by リュージョン

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柳のヒラタクワガタは小さい?
3月ともなると、突き刺すような寒さも遠ざかり、風の弱い晴れた日など本当に幸せな気分になる。日向から立ち昇る土の匂いが好きだ。子供の頃、ハコベとオオイヌノイヌフグリの咲く原っぱに転がって「春のにおい!」と言っていた懐かしい思い出が蘇る。
今春のヒラタクワガタ採集のテーマは、「柳のヒラタは小さい、クヌギのヒラタは大きい」を実証することだ。近接する発生地で双方の樹種から成虫を採集し、大きさを比べてみたい。柳は成育が早く生木の時から柔らかい。その材を喰っていては、高密度のクヌギ材の場合よりクワガタが大きくなれないような気がしているからだ。
3月に3回行った採集で。ヒラタクワガタ16頭を得た。数が少なくてとても実証というレベルには達しなかったが、その模様を紹介しよう。
 

3月9日東播
東播とは、兵庫県南部、ほぼ加古川の流域を指す。うねるような丘陵地帯と平地が組み合わさり、多くのクワガタを育んでいる地域だ。3月9日、下から吹き付けるような強い風と雪の中を採集に向かった。明石のtaniさんを拾って三木に着く頃には何とか晴れてきてほっとした。適当に車を停めて、クヌギ林に入ると樹液の出る木が散在していた。「いいねえココ!」「あ、朽木!」秋〜春のクヌギでのヒラタクワガタ採集は、朽木の地下部から掘り出すことになるので、「根堀り」と称している。まずはその根を堀り起こして天地返しにし、下から削っていくのがよい。採れない採れないと言っている人は、大抵地面より上に転がっている材を削っている。地上はコクワのみだが、地下はヒラタ・ノコ・ミヤマ・スジ、皆の楽園だ。
いきなり一本目の根からヒラタ幼虫が現れた。「そんな、私の立場はどうなるの」と言いながらtaniさんがケースに入れる。少し行くと朽ちた大きな根が展覧会のように沢山並んでいる場所に出た。「おお、大作揃いだ!手分けして頑張ろう」taniさんが取り付いたのは根が深すぎて天地返し不能。大きく周りを掘って横から攻めたが、クワガタが嫌う微細なハニカム状の朽ち方だったので断念。私は1本不発の後、2本目をぐいっと返すと、フレーク状に黄色っぽく朽ちていた。クワガタには柔らかすぎる感じで、斧も要らない。何気なくバチツルで掘り進むと楕円状の窓が開き、黒くぬめっと光った。うわ、巨大なヤマナメクジか蛙の冬眠だなと思ってバチツルの先で押すとにゅっではなくてコツンという固い感触。ヒラタの背中だったのだ!
60mm♂登場 60mm♂登場

詰めのゆるいマットみたいな材から出てきたのには驚いた。直径25cmのクヌギの根、地下15cm。通常居るはずの兄弟姉妹は皆無、単独で柔らかい蛹室を作っていた。栄養の抜け切ったような根でも60mmになれるのはクヌギ材の底力か?または単独成長で餌を独占できたためなのか?

 ここでtsuu3@田中さんが合流、3人で追加を狙うがコクワばかりとなり、少し北へ転戦した。次の場所はワクワクするような樹液ポイントで大いに期待したが、地中から出るのはミヤマばかり。同じ標高なのにどうなっているのだろう。北斜面はミヤマで南斜面がヒラタとか棲み分けしているのだろうか? 仕方が無いので、tsuu3さんはチビクワ、taniさんは無謀にもミヤマ幼虫、私は子供の教材用にカブト幼虫をお土産にキープ。忙しいtsuu3さんはここで帰宅、taniさんと私で加古川河川敷を攻めることにした。
お土産カブト カブトの幼虫は蛹になったらカップ酒の瓶に入れて小学校に持っていくと大層喜ばれる。

でも、この日の夕食はエビのチリソースだった。
昼間の夫の採集状況を考えろ〜、勘弁してくれ〜(ToT)。

日が傾いた河川敷はすっかり冷え込んで気温4℃。水洟がたら〜と垂れて体温とともに風下に吹き飛ばされていく。夏の樹液採集で敗退した場所なのでヒラタが居るのか疑問だったが、車を停めて歩いてみた。浅瀬には大きな野鯉の群れが入っていたし、ヌートリアの巣穴からは盛んに出入りした足跡がついている。春間近なのだ。
土手の下にそこそこの柳材を見つけたので採集開始。根元近くでボキッと折れたのでtaniさんに任せると、いきなり斧を持ち出した。「違う違う!大事に堀り上げてから削るのっ」土が柔らかで簡単に掘り出せたその根の中から、次々に小さいヒラタが現れ、taniさんは「ほほほっ」と喜ぶ。
そこへ少女がやってきた。誰も居ない河川敷で凶器武装のおっさん2人のところに寄ってくる12歳の少女のあどけなさ。
「何してるん?」
「虫採り。ほれ、クワガタ」
「ウチ、犬待ってんねん。もうすぐ散歩に来んねん。虫なんか採って何がおもろいん?子供やなあ〜」
「じゃお姉ちゃんはなんで犬好きなん?」
「かわいいもん!」
「僕らも一緒(^o^)ゞ」
彼女は見よう見まねで斧を勝手に使ってコクワ幼虫をぽろぽろ出し、夕日の中へ消えていった。この平和を大切にしたい。
加古川河川敷の夕べ 左は加古川河川敷の柳の状況だ。木は沢山あっても、枯れると根っこごと流されてしまうので、なかなか雑木林のようには良い根っこが見つからない。

下左が割ってみた倒木。左奥の土手に深く根が入っていて適度に朽ちていた。

下右の画像はこの日の成果。中央が先にクヌギの根から掘り出した60mm♂、周囲のピカピカの2♂4♀が河川敷の倒れた柳の根から出てきたヒラタクワガタだ。大きさの差は歴然。一応テーマに沿った採集ができて満足だ。

見つけた根付きの倒木この日の結果
 

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