■セブンアイ
 
「スポーツの力」


 選手、千葉にある施設の理事長先生からの礼状を受け取った。
 さまざまな理由によって親と別れて暮らさなくてはならない子どもたちを年間数百人、国立競技場で行われるサッカーの試合に呼ぶプログラムを作って6年になった。動機はチャリティというピュアなものではなく、競技場に足を運んでサッカーを見た子どもたちが例外なく送ってくれる感想文が楽しみなのである。なかには、こちらがドキッとするようなきらめく「原稿」も多くあり、なかなか勉強にもなる。秋口のプログラムで子どもたちを連れて行った施設の理事長が、施設の現状や子どもたちの反応を詳しく伝えてくれる。

 サービス事業競争へと大きく流れが変わった福祉界において、児童養護施設は難しい立場にある。行政の補助が削減される一方で、親からの虐待によって施設に駆け込まざるを得ない子どもたちが急増しているという。「児童虐待による処遇困難児」──日ごろ使いことのない単語が手紙の中に何度か繰り返されていて、胸が痛くなる。
「現状では、スポーツ観戦の機会はないため、彼らの興奮ぶり、その後の変化は計り知れないもので、笑わなかった子どもが元気に笑うようになるなど、私も予想できませんでした。あらためてスポーツの力えお思い知った次第です」

 一緒に行った子どもたちから、「お姉さんへ」なんてうれしいのまである。
「雨でぬれましたが、全ぜん気になりませんでした。こんなはくりょくのあるものが見れて、ほんとうによかったです。かえりには、げんきがもりもりわいてきました」

 理事長からの手紙の最後には、スポーツのもたらす影響は、やるにしても、見るにしても、どれほど大きなものかが書かれており、これからも子どもたちの未来のために、スポーツを伝えてやってほしい、と結ばれていた。

 12月4日、日本サッカー協会は新潟中越地震のチャリティに、アルビレックス新潟対ジーコ選抜チームの試合を行う。17日のシンガポール戦を終えたジーコ監督は、「就任以来、もっとも重要な試合のひとつと位置づけている」と言った。90分の持つ意味合いが、勝ち点や結果ではないものに結びつくから。私も、施設で暮らす子どもたちに何かできないだろうか。
「げんきがもりもろわいてきました」
 ノートに挟んだ彼の手紙を見ながら考えている。

(東京中日スポーツ・2004.11.19より再録)

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