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榛名真仁(アイスホッケー)


●はるなまさひと/1973年7月16日生まれ。釧路出身。鶴野小から鳥取西中、そして釧路湖陵高技へ進学後、早稲田大学理工学部へ。'93、'95、'97年のユニバーシアードの代表。スティックハンドリングはライト。184センチ。75キロ。

リンクで舞い続けることを願う
力強く美しい「若き蝶」

「ハルナ、ハルナ!」
「がんばれ、フルカワー!!」
 手拍子と交互に連呼される子供たちの歓声が、自らのミスで失点したGK春名真仁(25歳、古河電工)の背後に飛ぶ。栃木県・日光からバスで3時間かけ、地元の人たち、ジュニアチームの子供たちまでも、東京・東伏見のリンクに駆けつけていた。
 日本リーグ・西武鉄道戦(2月28日、6−7)、第2ピリオド、集中力を一瞬欠いたミスから、先行していたゲームを4−4の同点にされてしまった。
 うつむいていた春名は、声援に押されるように頻を上げた。
 そして、この競技では「バタフライ」(蝶)と呼ばれる、美しくも、力強い構えを取り直した。
「廃部の発表以来、応援してもらうことのパワーを、本当に強く感じました。前向きに物を考え実行しようとすること、これも改めて教えられた気がします」
 今年1月には、若手主体で臨んだ冬季アジア大会日本代表に選ばれ、強豪カザフスタンと対戦。1−1の引き分けまでゴールを守り銀メタルを錬得した。長野五輪代表のダスティ芋生(西武鉄道)らの後を追う、若いGKとして大きな期待が集まっている。
 低い軌道のシュートヘの対応や、ゴール前の混戦には適しているとされる「バタフライ・スタイル」の国内第一人者でもある。5月には、ノルウェーで世界選手権も行われ、代表を狙う。
 代表へ、大きな一歩を踏み出したはずの1月中旬、足元が揺らいだ。古河電工アイスホッケー部が、年間約五億円の経費を削減するために、廃部することを決定したからである。創部1925年と、73年もの歴史を誇り、黄金期も、1勝もできないリーグも、オイルショックも、すべてを乗り逆えてきたクラブの廃部は、他の競技とはまた違う衝撃を、関係者に与えている。
 進学枚の釧路湖陵高枚理数科から早大理工学部に入学。研究者としても願っていた古河に入社した異色のGKにとって、大きな「転機」が2つも一緒に訪れたようなものだった。
「こんなことが起きるなんて信じられなかった。最初は頭の中もごちゃごちゃになりかけました。けれどもGKがリンクの上に、迷いや、もやもやした気持ちを持ち込むなんて失格。自分は、全員で来シーズンもリンクに上がる、この気持ちだけを信念に戦い続けたつもりです」
 シーズン序盤には怪我で入院。さまざまな困難を抱えながらも、プライドを捨てなかった。仲間も同じだ。廃部発表後の全日本選手権で3位。6チームの日本リーグは最下位ながら、2月20日、ホームリンク(日光)最終シリーズでは、61読合ぶりに王子製紙を下した。
 存続か、移転か、完全な廃部か。結論は、シーズン終了まで待たれるが、どの試合でもリンクの片隅で、「日光に」チームを存続させるための署名運動が、手弁当で続けられている。10万人を突破する勢いだという。
「最悪の状況かもしれませんが、それでも何かをつかみたい」
 若き蝶は来シーズン、どこのリンクで羽を広げて舞っているのだろうか。

AERA・'99.3.15号より再録)

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