■セブンアイ
 「再会」


 近鉄・白子駅に着くと、小雨の中迎えに来てくれたのは、ハンドボールの日本代表GK・橋本行弘(本田技研)である。本人は意識していないだろうが、改札で手を振る姿は、なぜかキーパーがボールを扱う動作を連想させる。昨年、ドイツ・フランクフルト空港で見送られたときと同じだった。
 そのとき、私がドジな忘れ物をドイツにしたお陰で、それをずっと保管してくれた彼と再会できた。

「本当にご無沙汰でした。家族も待っていますから、ウチに行きましょう」

 出会いは、私が『ゴールキーパー論』(講談社新書)と題しハンドボール、サッカー、グランドホッケー、アイスホッケー、水球と異種目のGKばかりを本にまとめたことにある。ドイツブンデスリーガに移籍した最初のプロGKとしてフランクフルトを拠点に活躍しており、2度立寄った。現在は帰国して鈴鹿の本田で監督として、また、代表GKにも選ばれる史上最強のプレーイングマネージャーとして活躍する。

「いい年をしてあんなにドイツ語を猛勉強をしたのに、今ではまったく使いませんからもったいない。でも行ってよかったと思っています」
 そう言って笑う。34歳での挑戦には勇気がいる。同行した元ハンドボール選手の妻と3人の子供たちとともに、言葉や文化、思想の壁を日々乗り越えながら、チームでの信頼を勝ち取り試合に出場する。見知らぬ土地で家族が力を合わせ、ゼロから、「スポーツ」という力強い言語によって築き上げる存在感、連帯、信頼の尊さは、今注目されるサッカーやMLBといったプロスポーツの持つ華やかさとは無縁でも、少しも変わらない。大きく報道されなくても、現地で会い、彼らが手にした普通の日々を少しでも知り、こういうアスリートたちの存在を決して見逃してはいけないのだと教えられたと思う。

「こうやってお目にかかれるなら、また何か忘れ物をして行ってください」
 奥様は、そう笑いながらクリーニングしておいてくれた上着を、さりげなく出してくれた。もちろん、忘れ物がなくても再び会いに。

(東京中日スポーツ・2002.4.12より再録)

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