■セブンアイ
 
「空港の駐車場」


 美容院よりスポーツクラブより、もしかするとレストランより、私は日常生活の中で空港にもっとも多く行っているのではないかと思う。何だか哀しい気もするのだけれど、空港取材もあれば出張もあるし、送り迎えもある。1月だけですでに成田に2回行き、本日3回目で海外へ出張する。羽田空港にも2回。問題は駐車である。混雑ではない。ゾウなのかシマウマなのか、はたまたペンギンなのか、白クマか、それが大問題なのだ。

 大型駐車場を利用したことのある方なら、こんな経験はありませんでしょうか。親切にわかりやすく、動物の名前をフロアにつける意図はわかるとしても、これがじつにややこしい。動物は目に入ればすぐに覚えてしまうから、ドタバタと急いでいるとき、また誰かと一緒で他人任せのときなど、階や番号を忘れとんでもないことになる。事実、とんでもないことになった。

「確か、ウサギだったんじゃあ」
 友人は呆然として言う。
「いや、ペンギンだったんじゃない? 寒いところの動物が並んでいたような……」
 私達は成田空港の第二ターミナルB2の「オオカミ」から、これ以上には行っていないと思われる4階の「アザラシ」まで見て回った。結局、車は「白クマ」にあったのだが、動物の名前をつぶやきながら右往左往する姿は本当に情けない。戻ったときには、出張の疲れがドッと出る。

 映像によって簡単に記憶させる、という駐車場の作戦について聞いてみると、
「例えば、成田の北駐車場は冬の動物、南はカバやシマウマとか、南北でわかりやすいようにしているのだと思います」
 と、親切に答えてくれる。ただ、私のように成田も羽田も頻繁に使う者にとっては、逆効果だと最近気がついた。羽田空港にもゾウ、キリン、シマウマがいて、新第二ターミナル誕生によってペンギンと白クマまで成田とかぶっている。

 時間に余裕を持ちフロアと番号を正確に記憶すれば何でもないと叱られそうだが、日本代表の宮崎合宿から帰京した日、私は新駐車場で「ラッコ、ラッコ」と祈るようにつぶやきながら車を探し当てた。よかったあ。
 エレベーターで親子連れと一緒になった。
「パパ見て! ホラ、ラッコでしょ、上はクジラだよ、あー、ペンギンもいる」
 男の子は見た動物すべてを口にした。お父さんは子供を、かなり真剣に制止した。
「やめなさい、わからなくなるんだから」
 お父さんと握手したかった。

(東京中日スポーツ・2005.1.21より再録)

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