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立花美哉(シンクロナイズド・スイミング)


●たちばなみや/1974年12月12日、滋賀県大津市生まれ。小学4年からシンクロを始める。中学2年の時、ソロ、デュエットともに全国優勝。'94年にW杯デュエット銀メダル(奥野史子組)。'98年W杯も同銀(武田美保組)。日本選手権ソロ5連覇、デュエット7連覇。170センチ、57キロ。自由縁起はソロ3分30秒、デュエット4分、チーム5分。両親はソシアルダンス全日本ペア3位。

大怪我を克服した
回転のスペシャリスト

 いかに血のにじむような練習をしたとしても、民族が受け継いできた遺伝子だけは変えることはできない。
 日本のフィギュアスケート、体操、シンクロナイズド・スイミングなど「採点競技」にとって最大のテーマは、日本人の体形的欠点というコンプレックスをいかに「隠す」か、あるいは肉体以外に採点者の目を逸らすか、その2点に絞られてきたといっても過言ではない。
 短い手足、胴長、海外の選手に比べれば悲しいほど高さの違う腰の位置。少なくともプラス材料などひとつもない中で、フィギュアの伊藤みどりは強力なジャンプで世界を制し、シンクロは、日本人であることを芸術的表現に変え、1984年のロス五輪以来4大会にわたって、メダルを獲得してきている。
 しかし、9月のW杯(ソウル)、その先のシドニー五輪を狙う日本のエース、立花美哉(24歳、大阪・井村シンクロ)の肉体には、一点のコンプレックスも潜んではいない。
 日本の採点競技にあっては画期的な「攻める肉体」の持ち主は、こう言う。
「自分の体全体が見せ物である、と考えています。いかに見栄えを良くするかのために、筋力トレーニングをする。いわば、体を肥大化させるためのみ、という点で、ほかの競技とは筋トレの意味合いが違うわけです」
 W杯を目指して合宿中の大阪なみはやドームでの立花は、170センチの身長から惜しげもなく長い足を水上に突き出し、まるで見る者を挑発しているかのようだった。
 小谷実可子は「蝶々夫人」で、奥野史子は「夜叉」で、それぞれ世界における日本シンクロの地位を築き上げてきた。奥野とのデュエットでアトランタ五輪で銅メダルを獲得した立花にも今、新しい時代をリードする何か、が求められている。
 それは、圧倒的な説得力を持つ肉体そのものの力ではないか。
 ダブルツイストという名の技がある。両脚を閉じた状態で水上にひねり出し、そのまま回転する。世界的な選手でも、ひざからわずかに上を出すことが精いっぱいである。
 しかし立花は、太ももの真ん中まで脚を出すことができる。
「私の脚の演技は、世界でも誰にも負けないと思う。まるで手のように自在に動かすこともできるんです。恵まれた脚、という人もいますが、それに甘えることなく鍛えたいのです」
 芸術を競う演技力はもちろんだが、体そのものが放つ、人を惹きつけてやまない圧倒的でシンプルな力。それが立花の魅力であり、これまでの選手が持ち得なかった「何か」である。
 水中から脚を力強く出すたびに、そのメッセージが水面に浮かび、人々を魅了する。競技会のためにプールに着くと、最初にプールサイドにある7人のジャッジ席の位置取りを確認する。審判が目を逸らしてしまうほどの強い視線を送るために。
 五輪はデュエットとチーム(8人)だが、W杯ではソロを含めた3種目のメダルを狙う。五輪に専念するため今春、在学していた同志社大を退学した。
 後悔は少しもないという。
 肉体と同じく、精神もストレートで堂々としたものである。

AERA・'99.8.2号より再録)

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