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2006.9.24UP

       長く雨の続いたある日のことです。 
 子供達は、久しぶりに会ったと言うのに、家の外で遊べません。
 そこで、大きな暖炉のある居間に、クッションを並べ、美しく彩色された玩具や、凝った装丁の本をいくつも持ちこみました。
 星を象った飴菓子が、小さな手から、もっと小さな手へと渡されます。


「お礼だよ」と、小さな子供は言いました。
 もっと小さな子供は、「お礼」に覚えがありません。。
「何のお礼?」
 はにかんだ笑顔が応えました。
「昨日ね。本当に困っていたから…」

 それは夢のこと。
 森の木陰に、点々と小さな灯りが瞬いています。
 覗き込むと、小さな小さな星ではありませんか。

「夢?」
「うん。夢なんだけど。星がいっぱい落ちていて…」
 とりあえず、拾ったんだ…と年長の男の子は言います。
 小さな女の子は、手一杯の飴を見ました。口に含んだ一つは、もう甘くとろけています。
「これ、その星?」
 頭を降った子供は、小さく笑いました。
「それは、今朝作った飴」
 女の子が、心底残念そうな声で言います。
「森で飴が摘めるのかと思ったのに」


 持っていた籠は、星でいっぱいになってしまいました。
 子供は、途方にくれています。
 何しろ、小さな星達は、皆泣いているのです。
 空に帰りたい。
 帰れない。
 おうちに帰りたい…
 子供は、星といっしょに泣きそうになりました。
 星達に何がしてあげられるでしょう?


 小さな小さな子は、少し考えて言ってみました。
「おうちに連れて帰って、部屋の飾りにつかう…」
 星の夢を見た子は、困ったように微笑みます。
「おうちへ帰してあげないと、可愛そうだよ。」
「どうやって帰す?」


 お話が必要です。
 落ちた星が空に帰るには、何かお話を一つ抱いていなくてはなりません。森の古木、緑の賢者達は、そう教えてくれました。

 
 女の子は、二つ目の飴を頬張ったまま呟きました。
「お話…で、帰れる?」
 男の子は、頷きます。
「夢だから。知っている限りのお話をしたんだけど、足りなくて…どうしても一つ足りなくて…」



 
残された星を抱きしめて、何度も何度も謝っていたら、幼なじみの小さな子が、やってきて星を抱き取りました。
『落ちた星にお話をして空に帰した子供のお話』をすればいいよと、笑います。
「……そして、星は、時々遊びに来るようになるんだ…めでたしめでたし!」
 星達の灯りより、ずっと明るい笑顔でした。
 子供達は、大きく枝を広げた古木の影から出て、葉陰から覗く明け方の空を見上げます。
 幼い手が、星を空へと差し出し訊ねました。
「だめ?」
 きらきらと星が瞬き応えます。
 最後の小さな小さな灯りが、空へ昇っていきました。


 星の夢を見た子供は、晴れ晴れとした顔で礼を言います。
「…だから、ありがとう」
 女の子は、小さくなった飴を無理やり飲みこみました。


「それ……私じゃないし…」
「うん、そうだよね。夢じゃなかったら、星を帰すんじゃなくて、お持ち帰りしたいって絶対言ったと思う」
 でも、夢の中でも、とても嬉しかったから。
 にこにこしている幼なじみを前に、女の子はぽつりと呟きました。
「おねだりされたのが『お話』でよかったかも。童話で、人が善すぎて身包みはがされる善い子のお話があるけど…心配…」
 何故か聞き耳を立てていた大人達が、それはそれは心配そうに男の子を見ています。
 星にお話をあげてしまった子供は、驚いて、ふるふると頭を振ります。
「え…その…お話の子と違うし…」


 雨があがったその夜、小さな瞬きがいくつも森へ降ったとか…

       


《おしまい》

         

     

◆◆◆あとがき◆◆◆

 こんな短編に、何故、山ほどカットをかいているのか?……よく解りません。何かからの逃避…?たぶん漫画で描けば、いつもの8Pくらいかと。
 というか、同じネタで、漫画も描きますので、違いをお楽しみ下されば嬉しいです。
 初め考えていたときは、本当にほのぼのしていたんですが、実際文章にするまで、えらく時間が経ってしまっていたので、醗酵してぎゃくっぽくなってしまいました。元凶は…元凶はダレかな。メルヘンはナマモノ。考えたらいかんです…私は(T_T)

 

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