■ピッチの残像
「優勝チームには必ず素晴らしいキャプテンがいる」


 W杯のジンクスならば事欠かない。
 数字が正しい場合もあるし、全く違う結果が出ることもある。ただし、これはかなり信憑性がある。

「90年のスコアを忘れても、彼のことは誰も忘れないだろう。私も任務を果たし、そういう存在になれたらと思っている。」
 ドイツのGKオリバー・カーン(バイエルンミュンヘン)は、ドイツテレビ局の取材に対してそう答えた。

「今回はピンチヒッターだが、我々は優勝にふさわしいチームだと思う。最後はセレソン(代表)の魂が試合を分ける」
 大会直前、エメルソンが肩の負傷で離脱。個人技のチームを、右サイドのカフ―(ASローマ)がここまで引っ張ってきた。

「優勝チームには、必ず素晴らしいキャプテンが存在する」
 ジンクスではなくて、真実だろう。
 フランス大会は、デシャン(フランス)。94年米国大会はブラジルのドゥンガ。PKでの死闘となったイタリアには、バレージもいた。そしたカーンが聞かれていたのは、90年、西ドイツ大会でのマテウスである。テレビを通じて、マテウスはカーンに「ホイッスルがなるまで戦うことだ」とアドバイスを送っていた。

 フットボール(ラグビー)に初めて「キャプテン」が登場したのは、1857年の著書、『トム・ブラウンの学校生活』(トマス・ヒューズ著、岩波文庫)である。しかし、サッカーに限定すると、明確な規定、記録はない。彼らが示すのはコイントス以上の「何か」である。カーンとカフー、決勝ではキャプテンシーのせめぎ合いも勝負を分ける一因となるだろう。

 トム・ブラウンの学校生活はこう続く。「キャプテンには手腕と、優しさ、剛毅さ、そのほか僕の知らないいろんな稀な資質が必要なのだ」
 私たちの知らない資質が、ぶつかり合う。

(東京中日スポーツ・2002.6.30より再録)

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