1月1日


 新年明けましておめでとうございます。2000年というこの一年が、みなさんにとって、すばらしい一年であるよう、ご多幸とご健康を心からお祈りしたいと思います。
 今年は、早くもオリンピックイヤーとなりました。4年に一度、これは古代の暦に拠るもので、古代ギリシャではオリンピア祭と次のオリンピア祭の間4年を、1オリンピアードという単位にしていたんですね。
 いつだったか、北海道の標津という町のサーモン博物館に行き資料を見たことがあります。鮭の遡上についてはまだまだ不明な点ばかりで、何故、生まれた川に戻ってくるのか、そしてなぜかその周期が「3年、多いもので4年」ということについても研究はまだまだである、と記してありました。
 こんな資料を見てから、私はオリンピックと聞くと、鮭が自ら生まれた川に戻るため壮絶な旅をすること、体中の皮膚をボロボロにしてまで逆流する姿が、選手たちの姿とダブってしまうのです。
 今世紀最後となる五輪は同時に、新世紀へ夢をつなぐ五輪でもあります。そこにあるのは、よく言われるような作られた「スポーツは人間ドラマだ」などという安っぽいものではありませんし、スポーツはスポーツであり、選手がドラマを演じているわけではありません。
 シドニー五輪では、どんな形で限界と同時に人類の未来が教示されるのでしょうか。今世紀最後のオリンピックはそのまま、1世紀を生き抜いた人類の力そのものを試される戦いなのかもしれません。
 今年も、みなさんとともにスポーツを観たいと思います。どうぞ今年もスタジアムに足を運んでください。
 それでは、みなさまのご健康をお祈りして。

スポーツライター 増島みどり

第79回天皇杯全日本サッカー選手権大会
決勝
名古屋グランパスエイト×サンフレッチェ広島
(国立競技場)
キックオフ:13時5分、観衆:47,172人
天候:晴れ、気温:15度、湿度:26%

名古屋 広島
2 前半 0 前半 0 0
後半 2 後半 0
56分:呂比須ワグナー
82分:ストイコビッチ
 

交代出場
名古屋

80分:古賀正紘(飯島寿久)
広島

46分:川島眞也(ポポヴィッチ)
46分:大久保誠(森崎和幸)
71分:山口敏弘(高橋泰)
 4年前と同じカードでの対戦となった名古屋―広島戦は、前半は、ともに無得点に終わったものの、後半開始11分、広島の古賀がわずかにボールをクリアミスした瞬間、ストイコビッチが右サイドにボールを運んで、これを中へ。呂比須が、このボールに相手ディフェンダーを引き連れながら頭から飛び込んで先制。その後も中盤の守備から再三ボールを奪い、後半37分、今度も相手のミスから奪ったボールをカウンターにつなげ、最後はストイコビッチが、DF、GKまでを振り切ってダメを押した。

 名古屋はこれで、ジョアン・カルロス監督が就任してから、ナビスコ杯で一敗したのみで公式戦11連勝、しかも国立競技場で15連勝という圧倒的な力を見せ、4年ぶり2度目の天皇杯を獲得した。試合のマン・オブ・ザ・マッチには、ストイコビッチが選ばれ、トヨタ車を副賞に贈られた。

 30年ぶりの優勝を狙い敗れた広島だが、有名選手や、高額年俸をもらうような選手が不在のまま、チームの強化方針を明確にした上で勝ち取った価値ある準優勝だった。

 なおこのゲームを最後に、名古屋の要の一人だったトーレスが退団し、母国ブラジルのバスコダガマに移籍する。トーレスはこの日、都内で行われた祝賀会から成田空港に向かい、すでにバスコダガマでの登録もされており、来週のゲームから試合に出場することになっている。

名古屋・ジョアン・カルロス監督「決勝戦というのはいつも難しい試合になる。序盤は調子がよくなかったけれど、後半だんだん我々のリズムになってきて、得点もでき勝つことができた。これで我々が強いチームであるということが証明できたと思う。 シーズン途中から監督に就任したわけだが、来る前からビデオで見ていて失点が多いチームだと思っていた。優勝するためには失点を減らす必要があると考えた。それにこんなに強いチームが優勝できないというのでは、サポーターにとっても失礼だと思っていた。そのためにチームのスタッフ、選手はよくやってくれたと思う。
 試合前に選手たちにはいろいろな情報を与えていたが、そのなかの1つとして広島はセットプレーのときにみなが上がってくるので、ディフェンスラインの裏が薄くなるから、そういう場面では早い攻撃を仕掛けるように言っていた。その形から4〜5回のチャンスを作れたし、得点することもできた。
 ここまで難しい試合をこなしながら、優勝できたことは本当に嬉しい」

Masahide Tomikoshi/TOMIKOSHI PHOTOGRAPHY
広島・トムソン監督
「グランパスは前後半を通してよかったし、勝つべくして勝ったと思う。とは言っても、選手はよくやってくれた。
 それにしても、すべてのジャッジはストイコビッチにいいように働いたのではないか。レフリーはストイコビッチにも笛を渡した方がいいんじゃないか(笑)。それに上村が倒されたところは100%確実にPKだったと思う。
 前半の15分でポポヴィッチがケガをして、若い森崎も腰を痛めてしまった。沢田、久保、森保らを欠いていたので、若い選手たちにとってはタフな試合になったと思う。
 1点目はディフェンダーが集中を欠いて、愚かなミスから失点を喫した。それからは追いかけていったが、またカウンターアタックに屈してしまった。しかしその2番目のゴールは副審がいったん旗を上げたのに、下ろしていた。本当にひどい判断だと思う。あのときは1回だけではなく、2回オフサイドがあったし、難しいジャッジではなかったと思う。
 ふだんのサンフレッチェはフリーキックやコーナーキックなどのセットプレーがすごくよいのだが、前半はよくなかった。それに対しては失望した。しかし前半は下田がセーブした場面は1本もなかったし、ディフェンスはよかった。もちろんグランパスの方もディフェンスはよかったと思う。
 チームはここまで、ケガ人が多い中たくさんの選手を抱えているわけでもないのによく戦ってきた。みんなが努力をして、本当によくやってきたと思う。
 広島はたくさんお金を持ってはいないが、よいサポーターを持っている。昨シーズンに比べて2倍以上のサポーターが来てくれた。後半の終わりまで選手が一生懸命にがんばれたのはサポーターのおかげだと思っている。最後にあけましておめでとう、来年もまたこの同じ場所(決勝戦)でお会いしましょう」

ストイコビッチ「本当にうれしい優勝だった。きょうは、我々のキャリア、テクニックすべてが上回っていたと思う。副賞でもらう車も、もう何台目かわからなくなったが(笑い)、やはり苦しい中でつかんだ今年の優勝が一際うれしく感じる。2000年最初の日のこの幸せを、家族、みなさんと分かち会いたい」

大岩「負ける気はしなかった。今年は、期待されながらリーグでいい結果が出せなかった時期もあり、本当に浮き沈みのある一年ではあったが、何とか、こうして優勝することができたのは、大きな自信になったし、来年につながると思う」

トーレス「みなさん、長い間本当に有難う。私の気持ちはこれからも常に名古屋とともにあります。そして、またチャンスがあればいつでも帰って来たい。ここまでたくさんの試合をこなして来て、最後の試合に勝って、それも優勝で退団できるとは……。先ほど、ロッカーでみんながシャンパンを抜いて乾杯し、私を見送ってくれた。この友情に本当に感謝して、ブラジルでもがんばりたい」

「天皇杯の勝ち方、教えます」

Masahide Tomikoshi/TOMIKOSHI PHOTOGRAPHY
 スタンドのロイヤルボックスに名古屋の選手が並び、優勝杯を手にしてはしゃぐ姿を見ながら、山口主将は一人「まだまだ! これじゃあないんだから」とうれしそうに声を張り上げ、仕切っていた。
 ロイヤルボックスで手渡されるのは、天皇杯だけではなく、ほかのカップも複数ある。天皇杯だけは、最後の最後、歴史がアナウンスされてから主将に手渡される段取りで、山口はこれを知り尽くしているから、カップを手にはしゃぐ仲間を懸命に制していたわけである。
 実際、山口にとって天皇杯を手にするのはこれが3度目となる。4度決勝に出場して3勝とは、おそるべき勝率である。
 最初は、加茂監督が率いた93年、そしてフリューゲルスとして最後となった昨年、今年とチームを変えての連覇となった。
「ユニホームを変えて、連続でロイヤルボックスに上がった人もそういないでしょう」と聞くと、「そうだよね、うれしかたったね。去年のことへの自分なりの回答がやっと出せた瞬間だった。去年はあのカップを手から離したとき、さあ、これからどうするんだ、とそういう気持ちだったことを思い出した」と、穏やかな表情を見せた。
 この日の試合前、山口にはすでに勝算があった。ピッチにかなり強く舞い続けた風の強さ、向きとも、昨年の決勝とまったく同じだったからだ。
「風とか特に気にしないけどね、ま、考えておきますよ」と笑い、冗談めかしていた。しかし試合開始直前、主将同士のコイントスに山口は負けた。コイントスに勝ったものが陣地を選択するルールのために、広島は風上からのスタートとなり、名古屋がキックオフをした。
 山口は内心ほくそ笑んだに違いない。昨年もまったく同じように、風下からのスタートとなったのだから。
 理由は「前半はどうしても行こう、行こう、と気持ちがはやるんだね。だから、いわゆる攻め疲れみたいなことにもなる。天皇杯みたいなカップの最終戦では、何よりペース配分というか、加減が必要なんだ。だから、あえて前半は風下で強風に耐えて、相手の攻撃をしっかり抑える。後半は持ち味を出せるようにすればいい」
 計算は今年も見事に当たった。昨年は一度は同点となり、最後に引き離して試合を決めた。今年もまた、風下で相手攻撃をしのいだ前半を終了した時点で、山口は「うちのほうがはるかに地力があると確信した」と話していた。
 左眼の上を、藤本との接触で切ったGK楢崎も、これで2度目の優勝。
「想定していた通りの試合展開となった。攻撃が1点取り、それをしっかり守る、というパターンができつつある」と、傷口からはまだ血が出ていたが、それでも笑顔を絶やさなかった。
「天皇杯必勝マニュアル」を持った山口と楢崎の存在は、広島にとって、戦いをさらに苦しいものにすることになったはずだ。
 山口は「後はリーグに勝たなくてはね。楽しみになってきたけどね」と、長い、長いインタビューを終えて、最後に祝賀会に向かうタクシーに乗り込んだ。
 クラブの始動は2月上旬からとなる。

試合データ
名古屋   広島
6 シュート 2
10 GK 8
9 CK 11
20 直接FK 11
0 間接FK 2
0 オフサイド 3
0 PK 0

LATEST NEXT