Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
危機感を集中力に変えた ストライカー吉原の本能


 サッカーにおいて、すべてのポジションの中で、「生まれながらにしての」と賞賛されるのは、彼らだけである。
 また、「嗅覚」などといった、本能的で動物的な表現で特性を語られるのも彼らだけである。では、当のストライカーたちは、こうした動物的でしかも感覚的な表現をどう具体化するのか。
 吉原宏太(コンサドーレ札幌)は言う。
「ゴールを奪うことがすべてです。自分の取り得は、ペナルティー・エリアに入った瞬間からの集中力だと思います。体も小さいし、別に当たりに強いこともないでしょう。でも、集中力だけは負けんように、と思ってやってきたんです」
 嗅覚や生まれながら、といった感覚的な表現について、吉原自身は、「集中力」と形容する。香港ラウンドを含めて、シドニー五輪1次予選でFWでは最多得点をたたき出した吉原の集中力には、特別な迫力があった。
 香港ラウンドで面白いシーンがあった。視覚では完全なオフサイド。前線の吉原にパスを出した選手を含む味方でさえも皆オフサイド、とセルフジャッジし天を仰いだ瞬間、それでもエリア内にいた吉原はそのボールをゴールに押し込んだ。
 決して簡単なことではない。笛が鳴る以前に判断し、頭の中でプレーを中断する選手の方が多いからだ。結局、主審の笛は鳴らずに1点となった。日本代表にとって、ゴールを狙う本能をたたき起こすプレーでもあった。
「笛が鳴るまでオフサイドではない。それに、これを逃したらもう2度と得点できないって、いつも思うんです。ゴールとボールと相手だけをしっかり見ているんです」
 ゴールとボールと相手だけ。嗅覚の鋭さは、集中力の深さでもある。
 体が小さいから、何とか相手の裏をつこう、とする。初芝橋本高校3年で、選手権ペスト4に入ったが、Jリーグからは誘いの声がかからなかった。入団した札幌では昨年参入決定戦を経験し、敗れた。五輪代表に選ばれたが、激戦のFW陣では一瞬たりとも息は抜けない。
 ストライカーとしての吉原の集中力は言い換えれば、常に負ってきた「危機感」によるものではないか。内なる危機感が、彼のゴールの源だとすると、そのゴールにはどこか不思議な魅力が漂っている。

(週刊サッカーマガジン・'99.8.18号より再録)

BEFORE
HOME
NEXT