2003年2月3日

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★Special Column★

プロ野球キャンプより
(宮崎・サンマリンスタジアム)

 今朝は2度でしたが、宮崎の気温は現在、どんどん上昇し、手元は16度、春のような陽射しが、海に輝きを増しています。
 今回はプロ野球キャンプ取材のために、宮崎を回っています。昨日は日向での近鉄キャンプに中村紀洋選手の取材に行ったのですが、パスを準備して待っていた関係者の方が、「増島さんたら、日向で午後にと言っても何も聞かないで、分りました、って電話を切られるから……きょうも迷っていないかな、って。一人で野球のキャンプを運転してガンガン回っちゃう女の人なんていませんよ」と、心配して下さったのでしょうね、苦笑しながら迎えてくれました。確かに、日南、西都、日向、青島と言われても、はいはい、と、すぐに道を思い出して球場までレンタカーで行くなんて、ある種の「特殊技能」かもしれません。日常生活においても、何の足しにも、汎用性もないことが非常に悲しいですが(笑)。

 野球のキャンプ取材というのは、本当に一日が長いのです。今、宮崎のサンマリンスタジアムで巨人の練習を見ていますが、サッカーに比較すると人数も多く、場所も分割されていますから、非常に細かな予定表が野手と投手に別れて配布されます。
 今、巨人では「ランチ特打」と題して、斎藤と福井がランチタイムの球場で特打をしています。ボールの響く、どこか余韻のある音を聞くと、なぜか幸せな気分になります。
 サッカーというのは、時間的にも概念の上でも「刹那」を表現するスポーツだと思いますが、野球には時間的なラグが生じるような気がします。かなり元・野球少女として、野球のこうした余韻ともいえる独特な時間の流れが非常に好きです。


「本当に男を下げたのか」

 3日、米国のメジャーリーグに旅立つ松井秀喜をとりまいている報道はあまりにもウェットだと思っていました。彼自身の問題ではなく、「日本を去る」ということに対するセンチメンタリズムが、スポーツの、しかもサッカーのアウェー的思想や国際的な移籍といった「移動の自由」を目にしているはずのスポーツメディアで起きていることに、違和感を抱きます。松井という選手の素晴らしいパーソナリティー、ファンの惜別はともかくとして、昨年秋から繰り広げられた「巨人最後」「日本最後」の連続に、今朝、新聞を見ながら「きょうがやっとホントの最後なんだ」と笑いました。本人も疲れたでしょうね、最後が何度も引っ張られて。
 システムの違いはもちろんですが、こうしたことはサッカーでは考えられません。気が付いたら、だいたい空港にいるか、ちょっと油断していると、現地でいきなり会見をしていますからね。
 前述したように宮崎県内で運転していると、スポーツ新聞社の年輩のプロ野球記者が球界についてゲストとしてコメントを始めました。「あすは松井がN.Y.に出発しますね。一方、中村は日向でのキャンプをスタートしていますが、彼は今回の騒動で男を下げてしまったところがありますから、ぜひ今年挽回してもらって……」という話でした。
 中村の近鉄入りは、本当に男を下げるようなことだったのでしょうか。

 FAは、何ひとつ自由のないプロ野球選手が10年もかかって手にできる実にささやかな「権利」です。いってみれば「比較の自由」を手にすることであり、メッツに行かなかったからといって、阪神に行かなかったから、近鉄に戻ったからといって、「男を下げる」わけがありません。手続き上のさまざまな行き違いは、ミスは別の場所に責任があるはずで、そうやって、メジャーこそ最高峰の夢だ、大阪だから阪神へ、といった「夢の画一化」は情報によるものです。男を下げるとは、これもまた、「最後の日本」のような前時代的な響きで、どうも好きになれません。何度か中村の取材をする機会を得て、もし、男気や、プロとして気概、ということが問題だというのなら、中村にはその問題が全くないことは、インタビューで理解できたように思っています。一方、技術ならば、さらに問題はないでしょう。王 貞治氏の本塁打記録(55本)を破るために、あるいはさらにその上に歴史を開くことにチャレンジするであろう中村が、私は楽しみです。松井がN.Y.で、中村は日本で、セ・パの、日本が誇る「アーティスト」2人が、余韻のもっとも美しい表現でもある本塁打を放つ、きょう2003年2月3日は、そうした新たな憧れの、初日と思いたいと考えています。

 宮崎の気温はさらに上がっているようです。節分、立春と、暦の春は過ぎて行きますが、気温差などで体調を崩されませんように。
 宮崎で、皆さまの健康をお祈りして。

スポーツライター 増島みどり      



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