長く雨の続いたある日のことです。
子供達は、久しぶりに会ったと言うのに、家の外で遊べません。
そこで、大きな暖炉のある居間に、クッションを並べ、美しく彩色された玩具や、凝った装丁の本をいくつも持ちこみました。
星を象った飴菓子が、小さな手から、もっと小さな手へと渡されます。

「お礼だよ」と、小さな子供は言いました。
もっと小さな子供は、「お礼」に覚えがありません。。
「何のお礼?」
はにかんだ笑顔が応えました。
「昨日ね。本当に困っていたから…」
それは夢のこと。
森の木陰に、点々と小さな灯りが瞬いています。
覗き込むと、小さな小さな星ではありませんか。
「夢?」
「うん。夢なんだけど。星がいっぱい落ちていて…」
とりあえず、拾ったんだ…と年長の男の子は言います。
小さな女の子は、手一杯の飴を見ました。口に含んだ一つは、もう甘くとろけています。
「これ、その星?」
頭を降った子供は、小さく笑いました。
「それは、今朝作った飴」
女の子が、心底残念そうな声で言います。
「森で飴が摘めるのかと思ったのに」
持っていた籠は、星でいっぱいになってしまいました。
子供は、途方にくれています。
何しろ、小さな星達は、皆泣いているのです。
空に帰りたい。
帰れない。
おうちに帰りたい…
子供は、星といっしょに泣きそうになりました。
星達に何がしてあげられるでしょう?

小さな小さな子は、少し考えて言ってみました。
「おうちに連れて帰って、部屋の飾りにつかう…」
星の夢を見た子は、困ったように微笑みます。
「おうちへ帰してあげないと、可愛そうだよ。」
「どうやって帰す?」
お話が必要です。
落ちた星が空に帰るには、何かお話を一つ抱いていなくてはなりません。森の古木、緑の賢者達は、そう教えてくれました。
女の子は、二つ目の飴を頬張ったまま呟きました。
「お話…で、帰れる?」
男の子は、頷きます。
「夢だから。知っている限りのお話をしたんだけど、足りなくて…どうしても一つ足りなくて…」

残された星を抱きしめて、何度も何度も謝っていたら、幼なじみの小さな子が、やってきて星を抱き取りました。
『落ちた星にお話をして空に帰した子供のお話』をすればいいよと、笑います。
「……そして、星は、時々遊びに来るようになるんだ…めでたしめでたし!」
星達の灯りより、ずっと明るい笑顔でした。
子供達は、大きく枝を広げた古木の影から出て、葉陰から覗く明け方の空を見上げます。
幼い手が、星を空へと差し出し訊ねました。
「だめ?」
きらきらと星が瞬き応えます。
最後の小さな小さな灯りが、空へ昇っていきました。

星の夢を見た子供は、晴れ晴れとした顔で礼を言います。
「…だから、ありがとう」
女の子は、小さくなった飴を無理やり飲みこみました。

「それ……私じゃないし…」
「うん、そうだよね。夢じゃなかったら、星を帰すんじゃなくて、お持ち帰りしたいって絶対言ったと思う」
でも、夢の中でも、とても嬉しかったから。
にこにこしている幼なじみを前に、女の子はぽつりと呟きました。
「おねだりされたのが『お話』でよかったかも。童話で、人が善すぎて身包みはがされる善い子のお話があるけど…心配…」
何故か聞き耳を立てていた大人達が、それはそれは心配そうに男の子を見ています。
星にお話をあげてしまった子供は、驚いて、ふるふると頭を振ります。
「え…その…お話の子と違うし…」
雨があがったその夜、小さな瞬きがいくつも森へ降ったとか…
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