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米倉加奈子(バドミントン)


●よねくらかなこ/1976年10月29日生まれ。東京都小平市出身。小学3年の時、バドミントンを始める。立川八中3年で全国中学校大会シングルス優勝。茨城の常総学院高校からつくば国際大学へ。'96年から全日本学生選手権3連覇。'98年12月アジア大会金メダリスト。右利き。

「読み」と「罠」が武器の
バドミントン界のホープ

 米倉加奈子(22歳、茨城トヨペット)のバドミントンは、
「人の何倍も疲労する、いってみればトランプの神経衰弱を何度も繰り返すようなものだ」
 と、小島一夫監督は表現する。
 昨年12月のアジア大会(バンコク)では、下馬評ではメダル候補にも挙げられなかったが、当時、世界ランキング1、3位の中国2強を下す快挙を果たして、28年ぶりの金メダルを獲得。アジア大会以来初めての国内大会「ヨネックスオープン」(4月6日から、東京・代々木第二体育飽)で、4か月遅れの凱旋試合に出場した。
 試合を観れば、監督の表現した意味が実によく分かる。とにかく拾って拾って、さらに拾いまくって、少しずつ相手の動きと、精神を追い込んでいく。
「相手が疲れている、焦っている、と思うときこそ、あとひとつ、こちらが粘らなくてはならなかったのにそこでミスをしてしまった。きょうは、自分自身の精神的な詰めの甘さを反省する試合でした」
 シドニー五輪に向け、ランキング獲得対象大会でもあったが、2回戦で世界6位のチャンニン(中国)に敗退。試合後、米倉はそう言って小さく息をもらした。
 身長165センチ、体重55キロの体はか細く、中国勢のように、パワーでシャトル(羽根)をたたきつけるような力はない。特に瞬発力があるわけでも、ずば抜けた運動神経を持っている選手にも見えない。非力な彼女が世界チャンピオンを倒せる理由は何なのだろう。
 3人きょうだいだが、その中でももっとも運動神経がなく鈍い方だったと本人は振り返る。特にすぐれた運動神経、反射神経が求められるかのような競技でそれがないこと、パワーもないこと。ともすれば、向いていないかもしれなかった競技で、米倉は、この2つの短所ゆえに、最大の長所を得てしまった。
 読み、である。
「非常に難しいのですが、自分が優位に立ったと思うとなぜか選手は守りに入り、追い込まれると開き直って攻撃的になる。そういうメンタルなバランスを保つことでしょうか」
 力でねじ伏せることができないから、相手の精神状態を深く読み、シャトルの方向を読む。相手は自分が主導権を握っているつもりが、いつの間にか流れを掌握されている。そういうスタイルは稀で、アジア大会決勝で米倉に敗れたコンジチャオ(中国)も、「とても罠の多いバドミントンだった」と最大級の評価をしている。
 羽根はわずかに4グラム程度。それをラケットで自在に回転させ、相手にさらにストレスをかけるような攻撃的カードを持つことが、次の目標だ。そのため5月から、中国から女性コーチを茨城に招聘する。
 マイナー競技と言われるバドミントン界にとって、実力のみならず、人気のうえでも貴重な逸材でもある。試合の合間も、子供たちが米倉を見つけて殺到したが、子供と会話をしながら、丁寧にサインに応じていた。
「注目してもらえることには、何より結果を返したいんです」
 シドニー五輪出場の第1条件は、来年の今頃、世界ランク29位以内にいること、である。

AERA・'99.4.26号より再録)

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