2003東京ヒラタ採集メモ

[ヒラタ♂]

by えいもん



 

たわ言

恥ずかしながら、相も変わらず近場のヒラタ採集である。拙い採集芸の幅だけでも広げようと努力は しているものの、ヒラタからはなかなか離れられないでいる。ヒラタのどこがいいのか? いろいろな サイトや掲示板を覗かせていただくと、どうやら東京産ヒラタも今や貴重種とは到底言えないくらいに採れている。 コツさえ掴めば、エキサイトするほど難しい採集ではなさそうだ。しかし、それにもかかわらず、ヒラタ採集には、 他の採集にはない魅力があるように思う。

その魅力とは、 灯火ではなかなか採れない ことではないか、と最近今さらながら気がついた。

例えば、灯火を張ってクワガタが10目採れたとしても、そこにヒラタが混じることは めったにないだろう。ヒラタの多産地であっても、ヒラタを「狙って」灯火や街灯で採ることは、 けっして容易ではないはずだ。ヒラタは昼間でも採れるが、ヒラタ採集の王道は、やはり、夜、 暗闇の雑木林の中を懐中電灯片手に忍び歩き、自然にあるがままの個体を直接掴み取ることにあるのではないか。 遠い少年時代のクワガタ採集の原点のような泥臭さが、ヒラタ採集には常につきまとう。 これが何ともいいのである。

[ヒラタ顎]

懐中電灯を当てると、樹皮捲れから顎を覗かせている


しかしながら、今やヒラタは、一生懸命に探しはしても、これはと思う個体以外はほとんどその場でリリース している。探して見つけ出すこと、生態を確認し観察することで、自分としては十分に満足しているのである。

前置きはこれくらいにして、今年のヒラタ採集の自分なりのトピックスを書き連ねてみる。乏しい内容にご容赦を。
 

最早個体

最早個体(「もはや」個体と読むのではない)なんて言葉があるかどうかは知らないが、要するに最も早い時期に樹液で 確認できた個体のことである。

今年の樹液採集は5月のGWの時から始めてみた。5月初旬と言えば、夕刻を過ぎるとまだ肌寒く感じる時期であり、 樹液採集に初出撃した5月4日は、案の定コクワが少数お目見えしている程度だった。

ところが、5月7日は夜に入っても気温が高いままだった。仕事から帰宅後、車を走らせて外気の温度計を見てみると、 23℃を表示している。異様に暖かい。いつものポイントに着くと、1本目でいきなり、コクワよりも 艶やかな個体が目に入った。ヒラタ♂だ。それが自分が今年最初に樹液で確認できたヒラタ成虫であった。 しかしながら、驚くなかれそのサイズは‥・・

[ヒラタ3♂♂]

5月7日の確認個体。最も小さいのが最初に確認された個体

 

最小個体

そのサイズは‥‥、極小としか呼びようのないものであった。ヤナギの樹液にヒメマイマイと並んで たかっていたのだが、どう見ても小さなスジクワ程度のサイズしかない。手元の定規で測ると、♂のくせに 20mmにも満たなかった。そして、甲の色は赤茶色。果たして本当にヒラタなのか。

手にとって懐中電灯を頼りにじっと観察してみる。 前肢が内側に湾曲気味である。鞘羽にスジは見られず、ピカピカと艶やかに光っている。一昨年採集した25mm弱の ヒラタ♂も茶色っぽかったので、ヒラタ♂の極小個体は茶色くなる傾向があるようだ。 かくして、これでも立派なヒラタ♂であった。結局、体長は18.8mm。よくぞこのサイズで羽化したものである。 2令幼虫のままで羽化した可能性もあるのだろう。

[ヒラタ・スジ]

スジクワガタ♂と並んで、20mm未満同士の比較

 

最大個体

一方、今年採集したうちの最大個体の方は、サイズとして特筆できるようなものではない。

自分はヒラタを河川敷を中心に採集しているところであるが、 リュージョン氏が書かれているように(→くわ馬鹿2003年春号「ヒラタクワガタを掘る」)、クヌギ林で採れるヒラタよりも河川敷のヤナギ林で 採れるヒラタの方がサイズは一般的に小さいと思われる。中でも、自分がこれまで採集してきた東京産ヒラタ♂成虫は 30mm台が中心で、50mmには遠く満たないものばかり。聞くところによれば、関東の河川敷でも50mmオーバーのヒラタは ちゃんと採れているとのことである。そこで、今年の自己目標を「50mmオーバーの採集」と決めていた。 ヒラタとしては何でもないサイズかもしれないが、自分の近場採集の目標としては、とりあえず精一杯のもの という思いだった。

その目標は、樹液採集を始めて2ヶ月近く経った6月29日にようやく達成できた。日頃から野外で小さいサイズばかり 見てきたせいか、その個体は異様に大きく見えた。定規を当てると51mm。思わずガッツポーズ。「こんな程度でよくもまあ」 などと呆れることなかれ、幸せの基準は個々人次第の相対的なものなのである。ともあれ、河川敷の細い木で見る 50mmオーバーは、なかなかの存在感を持っていた。

[ヒラタ♂51mm]

見つけた瞬間はやけに大きく見えたのだが

 

樹種

実は、今年の東京産ヒラタ採集についての自己目標として、50mmオーバーというサイズ以外に、 もう一つ心に秘めていたものがあった。それは、ヒラタをクヌギ・コナラ・ヤナギ以外の樹種で採る、という ことである。いろいろな広葉樹に目を向けて採集の可能性を探ることは、近場のクワガタ採集が行き詰まらないように するための自分への課題でもあった。

そして、その目標は、尊敬すべき知人であるP.Kawadai氏からの貴重なアドバイスにより、比較的あっさりと、 しかも反復・継続的に達成してしまった。氏のアドバイスによって知りえたことでもあり、まことに恐縮ながら樹種名は 伏せさせていただくが、上記51mmの個体もその樹種における採集である。その樹種では、他にコクワは勿論のこと、 ノコ、スジ、カブト、カナブン、ヒメマイマイなど、クヌギやヤナギと同様の昆虫たちを数多く確認できた。 近場の普通種採集も、結構奥が深いものだと改めて思い知らされた。

[ヒラタ・ペア]

このペアもその樹種で見つけたもの

 

最遅個体

これも、最早個体の対語としての造語である。今年のその時期は、昨年の10月6日という自己記録を約一週間更新して、 10月12日であった。

10月も中旬に入ると気温が下がり、樹液採集ももはや諦めるべきかと思った矢先の12日、その日だけ暖気がぶり返し、 夜になっても気温は20℃を下回らなかった。よもやと思って出撃すると(家内の表情は呆れ顔を通り越していた)、 ヤナギの根元でヒラタ♂を確認。体長35mm、擦り切れて符節が一部欠けた個体であった。盆を過ぎ、 特に9月に入ってからは、ヒラタの新成虫が見られることはこれまでめったになかったが、この個体も例外ではなかった。 採集せずにそっと元に戻しておいたが、採集記録を残すという意味ではちょっと勿体なかったか。
 

[最遅ヒラタ♂1] [最遅ヒラタ♂2]
   
ヤナギの根元の落ち葉をどけてみると・・・ 擦り切れた♂(35mm)が頑張っていた

これで、今年は5月7日から10月12日までの5ヶ月以上の間、ヒラタ成虫を追い続けることができたことに なる。樹液での採集可能期間がコクワに次いで長いことが、ヒラタ採集の長所の一つに挙げられるだろう。
 

ざれ言

こうして、とりあえず今年もヒラタ採集をそこそこ楽しむことができた。ところが、 ヒラタ採集を楽しむほどに、気軽に通える近場のポイントでの観察や新規開拓には、もはや限界を感じつつある。 一方、自分の懸案となっている近場でのミヤマの成虫採集は、この夏は惨敗を重ねてしまった。一応ここぞというポイントを 押さえて何度となく通ってみたのだが、無駄にガソリンを撒き散らしただけの結果に終わってしまった。 東京都市部の近場採集でミヤマがヒラタに取って代わることは、なかなか難しそうだ。

さて、来年はどうしよう? 毎年末、こればっかり言っていて、採集記に全く進歩がないことにどうかご寛恕を願う。 どうせ来年も、また小さな自己目標を勝手に捻り出して、近場採集にいそしむような気がするが‥‥、さて。


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