2003ゼロックススーパーカップ磐田対京都戦が1日午後1時30分から東京・国立競技場に2万2904人の観衆を集めて行われ、昨季Jリーグ年間王者の磐田が3−0で天皇杯優勝の京都を下し3年ぶり2回目の優勝を飾った。磐田は前半シュート0本と苦戦したが、後半17分、MFが藤田俊哉が先制ゴールを決めると一気に主導権を握り、後半28分には藤田のシュートのリバウンドをグラウが押し込み、後半41分には藤田のCKからグラウが頭で決めて3−0とした。京都は前半、速攻から何度か決定機を迎えたが、詰めを欠いてリズムをつかみ切れず、後半は守勢に回った。
磐田/柳下正明監督「前半は中盤のイージーミスが出てよくなかったが、後半は前への意識、前へのボールの動きが出た。長い距離を走ってDFの背後をつくプレーも出て、中盤でのボールの動きも速くなり、いい試合だった。2戦目(15日)のナビスコカップ神戸戦にピークを合わせるつもりなので、フィジカルの調整をやっていきたい。(中山、グラウの)2トップの組み合わせはA3チャンピオンズカップでの彼らの組み合わせがいい動きをしていたから使った。今日も彼らのいい動きによってボールが集まった。まだ100%じゃないが、これをスタートにし、できるだけ100%に近づけたい」
磐田/藤田俊哉「ここまで公式戦で勝ち点も得点もなかったので焦りはあった。チームがピリピリしていた。1点目のゴールから磐田らしいパス回しができた。新しい監督になって勝利がなかったので、早く勝って一丸となってやりたかった。結果が出ないと雑音などでチームが狂うことが1番怖かった。結果的に完封できて今後いいムードで行ける。ようやくスタートラインに立って、戦い方のベースができた」
磐田・名波 浩「後半は積極的にプレスをかけて中盤で相手をつぶすことができた。ボールの運び方とかは、いい時に比べるとまだまだだが、ぼちぼちだね。このチームは負けることに慣れていない。1回勝っただけで流れは変わる。ただ、楽しんでもらえるサッカーはまだまだ。京都のDFラインが徐々に下がってくれた。相手がバラバラになりかけたこともよかった。今日は2列目の動き出しがポイントだった。俊哉にしても河村にしても長い距離を走ってくれた。自分も含めて3人の距離がよかった」
磐田・グラウ「大切な試合で点が取れてよかった。磐田はもっと上を目指している。Jリーグやナビスコカップを考えるといいスタートが切れた。中山も西もいい選手。プレシーズンマッチの時からレギュラーを取るつもりでやっていた。中山とのコンビネーションをもっと高めていきたい。このプレーを継続することが大事だ」
磐田/中山雅史「自信になる価値ある勝利。コンディションが上がれば行けると思っていた。こぼれ球を拾えたのが大きかった。ロドリゴ(グラウ)との距離感はいい感じだった。パートナーによってそれぞれ持ち味があるので自分を変えていけるような選手になりたい。あと1週間いい準備ができればいい」
京都/エンゲルス監督「前半はイーブン。後半も続けたかったけど、攻撃的に足りない部分が出た。1点目も2点目もミスから奪われた。朴智星の話はもう終わりにしたい。いないのはわかっているし、次に向けてやっていかないといけない。磐田はバランスが取れている」
京都/黒部光昭「始動が遅いし、照準をJリーグに合わせているので絶好調ではない。前半はいい試合ができた。後半は若さが悪い方に出た。先に点を取られて、それまでやってきたことが途切れてしまった。結果として0−3で負けたことはしっかり受けとめ、1から出なおしたい。個人的には点が取れていないので納得していない」
京都/松井大輔「もう1回、1から切り替えたい。合宿に入るのが遅かったし、まだ準備段階。その中で結果を出さなければいけなかった。磐田とは力の差、レベルの差がある。悔しさをバネにしたい」
京都/角田 誠「昨年天皇杯を取ったことで自信はあったけど、今日はもう1回自分たちを見つめ直さないといけないと思った。1年を通して戦うのは難しい。この負けをいい経験にしていきたい」
「もしMVPがあれば、文句なしに藤田だ」貴賓席で観戦した日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンとJリーグの鈴木 昌チェアマンが試合後、異口同音にそう言った。おそらくスタンドの誰もがそう思ったはずだ。
藤田は、後半17分、グラウのパスを受けてドリブルでゴール前に切れ込んで左足で先制点を決めた。後半28分には、タイミングのいい飛び出しで福西の縦パスを受けてGKと1対1になりシュート。そのリバウンドがグラウのゴールにつながった。さらに後半41分にはCKでグラウの2点目をお膳立てした。チーム全ゴールに絡んだ。
しかし、サッカー界の重鎮2人が藤田を“MVP”に推す理由は、そうした数字に表れない働きにこそある。藤田は試合展開を変えた。では、藤田はどうやって流れを変えたのか。
「前半はA3からのリズムを引っ張っていてミスがあった。後半はいいリズムになった」と藤田が振り返った通りの展開だった。前半の磐田は、1ゴールも奪えず3連敗したA3チャンピオンズカップのコピーだった。トップ下の名波が厳しいマークを受け、前を向けないため、徐々にポジションを下げ、いつのまにかボランチに吸収されそうな位置でボールをさばくようになる。FWとの距離は開き、中山、グラウは孤立する。たとえ前線にボールを送っても、単調なパスしか入らず、多勢に無勢でセカンドボールも拾えない。45分間で放ったシュートは0。重傷であった。
ところが、後半、形勢は一気に逆転する。前半、左サイドに張っていた藤田が後半開始から、そのポジションを離れ中央に頻繁に移動する動きをみせる。ちょうど名波が下がるために生まれるトップ下のスペースに入り込むように。服部は藤田の穴をカバーするように左サイドに入った。藤田、名波、服部の3人が時計回りにずれたようなポジション移動である。すると、途端にボールに動きがスムーズになる。名波もマークを外せるようになりパスワークに参加する。磐田本来の流れるようなリズムになった。
「後半は組み立ての時にミスをなくすよう努力した。名波とも話しあった。2トップとの距離があったので、そこに僕が入っていこうと思った。2トップの下にポジションを取れた。そういうことは自分や河村が見極めて決められなきゃいけないことだ」と藤田は分析した。藤田は名波と話し合い、自分の判断でポジションを移動していたのだ。そして狙い通りリズムを好転させたのだった。
選手には個性、適性というものがある。藤田も名波も天才的なセンスを持つパサーではある。ロングパスでのチェンジオブペースなどパスの総合力では名波に分があるかもしれない。パスを受けた後に何かできるか、パスの受け手として見ると藤田に一日の長があると思う。藤田にはドリブルもある。2人をもし縦に並べるなら、藤田を前に置いた方がより多くのチャンスを作ることができるし、お互いの特徴をうまく引き出し合うことができる。
ただ、それも絶対というわけではない。周囲の選手との組み合わせや、2人のそれぞれのコンディションによっても変わるし、相手の守り方によっても変わってくる。サッカーは、ただ能力のある選手を公式通りに並べればいいというスポーツではない。不振に苦しむ磐田は、そうしたサッカーの難しさをあらためて証明していると思う。そして藤田の素晴らしさは、自分がどこでどういうプレーをすれば力が発揮できてチームに貢献できるかということを的確に判断できることである。
今年1月には欧州移籍を目指しオランダ・リーグのフィテッセの練習に参加した。クラブ関係者からは高い評価を受けたという。実現するかどうかはわからないが、藤田が日本の誇る才能であることは間違いない。この日の後半はそれを証明する45分間だった。