2003年5月31日
※無断転載を一切禁じます
サッカー
国際親善試合
日本代表×韓国代表
(東京・国立霞ヶ丘競技場)
キックオフ:19時16分、観衆:53,405人
天候:曇のち雨、気温:23.3度、湿度:90%
日本代表 |
韓国代表 |
0
ボール支配率:
51.0% |
前半 0 |
前半 0 |
1
ボール支配率:
49.0% |
後半 0 |
後半 1 |
|
アン・ジョンファン:86分
|
 |
<交代出場>
●日本
65分:遠藤保仁(稲本潤一)
65分:大久保嘉人(鈴木隆行)
74分:永井雄一郎(中山雅史)
●韓国
56分:アン・ジョンファン(チェ・ヨンス)
59分:イ・チョンス(チャ・ドゥリ)
89分:キム・ヨンデ(イ・ウンジェ)
92分:ワン・ジョンヒョン(ソル・ギヒョン) |
4月のアウェーでの初勝利に続いての韓国戦。ホームに韓国を迎えた日本は、前半、強烈な風で霧雨を受ける風下のサイドで試合をスタートさせながらも、秋田豊(鹿島)、森岡隆三(清水)のセンターバックを中心にして固い守りを見せた。GK楢崎正剛(名古屋)も、風、雨にも集中力を維持し、安定したセービングでDFと連携、前半立ち上がり15分は、韓国への早い詰めが功を奏してシュート2本に封じた。
しかし、後半、日本は、攻撃でチャンスを作ることができず、そのバランスが崩れたところを韓国側につけ込まれる。雨でスリッピーな分、積極的にシュートを放ち出した韓国の積極性に、中盤から引き気味になり、FWとの間がずるずると引き離されてしまう。さらにボランチから先へのパスがつながらず、逆に、この地点でボールを奪われる場面が出始める。守備陣の踏ん張りで均衡を保ったものの、86分、名良橋晃(鹿島)が小笠原満男(鹿島)に返そうとしたパスを奪われ、カウンターを受ける。韓国の4人の選手がゴール前に向かって走る局面で、秋田、森岡、服部年宏(磐田)がぞれぞれカバーに入って凌ごうとしたが、一人スルーをされ、このボールがアン・ジョンファン(清水)に。後半から交代したアンに、左足でシュートを入れられ、これで試合が決まってしまった。
日本はほぼ互角にボールをキープしながらも、シュートは前半1本、後半1本と、ジーコサッカーの看板とされる攻撃的な姿勢を全く見られることなく終わり、また後半になって運動量が落ちるなど、キリン杯(対戦相手はアルゼンチン、パラグアイ)、コンフェデレーションズ杯に向けて多くの課題と修正点を残した。これでジーコ監督になって5戦で1勝(韓国)2敗(アルゼンチン、韓国)2分(ジャマイカ、ウルグアイ)となった。代表は2日に再集合をし、アルゼンチン戦(6月8日、大阪・長居)、パラグアイ戦( 日、埼玉)と続くキリン杯に臨む。
ジーコ監督「雨でピッチが滑ることは予想できた。前半は良かったが、後半は日本らしさがなかった。しかしこの1敗ですべてがダメだというわけではないので切り替えていかなくてはならないと思う。課題は2つある。まずシュートがあまりにも少ないことだった。雨なのでもっと遠くからシュートを積極的に打っていかなくてはならないのに、シュートが極端に少なかった(2本)。それから中盤で相手に寄せられるとミスを連発してしまうことだ。韓国の選手の名前と番号が一致しないが、13(イ・ウルヨン)、14(イ・チョンス)、6(ユ・サンチョル)、7(キム・テヨン)はすばらしい選手だ。もちろんアンを忘れてはならない。稲本と鈴木はフル出場の機会が少なかったのでできるだけプレーを長くさせようと思っていた。1点を取られた場面も、名良橋がそれほど悪かったということではないし、チームの意思統一はできているから自信を失うことはない。大久保は敗戦でも自分をアピールしようと必死だった。これからも貪欲にいってもらいたい」
川淵三郎キャプテン「この前のアウェーのようなこともあるから(※ロスタイムに得点)と思っていたら、もう少し早く点を取られてしまった。しかし今日の守備は非常に良かったのではないか。ただし攻撃が消極的だった。韓国がこういう天候を考え、雨だから何が起きるかわからないという姿勢でシュートを打っていたのに、日本はもっといろいろなことができるはずがそれをやっていなかった。韓国はもう少し、傘にかけて攻めてくると思っていたので、鄭会長と前半を見ながら『あまり元気がないなあ』と話していた。試合はまあまあ、そこそこ良くやったのではないかと思う。こういう試合の積み重ねで向上していくことが大切だ。大久保には今後に大いに期待したいと思う」
大韓サッカー協会・鄭夢準会長「これで(ホーム&アウェーで)イーブンになりました。厳しい条件ではあったが、非常にいい試合だった。勝ったからというのではなく、コエリョ監督の手腕には満足しているし、非常にいいコーチだ。(ヒッディングと比較して、と聞かれ)それは私の仕事ではなく技術委員会の分野のこと。非常にポジティブに、監督と彼の代表を見ている」
アン・ジョンファン「早い動きから日本を崩す形を後半徹底していい結果に結びついたと思う。雨で下が非常に悪かったので、どんどんシュートを打って行こうとした積極性がゴールを呼んだ。後半からの出場だったことはまったく気にならず、そういう作戦であると監督から言われていたし、最初のボールタッチのミスも、思い切り行こうと思っていたので特に気にならなかった。森岡とは試合中に握手をして、お互いがんばろうと話した」
秋田 豊「もっと攻めの形を作ることができなくてはいけなかった。残り5分で1点取られたが、あの点だけクリアにできれば、守備は合格点だったと思う。(韓国は後半になって積極的に攻めて来たが)そう見えますか。前半のほうがきつかったと多いますが。向こうがというよりも、こちらの中盤のバランスが崩れたところを攻め込まれた格好で、あれだけプレッシャーを受けて、というのはこの試合だからでほかではなかなかない。ボランチまではボールが入るのに、そこから先の攻め手がなかったし、もっとボールをまわしていかなくてはならない」
試合データ
日本 |
|
韓国 |
2 |
シュート |
15 |
11 |
GK |
9 |
4 |
CK |
5 |
14 |
直接FK |
20 |
3 |
間接FK |
6 |
0 |
PK |
0 |
楢崎正剛「大事なところはしっかりと集中して守れたと思うし、雨も風も、リスクをしっかり消して、落下点を注意深く判断するなど気は使った。別に初めての経験ではないし、条件は相手も一緒。(柳と)ぶつかった瞬間は、首を多少ひねった。もっとつなぐサッカー、しっかりとボールを前までつないでいくサッカーをするように、次の試合から修正したい」
稲本潤一「交代するだろうと、試合前からなんとなくは思っていた。今日がもしコンフェデのニュージーランド戦であったら大変なことになるが、僕らの目標はあくまでも今日ではなくてコンフェデ。目先のことでそれほどがっかりはしていないし、失点をして向上していくのだと思っているからそれほどマイナスではない。もちろん自分たちのミスから負けたわけですから、たたかれるのは当然ですけれど」
大久保嘉人「行けと言われて、やってやろうと思った。出番があるとは思わなかったし、(永井との)トップも以外でした。合宿でアピール不足? いやそんなことはない。今日はA代表最初の試合なのでいい経験になったし、やれることはやった。次からの自信につなげればいいと思う。次に選ばれたら、今日のことは忘れて(ふっきって)行きたい」
中山雅史「いろいろな点で課題が出た試合だった。これから監督の指示もあるでしょうから、ひとつひとつ修正をして行くだけです。前半から、前線で一人ぽかんと穴(孤立しているという意味)になっている場面が多くあったと思う。前半の立ち上がりから早いプレッシャーをかけていったが、後半になって運動量がガクンと落ちてしまった。これがコンフェデではないし、これから上げていけばいいので気持ちをしっかりと切り替えていくことだ」
小笠原満男「シュートでしっかり終わる形をずっと考え、やりたかったがそれができなかった。1人で崩すのは無理なので、あれを2人、3人でやっていかなくてはならない。ボールを失ったところで失点したことは本当に残念。これからもっと攻撃的な形を作ったり、シュートまで持っていくようにしていかなくてはならないが、全体のコンビネーションについてはいつもやっているので(欧州からの帰国メンバーが入っても)不安はない」
服部年宏「攻守のバランスが悪過ぎた。それと後半になって全体の運動量が落ちてしまい、そこで韓国との差がついてしまった。どちらにしても、あそこまで攻撃やパス回しにリズムがないんではどうしようもない。基本的には全然ダメです」
永井雄一郎「0−0だったんで、点をねらいに行くことだけを考え、何でもいいから得点を、と思った。点につながる動きができなくていい働きができなかった」
三都主アレサンドロ「攻めのラストパスを出そうという意識が強すぎて、シュートをうつチャンスを逃してしまった。下がスリッピーだったのだからもっともっと遠くからシュートを打っても良かった。個人でペナルティエリアに入れる場面もあったが、一人ではどうしようもない」
名良橋 晃「前半はいい形で試合を運べたと思うが、後半(個人的には)ソル・ギホンのマン・マークについて自由にやらせないようにしていた。そこは問題がなかったが、2番(チョ・ビョンク)と13番(イ・ウルヨン)が絡んできてややこしくなってしまった。結構、中盤が大きく開いているのにそれを活かせなかった。まだキリンもコンフェデもあるので、監督も言ったが、気持ちをしっかりと切り替えていくことが大事だと思う」
森岡隆三「失点の場面は、秋田さんがスペースを埋めに言ったので、僕がニアに入った9番(ソル・ギヒョン)のマークに入り、彼は左利きなのでそこを止めにいったらスルーをされて、ハット(服部)もカバーで入ったんですが、最後は……。ボールを持っていながら取られたときのことを一瞬忘れていたのかもしれない。ボールを持ったときほど危ないということですね、それを忘れていたかもしれない。後半は取られる場所が悪くなっていった。悔しいです」
「ロー、セカンド、なぜだかローに」
ジャマイカ戦12、アルゼンチン戦12、ウルグアイ戦12、ここまでのホームでの試合、ジャマイカ戦以外は相手のシュート数を上回る積極的な「手数」を出しながら、この日に限ってわずか2本のシュート数は、黒星以上に実に大きな失望感を伴うものだった。
前半のシュート1本は鈴木の、GK正面へ放った強烈なもの。後半1本は名良橋の、センタリング気味のボールで、シュートとカウントするには多少の無理がある。それを考えると90分でわずかにシュート1本、しかもあれほどピッチが濡れ、風雨が大きく舞っていたにも関わらず、ロングシュートは1本もなかった。アレグリ(幸福な)サッカー、攻撃的なサッカーを大きな看板のひとつに掲げてきた日本代表が、突如原因不明の「ガス欠」に見舞われたかのようである。
「こんな天候だからシュートを遠くからでも打って、積極的に行くことを心がけた」と、決勝ゴールをもぎ取った韓国のアンは話す。特に目新しい話しではないが、ホームの日本はなぜかこれとは正反対の姿勢で、ひたすらリスクを消そうとした。
熱帯低気圧による強風と90%もの湿度は、GKにはあまりにもリスクが散らばる気の毒なピッチとなったが、攻撃側にとってはチャンスがいたるところに潜んだピッチでもある。ボールを転がせば、GKがスリップしてミスをするかもしれないし、ファンブルが詰めたところに転がる可能性もある。
シュートそのもの数やシステム、メンバーといった要因以上に、「何か」を狙う、少ない確率にかけるギャンブル的発想がなかったことが、この試合を実に当たり前の、平凡な試合に変えてしまった。
車のギアがローからセカンドに入ってまたもローに戻ってしまうような試合運び、誰もアクセルを踏み込まず、40キロ道路を40キロで走行するような安全運転は、W杯の翌年という、もっとも自由な、唯一冒険の許される1年にはもったいない。
「確かにもっと遠くからシュートを積極的に打つような姿勢でいかなくてはならなかったと思う。もっと勇気を持たなくてはいけなかった」
稲本は言う。
GK楢崎と4バックは安定した守備を見せた。コンディションにはばらつきがあり、今後改善はされるはずだ。稲本、鈴木ら、欧州では90分出場チャンスに恵まれなかった選手も今後調子を上げてくるはずだ。こんな試合になってしまう日もあるだろうが、キリン杯、コンフェデレーションズ杯に向けて軌道修正は早いほどいい。何しろW杯開催1周年のこの日、1年分くらいは蓄えたはずの貯金がもうすでに使い果たされていることだけは、はっきりとわかったのだから。

読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い
|