自分らしく、迎合しない田臥

    18歳の心意気


 朝焼けのタンパ・ペイ(米国フロリダ州)を空から見下ろしながら、胸が痛んだ。
 大の大人が寄ってたかって、18歳の青年に、一体何をやっていたんだろう。ああ、なんという失態。機内朝食を断るほどに、私は反省をしていた。
「ハッキリ言って、迷惑でもありました」
 バスケットボールの田臥勇太(能代工業)が、有望選手の発掘大会「ナイキフープサミット」に日本人初出場を果たした。彼は出場17分間で、まばゆいばかりの才能の片鱗(へんりん)をコートにちりばめた。問題は試合後、殺到した日本報道陣について聞かれた際の、彼のこの答えである。
 連日、40人もの日本報道陣が彼を追い続けた。なぜ、海外に挑戦する日本選手に、私たちはいつも、こう執着をするのだろうか。
 かつて野茂や伊良部に殺到して「イナゴ」と呼ばれ、中田に群がって「虫けら」と言われ反省したはずが、今度は未成年に「迷惑」と叱(しか)られてしまった。
 この傾向、実はメディアの、ゆがんだ海外コンプレックスのせいではないかと思う。選手たちには「海外への挑戦」なんて古くさい考えはとっくにない。「世界対日本」と、お決まりの島国根性で彼らを見ているのはメディアのほうである。

こだわりシューズ

 田臥も新時代の選手にふさわしく、じつにしなやかで、しかも強い信念を持ってアメリカのコートに立った。
 大会は全米生中継され、新シューズの展覧会的要素もある。選手は無論、いち早くニューモデルを履き、それをPRする。しかし172センチと、出場選手中群を抜いて背の低い日本人だけがただ1人、違うシューズを履いている。しかも、3年も前のモデル! 1年に何度も新作を発表するメーカーにしてみれば、おきて破りである。頭を殴り、いや、抱えたくなるはずだ。
「新作はすごい靴なんですが自分の動きには合わなくて……マズイっすよね」
 田臥は申し訳なさそうに笑ったが、そりゃマズイ。私が担当なら、首根っこをつかんでも履かせる。
 小さい分、運動量では絶対に負けられない。特に瞬発力と判断力は、披がこの競技で生き残っていく上での「命綱」である。超高性能の新作クッション底より、反発力を最大限生かすものでなければ、0コンマの後れを取る。わずか0コンマのリスクを知り尽くしているからこそ彼は、3年も履き続けたモデルにこだわり、本場での大舞台にさえ迎合はしなかった。
 一見淡々と無表情に見える。米国スカウトには「強い自己主張を」と言われた。しかし、内に秘めた「18歳の心意気」をシューズは十分に表現していた。
 彼の心意気に敬意を表しこちらも海外コンプレックスは捨て、淡々と冷静に取材をしようじゃないか。
 エッ、4月19日には有森裕子がボストン・マラソンで世界の強豪に挑戦? ハイ、行きます、行きますよ、もちろんボストンヘ。

(東京新聞・'99.4.6朝刊より再録)

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