■セブンアイ
 
「究極のお洒落」


 今秋の流行色は茶色と黒だそうだが、いつの年も、問題は色ではなく体型である。
 引力へのささやかな抵抗として走っているものの、成果が一向に「表に」出てこない。

 先日、合宿の取材で、女性トップアスリートとお風呂に入ることがあった。彼女の肉体を見ながら、一体どうしたらあそこまで美しく鍛え上げることができるのかと惚れ惚れし、湯船の中で密かに脇腹をつまみ、二の腕をぶるぶる振って深く反省した。

「一日でいいから、肉体の交換をしない? 何着たってばっちり似合う」
 彼女は非情にも「嫌です」と笑い出した。
「お風呂で鏡を見るんですよ。体重や体脂肪は測らなくてもフォルムでわかる。筋肉の張り、脂肪のつき方も確認できる。いい時はウエアを着るとビシッとするもんです」
 彼女たちが着るのは、流行の色でもデザインでもなくユニフォームである。そしてユニフォームを美しく着こなすための手段は、過酷なトレーニングしかない。

「柔道着が似合うと、これほど思ったことはないですね。筋肉の張りとか、心の状態とか、姿勢とか、すべて胴衣が映し出してくれます。今は鏡を見て帯を締めると、気持が本当にビシッと入るんです」
 26日、柔道48キロ級の田村亮子(トヨタ)が東京で会見を行い、笑顔でそう言った。今月4月に連勝記録がストップし、長いブランクを経て福岡国際柔道を目指している。試合前は胴衣を着て、鏡の中の自分と対面する。敗れた試合前、尻の筋肉がペソッと落ちてみすぼらしく見えたという。

 以前、宝物を、と頼んだら初めて全国規模の大会に出場した際の胴衣を持参してくれたことがある。身長120センチ、体重25キロだった。
「あまりに小さいんで合うものがなくて、胴衣に着られちゃっていたんですよ」
 あれから15年が経った27歳の今、初めて「胴衣を着ている」と実感するとは、気の遠くなるような鍛錬である。

 流行色でも斬新なデザインでもない。しかし、一着の胴衣を十数年かけて、着こなせた、と胸を張る。「究極のお洒落」とはこういうことかもしれない。

(東京中日スポーツ・2002.9.27より再録)

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