11月23日

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2000 Jリーグ ディビジョン1 第14節
柏レイソル × 名古屋グランパスエイト
(日立柏サッカー場)
キックオフ:13時1分、観衆:13,235人
天候:晴れ、気温:13.3度、湿度:52%

名古屋
2 前半 0 前半 1 1
後半 2 後半 0
70分:渡辺光輝
78分:北嶋秀朗
原 竜太:33分

  26日の国立競技場での優勝決定戦にまで持ち込みたい柏は、DFの要である薩川了洋が累積警告で欠場、また洪 明甫、渡辺毅も警告2枚と厳しい状況の中で、リーグ再開以来勝ち星のない名古屋をホームに迎え撃った。
 前半開始直後から積極的な攻撃を展開した柏は、黄からつないだボールを最後は1対1で渡辺光輝がシュート。しかし名古屋のGK楢崎正剛の好セーブで絶好の先制チャンスを逃がす。その直後にも、ゴール前の混戦から北嶋秀朗が押し込んだボールが、ゴールに入ったかに見えたがノーゴールと判定され、開始から10分間で決定的なチャンス3本を楢崎のファインセーブに阻まれるなど、チームの絶対的勝ちパターンが奪えない苦しい展開となった。その後もチャンスは生まれるもののこれを決められず、逆に33分、右サイドから名古屋の原 竜太に右足でミドルシュートを放たれ、これが決まって0−1とビハインドを負う。

 前半はそのまま折り返し、後半10分にはまたも決定的な同点のチャンスに北嶋がヘディングを決めきれず、楢崎にセーブされる。しかし試合の流れが変ったのは、ゴールではなく、ストイコビッチの交代だった。
 後半22分、名古屋の攻撃からボールが流れて右サイド、ゴールライン際で明神智和とストイコビッチがボールを激しく奪い合った。それまでも激しいマークで苛立っていたピクシーは、ここで明神をつかんでイエロー。すでにその前から自分の交代が表示されていたこともあったのか、ピクシーが苛立った様子で呂比須ワグナーと交代。マークに四苦八苦していた柏の中盤がこれで一気に勢いを取り戻すことになった。

 25分には、後半の頭から交代し局面を打開しようとうかがっていた砂川が、右サイドを突破してマイナスまで持ち込んでセンタリング。ゴール前に飛び込んでいた渡辺光輝のヘディングゴールで同点に追いつく。また32分には、この試合、ここまで決定的なシュートを3本外していた北嶋が、大野敏隆からのフリーキックにゴール前で合わせて押し込んだボールはGK楢崎の手を跳ね返して逆転。その後も加藤 望、入江 徹らを投入して運動量を落とさぬサッカーを続けて2−1のまま勝ち点を31とし、国立競技場での鹿島との最終戦に優勝をかけることになった。鹿島はG大阪を2−1で下して勝ち点を32とし、最終戦、しかも国立でこの試合に勝ったほうが優勝を決めるという劇的なフィナーレのお膳立てがすべて揃った。
 一方、敗れた名古屋は、途中のストイコビッチの交代で一気に勝利への流れが崩れてしまうなど、これで再開以来勝ち星がないまま、最終戦を(川崎F)を迎えなくてはならない。

柏・西野 朗監督「先制点を奪うことができなかったが、自分でも不思議なくらい焦りがなかった。選手とチームが強くなったという手ごたえを本当の意味で感じたのが、面白いことに先制されたときだった。ハーフタイムは、後半もうちの流れで試合をして1点取れば追加点は必ず取れると話していた。鹿島がどうだ、ということはまったく気にならなかったし、最終戦に優勝がかかる状態をプレッシャーと感じるよりも楽しみたい」

決勝ゴールを決めた北嶋「(決定的なシュート)2本を外していたので、得点の場面では気持ちをこめて、大野があげてくれたボールに合わせた。先に点は取れらたけれども逆転できると信じていたし、チームは力をつけている。最終戦で国立競技場と舞台は整っている。緊張すると思うけれど、勝てばその分、大きな感動を得られると思うのでがんばりたい。鹿島戦の国立でデビューし、カップ戦に初めて優勝した。何か不思議な縁があると思う」

守備陣をまとめた主将・洪「もっと早い段階で得点できていればずいぶん楽に戦えたと思うが、最後まで勝てると信じていたし、少なくとも延長に持ち込めば勝てると思った。若かったチームも今では勢いがあり、みな自信を持ってプレーしている。今さら、何かをすれば勝てるというのはないが、鹿島とともにJリーグの最後を締めくくる最高の試合をするためにベストを尽くすだけだ」

粘り強い守備を続けた明神「DF中心の働きになったが、負ける気持ちはしなかった。あとひとつ、国立で勝たねば何もならない。鹿島の途中経過は不思議と一度も気にならなかった。今年は国際舞台でプレッシャーのかかる試合を多く経験したせいか、こうした厳しい試合でも緊張はしないようになった。正直、ちょっと眠れないくらいだが、それでもこうやって最後の最後に優勝をかけて国立でプレーできることは、サッカー選手として最高の幸せ。楽しくて仕方ない」

「勝利の方程式が崩れたとき」

 柏が最後まで優勝戦線を戦うことが可能になった背景には、絶対的な勝ちパターンを持ったことがもっとも大きいはずだ。この日の試合まで、先制点を取って敗れた試合はわずかに1試合、前半をリードした試合で負けたケースはないという徹底した「勝利の方程式」を用いて、難問を解き続けてきたことになる。
 試合前、西野監督に名古屋との戦いについて聞くと、こんな話をした。
「勝ちパターンに持ち込む? いや、逆にそうならなかったときどうなるかだね。勝てないパターンになると、これは名古屋のようなチームだと難しい。先制点がないと、かなり厳しい戦いになるのはわかっている」
 奇しくも試合はその言葉通り、苦しい展開にならざるを得なかった。
 しかし、監督は試合後、自身を含めて不思議なほど落ち着き払い、誰も「鹿島×G大阪」の結果を知ろうとも、耳に入れようともしなかった静かなハーフタイムの様子を明かした。
「本当に強くなったと思ったのは、面白いことに、強いはずの勝ちパターンを失ったときだった」という、うれしい誤算がチームを支配していたという。これまでなら間違いなく落とす試合の方程式を、選手は自信と優勝への執念で書き換えた。

「負ける気がしなかった」と誰もが口を揃えた。気持ちの問題だけではとても解説できるものではない。そういう気持ちがプレーに現われるからこそ、なのだ。
「その点では、先制点を取られたとき、誰もがまったくポジショニングが動かなかったんですね。前だったら、焦るし点が欲しいから前のめりになるわけです。自信のなさはポジショニングに現われて、前に行った結果、浮き足立ってカウンターを喰らう。去年優勝を逃した試合もそうだったと思う。きょうは後ろから見ていて、もちろん自分たちも、本当の意味で動かなかった」
 DFをコントロールする渡辺 毅はそう解説する。強くなった=焦って動かなくても大丈夫、こうしたシステムに反映された。事実、名古屋のほうが追加点を焦り、カウンターを仕掛けることを主な理由に(カルロス監督)、ピクシーを呂比須に変え、先制点を奪った原を宮原裕司に替えた。

 もうひとつ、柏の勝利で指摘しなければならないのは、サイド、コーナーといった、いわばピッチの「端っこ」での踏ん張り、粘り、ライン際の執念である。選手の動きをマーカーでつけてみれば、柏の選手はピッチの隅々まで動き、一杯一杯をじつにうまく使っていることがわかるはずだ。
 試合開始直後、名古屋の岩田昌浩と柏の平山智規がタッチライン際でしつこいほどのボールの奪い合いを繰り返して、最後は平山がスローインを奪った。その後は北嶋がコーナーで名古屋の平岡靖成とボールを奪い合い、北嶋はかなり激しくあたってボールは奪えなかったが、相手DFの脚を止めた。
 後半も、明神がピクシーとコーナーで争いイエローを奪うなど、この日すべての「際」、いわばピッチの「がけっぷち」で踏みこたえ、何とか上に這い上がってくるのはいつも柏の選手だった。アウトサイドの渡辺、平山、またサイドをうまく使った砂川 誠、明神、前半の下平隆宏の働きは高いレベルで評価される。
 渡辺は「サイドが粘らないと柏のサッカーになりません。球際、ライン際、すべて自分の仕事だと思う」と得点以上に、こうした地味な動きに充実感を感じているようだった。
 平山も「最近はどうも軽いプレーをしてしまっている気がする」と話しながらも、一方では毅然と言う。
「サイドだけは簡単で軽いプレーはできない。そこで1対1に負けて取られた1点目は本当に悔しいし、反省したい。1対1を含めて、鹿島戦ではサイドの意地を見せたい」

 柏の年間勝ち点はこれで57となり、またも年間勝ち点で首位という「陰の優勝」を確定させた。
 昨年のナビスコ杯で初優勝した際も、準決勝で名古屋を柏スタジアムで下し、その時も渡辺光輝の得点だった。そして迎えた決勝での鹿島戦、しかも国立競技場と舞台が整い過ぎるほど整っている。
「表の優勝を」をかなえるために、その時と違うことがひとつある。あの日は出場停止で出られなかった洪が、今度はピッチにいるということだ。

「乗り越える山の数だけ……」

 得点はできなかったが、「最終戦で無念さをすべて晴らしてみせる」と、黄は優勝決定戦に意欲を見せた。
 この日はコンビの北嶋が決定的なチャンス何度か外したが、黄が交代まで非常にシンプルなゴールへの縦の動きと精神力を貫いていた姿勢は、北嶋に何かを伝えていたのではないか。もしこの日、得点を奪えなければ、つまり失敗しても点を取りに行こうとしなければ、中山雅史(磐田)と並んでの得点王争い(この日、中山のハットトリックで18点で並んだ)云々以上に、何かを失うところだった。
 何かとは、ゴールを狙うことを怖がらずに、たとえ何度外してでも臆病で終わることなく打たねばならないというストライカーの掟のようなものだった。

「優勝を実現するためには乗り越えなくてはならない山がたくさんある。その中のひとつを、またきょうも乗り越えた。みな、力をまた強くしたと思う」
 かつてドイツ、Kリーグで優勝経験を持つ昨年の得点王は冷静である。32歳のベテランとしても、若手を冷静に見ている。平山に関しても、「本当にテクニックがある。しかし上手いだけではダメだ。もしセンタリングを上げるなら、軸足を蹴られても、倒れても、絶対に上げてみろ。プレーを諦めるな」と、自信を失いかけたときにアドバイスをしたそうだ。
 北嶋は試合後、笑った。
「はっきり言って、決定的なシュートをあれだけ外し、へこたれそうになりました。でもこんなところでへこたれていたらダメだ、優勝はどうするんだ、と思いました」
 乗り越えた山の数だけ強くなる──黄の言葉には、重みと輝きがあった。

試合データ
  名古屋
18 シュート 10
4 GK 11
5 CK 0
20 直接FK 11
5 間接FK 4
5 オフサイド 4
0 PK 0

柏×鹿島の過去4戦の対戦成績
試合 ホーム スコア アウェイ
2000.5.13
J1 1st第12節
(柏の葉)
1 2 鹿島
平山 柳沢
名良橋
1999.11.3
ナビスコ杯 決勝
(国立)
2 2 鹿島
5(PK)4
大野
渡辺 毅
ビスマルク
阿部
1999.8.7
J1 2nd 第1節
(柏の葉)
2 1 鹿島
ベンチーニョ
渡辺 光
名良橋
1999.5.19
J1 1st 第7節
(国立)
鹿島 1 2
ビスマルク 酒井
片野坂
●通算対戦成績(Jリーグ):
 柏の対鹿島戦=5勝8負0分

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