7月21日

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世界水泳
男子水球予選ラウンド
日本対スペイン
(博多の森センターコート)
天候:晴れ、気温:35度、湿度:68%

日本   スペイン
1 0 第1ピリオド 2 12
1 第2ピリオド 4
0 第3ピリオド 3
0 第4ピリオド 3

 予選ラウンド初戦のクロアチア戦に2−8で敗れた日本は、世界選手権ディフェンディングチャンピオンのスペインと対戦した。第1ピリオドから世界トップクラスの実力を誇る攻撃力に押され、またイワン・ペレスの得点力を封じることができずに、第2ピリオドで1点を返したものの1−12で敗れた。これで予選2敗目を喫し、22日の豪州戦にリーグの順位決定をかける。
 日本のGK・水谷真大(31歳、明大中野付属中学教諭、サーティークラブ所属)は、かつてスペインで2年プロとして契約していたこともあり、この日も好セーブを連続、スペイン側からも称賛を浴びていた。


「同じスペイン戦でも……」

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 サッカーの日本対スペイン戦と、水球の日本対スペイン戦の両方を取材できるチャンスなどそうはないだろう。日本が地元開催で出場権を得ている今大会、アトランタ五輪の銀メダルで欧州選手権の常連・クロアチアと初戦で対戦するなど、日本と世界トップクラスとの対戦が実現し、中でも、日本選手が留学、あるいはプロとして渡っているスペインとの一戦には注目が集まっていた。もちろん、この対戦についての世間的な注目はサッカーの何十分の一にも、いやほとんどないに等しく、「業界的な注目」と限定すべきかもしれないが。博多の森、水球なのになぜか「センターコート」(テニスコートに特設した水球プールのため)には、それでも大会通じて最多の観客が日本の応援のために足を運び、35度の気温の中、あまりの暑さに椅子にさえ座れぬほどの強烈な陽射しを浴びながら、ある意味では歴史的な一戦を見守っていた。
 スペインは、バルセロナ五輪では名勝負と言われた再々延長の末に銀メダルを獲得。翌年の世界選手権で金、そして、今回もディフェンディングチャンピオンとして博多に乗り込んでいる、いわば世界の王者といえる存在である。そのスペインに、メジャー国際舞台では初めて挑んだ日本の戦いは、一言で表現するなら得失点差以上に「格の違い」を見せ付けられるものだった。
 しかし逆に失点以上の「見るべきもの」もあった。

 中でもベテランで今大会のために代表に復帰したGK水谷が見せた働きには、相手からも称賛がわいた。スペインの30本ものシュートのうち、水谷は12本をセーブ、12失点ながらも「防御率」50%というハイレベルのセービングを見せた。また、世界的にもトップクラスと言われる「巻き足」(水中でひざから下で水を撒きながら、体に浮力を持たせる技術で、水球では基本)のテクニックで、水面から立ち上がるような独特の、安定した守備をも披露した。
 93年、水谷は大学で遠征経験のあったスペインに単身で渡った。2年を3つのクラブで契約、GKとして世界トップクラスの技の一端に触れた。
「今日は、あの時の2年のことを考えていました。当時からの知り合いもいる。精一杯のプレーをしたかったんです」
 初めてスペインに行った際に知り合ったチームメイトもおり、何よりも水谷がGKで本格的にやっていこうと堅く決心したきっかけになった、世界的にも「伝説のGK」と称されるへススも対面にいる。水谷は91年の世界選手権(パース)で、そのプレーを初めて観て「水球におけるGKの凄さ」(水谷)を知ったという。
 試合後、水からあがろうという水谷を、そのへススが腕を伸ばしてプールから引き上げた。そして「マサ(水谷)、今日はすばらしいプレーだった。何でそんなにがっかりした顔をしているんだ」と、頬にキスをしていた。
 1−12の背景には、日本での水球自体のポジションがあるだろう。企業では成り立たないため、多くの選手が大学を卒業すると競技を断念する。欧州では、サッカーとまったく同じシステムの中で、プロがプレーをする。バルセロナの看板はサッカーだけではなく、水球も欧州では同じレベルにある。もともと、水球は五輪では最古の(第二回パリ大会で公開競技)チームスポーツであり、欧州では大変な人気競技でもある。
 強化システムも確立できず、ハンディともいえないような「格差」の中での一戦は、さまざまな角度でこの競技のあり方を浮き彫りにしたのではないか。
 わずかな光は、スペイン、海外でプレーする選手の存在だった。現在スペインにいる3人のほか、米国、ハンガリーなどそれぞれが、個人の志において海外単身生活を実践している。先陣を切ったともいえる存在の水谷たちの代から、確実に「世界トップ」の舞台を知ろうとしてきたからである。メジャーかマイナーかの壁はいかんともし難いが、それでもサッカーと同じかそれよりも早く、水球選手は世界を照準にしてきている。
「スペインとの初の対戦でしたが、それぞれが何かを手にしたとは思います。個人的には、93年からのスペインでの体験をやっとこの試合で表現できたような気がします」
 水谷はそう言いながら、スペイン代表と握手をした。

 満員の博多ドームで日本プロ野球のオールスター初戦が行なわれた21日、日本水球は空席がほとんどの博多の森で世界No.1の実力を持ったスペインを相手に1−12で完敗し、その試合は、スペインでは何と朝6時にもかかわらず「生中継」で放送されていた。Jリーグラストマッチを大活躍で飾った名古屋のストイコビッチの母国・ユーゴスラビアは、水球世界選手権では優勝候補筆頭で、かつてピクシーと同じクラブだった選手たちが代表の一角を成している。この日の予選では、中田のいるパルマの選手を抱えた同じ強豪、イタリア代表と3−3と、引き分けた。
 もうひとつの「日本対スペイン戦」を取材した者にとっては、国際舞台におけるスポーツ勢力と歴史や関心の差が、どこか不思議な形で表現された一日だった。



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