まりました。
 コテージのまわりには、何も、観光名所もなく、ただのんびり過ごすだけの、田舎まちです。
 2年前の夏にも、同じログコテージに泊まりました。
 さて、悠太・光太4歳の夏、いったいどんな旅になることやら?期待半分、不安半分の出発です。

 1泊といっても、大荷物。
 コテージでは自炊なので、私は出発の日の早朝から、その日の夕食の支度、帰宅後の夕食の支度に追われます。コテージにはキッチンがあるのですが、熱源は電熱コンロが一口だけ。2年前にそれで往生したので、今回はすべて準備したうえで出かけます。
 持ち込む食事だけでかなりの量。
 家にいることに飽きた悠太・光太が、ギャーギャー「早くしろー、外に連れて行けー!」とせかします。

 いざ出発したものの、私が「あ、明日の朝ご飯のパン忘れた!」だの、「アンメルツ忘れた!」だの(肩こりの私は、これがないと眠れないのです)、家に忘れ物を取りに帰ったり、薬局に寄ったり。そのたびに子供は、「さっき家を出たばかりなのに、なんでまた家に帰るんじゃー!」「どこに行くんじゃー!」とパニック。私は、「うるさい、だまれーっ!」とイライラ。
 家を出たばかりなのに「ああもう、旅行なんてやめじゃっ!帰ろう帰ろう!」と、気の短い私(旅行したいと言ったのは私なのに、ねえ)。そんな子供と私にも表情ひとつ変えない、冷静な夫。夫にとって、こういう展開は想定内のこと。夫いわく、「もう、慣れた・・・」。

 いったん高速に乗ると、子供も落ち着いてニコニコになりました。
 高速で約1時間、高速をおりてから約30分で、目的地のコテージに到着です。2年前に来たことがあるといっても、悠太・光太にとってはほぼ初めての場所。
「なんじゃー、ここは!ギャー!」とならないかなあ、大丈夫かなあ?という心配をよそに、二人はコテージの中に入ると大はしゃぎです。光太は早速、ソファーの上をぴょんぴょん、ジャンプ。悠太は部屋の中を物色。
 とりあえず、一安心。
 
 ひと休憩した後、コテージのそばにあるホテル内のプールで遊びました。
 更衣室に入ろうとすると「どこへ行くんじゃー!」とパニックを起こした光太も、いったんプールのお水を見るとニコニコに。悠太ももちろんうれしそうです。
 夏休みとはいえ、さほど人も多くなく(というよりも、少なく)、のんびり、ゆったり。ジャグジーもあり、リゾート気分満喫です。
 悠太・光太はジャグジーをいたく気に入ったよう。家族4人でジャグジーを独占。はー、極楽、極楽。

 2年前、悠太・光太はまだまだ小さく、今よりももっと意思の疎通ができず、手すらつないでくれない、つかんだ手はあっという間にふりほどいてどこかへ行ってしまう、そんな彼らとプールに行くことなど、危なっかしくて、考えたことなどありませんでした。子供の水着すら持っていなかったもんなあ。
それが、2年後こうしてホテルのプールで、家族4人楽しめるなんて。(更衣室での更衣はまだヒヤヒヤだけど。裸のまま脱走しかねないですからねえ・笑)
2年間の確かな成長を感じます。

プールの後は、芝生を敷きつめられたホテルの広い庭を走り回って遊びました。ここから見える山並みは絶景!ああ、本当に気持ちいい。日常の疲れがすーっと抜けていくようです。

夕方も6時近くなり、コテージに戻ることにしました。
ここからが、悪夢のはじまり、だったのです。

いっぱい遊んで、おなかもすいた悠太・光太。
てっきりおうちへ帰るものだと思っていたら・・・なに、ここ。なんだ、これ?
コテージに最初に着いたときは、遊び場に来た感覚で喜んでいたものの、今は明らかに、悠太・光太の顔に戸惑いが見て取れます。
おなかがすいただろう、と家から持参したクリームシチューを温めようとするものの、電熱コンロはなかなかたちあがりません。
その間に、お風呂に入れることに。
しかし、あれほど「お水大好き」の二人が、コテージのお風呂に入れようとすると、大パニックになってしまいました。服を脱がせようとしても、必死の抵抗。なんとかお風呂場に連れ込んでも、扉をばんばん叩き、あらん限りの声を出して泣き叫ぶ二人。
これはまずい。非常にまずい。
二人の尋常ではない叫び声に、私もパニック寸前になっていました。
旅先のお風呂をゆっくり楽しむこともできず、急いで形だけ体を洗って。

お風呂から出ると、いったん泣き止んだものの、不安げな、固い表情は崩れません。
それでも夕食は、よほどおなかがすいていたのだろう、たくさん食べてくれました。とりあえず、一安心。
けど・・・悠太・光太の表情は一触即発。そして、ぐったり、疲れきっているように見えました。このままの状態では、この後大人がゆっくり食事をすることもできないだろう・・・と、夫と私の食事は後回しにして、先に子供を寝かそうということになりました。
お昼寝をしていない日は、だいたい8時前後、遅くても8時半過ぎには寝ます。
この日も、家とは違うからそう簡単には寝てくれないだろうけど、疲れているし、そんなには遅くならないだろう・・・そう思っていました。

しかし、その見込みは甘かった。
さあ寝ようね、と二人を寝室に連れて行くと、光太は脱走、悠太は火がついたように泣き叫びはじめました。その悠太の表情たるや、恐怖におののく、といった感じなのです。
寝室はシングルベッド二つをくっつけた状態にしておきました。しかし、ふだんベッドを見ることのない悠太には、「ここが寝る場所」ということが分からなかったのでしょう。そして、泣き叫びながら、私と夫の手を引き、出入り口のドアのところまで連れて行き、「帰ろう、帰ろう」とせがみます。
光太は光太で、悠太のように泣き叫ぶほどではありませんでしたが、ぐずぐず言いながら、やはりクレーンでドアのところへ何度も親を連れて行き、「帰ろう」と主張します。

やっぱり、そうきたか・・・
今回の旅行の一番の不安は、悠太・光太が「お泊り」を理解してくれるか、だったのです。
我が家は帰省するといっても、いつも日帰りで、お泊りすることはありません。最後のお泊りが2年前の旅行。まだまだ分からんちんの二人は、家以外の場所で眠ることに疑問をもっていませんでした。

2年経って、賢くなりました。
なんだよ、なんでお家に帰らないんだよ。ここは僕たちの家じゃない、僕たちが寝るところじゃない!お家に帰ろう、お家に帰ろうよ!
悠太・光太の言いたいことはイヤというほど伝わります。
けどね、今日のお家はここ。今日はここに泊まるんだよ。・・・これを、どうやって言葉の分からないこの子たちに伝えたらいいのだろう?

悠太の絶叫は延々と続きます。すでに、顔が変形するぐらい泣いて、ぼろぼろです。真っ赤な目で、それでも「こんなところで寝るもんか!」とばかりに目を見開いて、「帰ろう」と手を引きます。

私も疲れていました。おなかもすいてきました。いつも1日3食、決まった時間に食事をする私は、おなかがすくと、とたんに手がつけられなくなるくらい機嫌が悪くなるのです。
もう子供のことより、いつになったら私はご飯を食べられるのだろう?とそればかりが気になり始めました。
いつ悠太は泣き止むのだろう?いつ子供は眠ってくれるのだろう?私はいつご飯を食べられるのだろう?もうこのまま、夜中まで食べられないのだろうか?見通しの立たない不安で、私もパニック寸前です。

それでも夫は、分からない子供に、「今日はここで寝るよ」と繰り返し言い聞かせています。後で聞いたら、「引越した日の最初の夜と思って乗り切った」と言っていました。

なぜ夕食を食べた後もここにいるのか、お家に帰れないか分からず、パニックになっている悠太、「帰ろうよ」といい続ける光太。
悲しくなってきました。
本当は、旅行なら温泉宿に泊まって、豪華な会席料理を食べたい。けど、悠太・光太の負担を考えて、自炊のできるコテージにして最大限譲歩したのだ。それなのに。この子たちがいると、1泊の旅行すらできないのか・・・

情けなくて、悲しくて、泣けて仕方がありませんでした。
もう、チェックアウトして帰ったほうがいいんじゃないのか。帰ろう。ここからなら2時間もかからない。まだ間に合う。こんなに子供が苦痛を感じているじゃないか。これ以上ここにとどまる理由なんてない。もういい、家に帰ろう。

夫も迷い始めました。
それでもやっぱり、せっかく来たのだから、という思いが捨てきれず、「帰ろう」と思いながらも決断できないまま時間が過ぎて・・・
結局、子供たちが疲れ果てて弱って寝てしまうまで、待つしかできませんでした。
時間は10時前。寝る時間としてさほど遅い時間ではないのかもしれません。けど、子供の絶叫と、「帰ろうよ」の必死の懇願と格闘した約3時間は長かった・・・

ようやく親も食事にありつけ、久々に夜中のテレビを見たりするものの、疲れ果て気分はブルー。本当にこれでよかったのか?

時計の針は12時をまわり、そろそろ私たちも寝るか、と寝室のベッドに横たわり、眠ろうとしたまさにそのとき。
もともと眠りが浅かったのだろう、悠太がもぞもぞ動きはじめました。そして。あああ、目が、開いてしまった。大きな声で「たったったー、んだだー」とおしゃべりを始めてしまいました。
その声に、光太まで起きてしまいました。
部屋は真っ暗なので、さすがにベッドの上から下りようとはしませんでしたが、ベッドのそばの窓、カーテンをめくると、そこには我が家の車が。それを見た光太が、夫に「あれ、乗る」と、車に向けてクレーン。「車に乗って帰ろう」、と言い始めてしまいました。

結局、再び子供たちが寝てくれたのは、明け方4時近くになってから。
まさに、地獄の夜(詳細は割愛)。

翌朝は、悠太も光太も、あのゆうべのパニックが嘘のように、普通の顔をして起きてきました。親は、寝不足でドロドロです(涙)。
軽く朝食を済ませ、ホテルの大浴場で朝風呂につかりました。午前中の営業時間ぎりぎりだったので、まさに貸切状態。子供も混乱はありませんでした。これで、よしとしようか。

ばたばたと部屋を片付け、荷物をまとめてチェックアウト。
地獄の一夜、3万1千5百円也。
持っていったカメラは、とうとう1度も出番のないままでした。


コテージを出た後、そこから車で1時間足らずの私の実家に寄りました。
あまり行くことのない、じじ・ばばの家ですが、子供たちはちゃんと覚えています。着くなり、悠太はお気に入りのマッサージチェアで遊んでご機嫌。光太もソファの上を元気にジャンプジャンプ!

おじいちゃんは、悠太と光太が来るのがうれしくて、楽しみで眠れなかったそうです。この日も早朝から、家中を大掃除して待っていたのだとか。
当たり前のことだけど、愛されているのって、うれしい。

おじいちゃんお気に入りの光太は、自分は食べられない大人の食事中も、テーブルのベンチシートの真ん中に陣どり、ニコニコ。「眠たい〜」とぐずぐず言い始めた悠太に付き合って、そのまま眠ってしまった夫と私の代わりに、ひとり、じじ・ばばに愛想を振りまいています。
光太はいい子じゃのう・・・


夕方、ようやく我が家に帰ってきました。
おうちのお風呂、おうちで食べるご飯、おうちのお布団。
悔しいけど、この言葉が出てきます。
「は〜、やっぱりおうちが一番!」

旅行から帰ってくるたびいつも思うはずなのに、忘れちゃうんですよねえ。おうちが一番、なことを確認するために旅行に行くのかしら?
けど、しばらく旅行はこりごり。もう少し、悠太・光太が大きくなってからね。
とか言いながら、またしばらくしたら、「どこか行きた〜い、旅行しようよー!」とかって言っているんでしょうねえ・・・



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