■セブンアイ
 「四十肩」


 右肩が上がらなくなった。40歳の場合、これは四十肩か五十肩か。先生によれば、「明らかに無謀な使い過ぎ」らしい。乗り物やスタジアムといった、決してパソコンを打つのに好ましい場所ではないところで、バシバシとキーを引っぱたいていれば、ヒジも肩もおかしくなるに決まっている。
「第一、若くはないのだから」
 先生の言葉にムッとするが、反論できないのが悲しい。絶対安静か、鍛えるしかない、と、ストレッチをする、適度に筋力トレーニングをして周辺の筋肉を鍛える、といった対処方法を教わる。正直なところ、安静も強化も辛い。

 鞄を注意深く肩から下ろして、新幹線に乗る際に買った本を開く。
『神様、仏様、稲尾様』(稲尾和久著)の帯には、「あのクレージーな連投の日々が、プロとは何かを教えてくれた」とある。昭和33年、まだ生まれる前の話だが、伝説の日本シリーズ5連投の話を聞くたびに、それを見られたら、もし取材できていたなら、とワクワクする。11日間で6試合、47イニング、打者175人、578球。
 科学的にどうかはともかく、なぜ肩は壊れないのか。稲尾氏は、「成長し続ける時代のエネルギーが、西鉄ライオンズと私の右腕に注入された」と記しているが、パソコンごときで肩が上がらない私にとって、想像を越えた次元である。

 週刊ベースボールを読むと、江夏豊氏の解説が目に止まった。野球用語でいつも気になる、投手の「肩の違和感」が、むしろ投げ込み不足によるもので、「投手たるもの、壊れるまで投げ込むことを恐れてはいけない」と指摘する。
 何でもかんでも「効率」を追い求める時代に、こうした圧倒的な「量」を追求しようとする思想には、底力と強さがみなぎっているように思う。そして決心した。はるか及ばぬレベルでも、せめて安静ではなくて量を選んで鍛えてみようと。
 鉄アレイを引っ張り出した。連投に強いライターとはどんなものだかわからないが。

(東京中日スポーツ・2002.4.26より再録)

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