2月20日

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Special Column 〜SALTLAKE 2002〜
数字の独り言(7)

「長さ23.5センチのカンナ」

 村主章枝(早稲田大学)が、ショートプラグラムの演技を7位でスタートした。恩田美枝(東海学園大学、初日17位)のトリプルアクセル(3回転半)のような大技のジャンプはないが、氷を滑るその技術と美しさは、今大会で悲願とも言える金メダルを狙うクワン(アメリカ)さえも「すばらしく優雅」と称賛するほど、世界でもトップクラスと定評がある。昨年、同じスケートセンターでプレ大会として行われた、4大陸選手権で優勝。自信もそれなりに持って挑んだことが、安定した演技につながったはずだ。

 出発直前の村主を取材した際、こんな話をしていた。
「まだまだ演技のあちこちに角(カド)があるんですね。もっと丸く、こう優雅に流れるような演技にならなければいけないんです。残りの日数で、今の演技の角や、尖ったところを削って削って、丸く、柔らか味を帯びた演技にしたいと思っています。この仕上げが難しいんですけれど」
 4年前は、右足首を痛めて長野五輪に出場はできなかった。その後も靭帯も関節もかなりの損傷を受けている状態で、医師は手術を勧めていたが、村主はリスクを拒否した。確信はなかったが、自信はあった。この足首でも、自分のスケートを最大限に引き出すことはできる。スケート靴を大切にし、工夫をすれば絶対にソルトレークまで持たせることはできる、と。しかし、あれほど固い氷の上に、三回転をして、しかも片足で着地するのだ。足首を痛めたことはどれほど大きなハンディになるか、想像するのは難しくはないだろう。

 彼女の足のサイズは23.5センチ。靴も同じである。痛めた足首のために、右足首にはテーピングをし、さらに足に合わせて足首を靴の中で不用意に動かさなくてもいいように、強固にサポートするための特注の足底板を入れている。これまでもどんな時でも、見えないところに靴を置いたことは一度もない。化粧室でも、これだけは必ず持って入るという。
 そして、スケート靴は必ず左足から履く。脱ぐ時には、痛めている右足から。靴を履くことでの負担を1秒でも軽くするため、村主はこの4年、その順番を一度も崩したりはしなかった。
 村主にとってスケート靴は、こうした繊細さの表われであると同時に、足首の痛みやジャンプへの恐怖を拭い去って強さを象徴するプロテクターでもあり、これらで自らの演技を研ぎ澄ます、まるでカンナのような役割を果たしているのだろう。木材を完璧な形で削りあげて行く大工のカンナと、演技の角を、氷を優雅に削って仕上げて行く村主の靴と、その作業はどこか似ているように思える。

「会場からスタンディングオべーション(立ち上がっての拍手)を受けたい。見てよかった、と思ってもらえるような演技をすることが今大会の目標です」
 繊細で、強い、あのカンナを信じて。

■フィギュアスケート 女子ショートプログラム 結果
(2月19日=現地時間)
順位 選 手 順位点
1 ミシェル・クアン(アメリカ) 0.5
2 イリーナ・スルツカヤ(ロシア) 1.0
3 サーシャ・コーエン(アメリカ) 1.5

7 村主章枝(早稲田大) 3.5
17 恩田美枝(東海学園大学) 8.5



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