Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
「ベテランとは技術を極めようとする人々」を、中山が証明した


 それは、ほんの数センチの遠回りが生んだ産物である。
「本当に、ちょっとしたことだったと思う。山本さん(昌邦、前ジュビロ磐田、現代表コーチ)からいろいろとアドバイスをもらい、話をしてボールのもらい方を深く考えるようになりました」
 チャンピオンシップには敗れたものの、中山雅史(ジュビロ磐田)は今年初のリーグ得点王タイトルを獲得した。2位城彰二を引き離し新記録となる36点を挙げたその秘密が、1つのシーンに現れている。チャンピオンシップ最大の見所でもあった、鹿島アントラーズのDF秋田豊(MVP獲得)との対戦。写真はボールを受ける瞬間の動きで、この前に中山は一度、秋田の視界から消える動きをし、その後、縦にボールを受けに出ている。ゴールまでは距離があるが、両者の間が開いているのが分かる。チャンピオンシップ中も、厳しいマークを続けてきた秋田、室井の視野から消え、このようにもらった瞬間、シュートを放ったシーンは5本もあった。
 '94年以降ストライカーにとって致命傷ともいえる恥骨炎に苦しみ、丸一年を棒に振った。しかし復帰後、中山は少しずつ変身を遂げていく。豊富な運動量でディフェンダーを振り切っていたスタイルから、相手をタイミングで「かわす」ようになる。
 山本前コーチは、ボールをもらう 態勢を変えること、変えるために相手を振り、いわば「遠回り」をするような気持ちで、ペストポジションを獲得するイメージを与えた。急がば回れ、とでも言おうか。
 中山はあえて一手聞かけることによって、自分がもらえるボールを絶好のチャンスにつなげる、そういう技術を完璧に習得してみせた。これまでと比較しても、シュートまでのタッチ数は激減しているという。
 Jリーグ初代得点王を獲得したラモン・ディアス('93年、横浜マリノス)は、ストライカーの仕事を「ボールをもらう前の90%の動き」と表現した。つまりシュートは10%でしかないという意味だ。わずか数センチの駆け引きに勝ち優位にボールを受ける、この技術が30歳のベテランを得点王に導いてくれた。
 ベテランとは単に年齢を指すのではなく、常に技術を極めようとする人々を指すのではないか。だとすれば、「もう十分」などと思うことなく技術向上に務めた中山の謙虚さ、柔軟な精神こそが、稀有な才能だということなのだろう。

(週刊サッカーマガジン・'98.12.23号より再録)

HOME