真冬の

近郊ミヤマ探索日誌

[里山の風景]

えいもん



はじめに

近場ではこれまでヒラタばかり追いかけてきたが、そろそろ目を別のものにも向けてみたい。 ヒラタの次の狙いは何にすべきか? 首都圏で生まれ育った者にとっては、 オオ・ヒメオオなどは別格として、ヒラタとミヤマはなかなか手軽に採集することのできない クワガタの双璧と言えるだろう。自分の周りにも、この二つの種が小さい頃から憧れの クワガタとなっている人が多いように思える。そうすると、今度はミヤマを近郊の地で見つける ことこそが、採集ターゲットとしてふさわしいのではないか。

ただし、ミヤマは生息環境として湿潤で奥深い林が必要であり、首都近郊で追い求めるには 限界がありそうだ。自分はこれまでミヤマを、東京では高尾山、神奈川では鎌倉市、横須賀市 の里山などで観察・採集しているが、自分が住んでいる都区部からみてさらに近場となると、 運がよほど良くなければなかなか見つからないかもしれない。

とにもかくにも早速ポイント探しに出かけよう。採集は、「行った者だけ採れる」のであり、 「行かない者には採れない」のだ。とりあえず、近郊で里山が残っていそうな所を探索しに、 地図を頼りに車を走らせることとした。


1月19日(日)朝

自宅から車で西へ行く。目当ては、1時間以内で到着できる範囲内の、川が近くに流れているような 里山だ。そんな好条件に合う場所で、以前から訪れてみたいポイントがあった。初めての地なので勝手が わからないままにアプローチし、とりあえず丘や雑木林が見える方向へ道があるままに進んでいった。

とある里山の雑木林の入り口で車は行き止まりとなった。雑木林はコナラが中心だが、クヌギも 生えているようだった。車を降りた付近には、樹液が出るように幹を故意に傷つけたと思われるクヌギが 数本見つかった。夏にはノコ・コクワやカブトがつき、それを狙って採集者が通うのだろう。そばで 腐葉土に埋もれたサクラの朽ち木を叩くと、案の定、カブト幼虫が出た。

[カブト幼虫]

サクラ材の中のカブト幼虫

その他には叩きやすそうな材は少なく、目立つような材割りをしてもいけないので、あとは散策。 その雑木林は思ったよりも奥深かった。小さいけれども台場風なクヌギも見られる。ただ、樹液痕が 顕著な木は少なく、夏場の採集は、先ほど見かけた傷跡付きのクヌギを除くと、そう簡単ではなさそうだ。 しかし、ミヤマの生息の可能性を期待させるような林であった。

[雑木林]

コナラにクヌギが混じる雑木林

農家の畑の脇に、切り出した材がごろごろと転がっている場所も見つけた。市街地がすぐそばでもあり、 斧で割るのはためらわれたが、クワガタ・カブトの発生源が十分にあることもわかった。

[材置き場]

市街地が目の前の材置き場

その後、また車を気ままに走らせて付近を探索。すると、さらに里山が広がっている場所が見つかった。 都市近郊にもかかわらず、美しい里山がよく保存されているところだ。民家園に、早朝にもかかわらず 熟年の人たちが大勢訪れていた。付近を散策している人も結構いる。バード・ウォッチングだろうか。

これだけ木があれば、有望なクヌギ・コナラも見つかるのではないか。そのポイントはじっくり 散策する時間がなかったので、また訪れてみようと思う。

結果:カブト3令幼虫1頭確認
 


2月1日(土)朝

先週末は、くわ馬鹿仲間の新年会があったりして出撃できなかった。2週間ぶりでもずいぶん久しぶりな 気がしてしまう。前回の最後に見つけたポイントへ行ってみる。早朝のため、車で40分ほどで到着。 残念ながらデジカメを忘れたのに気がついた。

まず、田んぼの奥の山を散策。ここもコナラ中心だが、クヌギも結構見られる。樹液痕や洞のあるような 木はほとんど見られなかったが、夏に木々を蹴飛ばせばミヤマが落ちてきてもおかしくない雰囲気だ(今は 夏ではないので何とでも言える)。池の周辺には幹に傷をつけられている木もあり、雨露さえあればヒラタ だっているかもしれない(期待が高すぎる)。

その後、山から田んぼ周辺へ。開けたところのクヌギはとても有望そうに見えた。樹液痕が見られないのが 何とも惜しいが、夏はきっといい雰囲気に違いない(こうしていつも後で裏切られる)。

結果:下見散策のみ


2月9日(日)朝

夜通し降っていた雨が明け方には上がり、快晴の朝だ。気温もさほど低くなく、道路が凍結していることも ないだろう。足元が気になるところだが、こんな朝は出撃しなければならない。早速今日も同じポイントへ。

7時過ぎに到着。朝もやがかかり、美しい景色だ。写真を撮りつつ、車を進める。車を降りて、長靴に 履き替える。畔道はところどころぬかるみとなっている。

[里山の朝景色]

市街地近くの里山の朝景色

実は、これまでは夏場の採集のための下見だけをするつもりだったのだが、前週の下見のときにある朽ち木の 切り株を見かけ、それを是非とも掘り起こしてみたい衝動に駆られてしまったのだ。したがって、今朝は両手に 軍手をはめ、スコップを抱えている。

一本クヌギを過ぎ、田んぼを横切ると、狙いの切り株ポイントに到着。地上部は誰かに割られているが、 コクワ以外を採りたいのなら、根を掘らねばならない。「あわよくば」の近郊ミヤマ狙いである。

[切り株]

地表部が誰かに既に割られている切り株

根を掘り起こすにはその切り株は太すぎるので、根回りを掘って根を削ることにする。枝のように伸びた 根を掘り当てると、案外柔らかく、スコップだけで削れてしまう。そこに食痕が走るが、出てきたのはコクワ幼虫。 うーん、残念。

あきらめきれずに根回りの別の部分を掘る。その根は白腐れのサクサクっとしたいい感じ。ようやく食痕とともに 幼虫が現れる。もしかしたら、ミヤマか。口に細枝を噛ませて釣り上げると、頭の色は濃い。気門もドルクスとは違う。 しかし・・・、ノコであった。結局ノコ3令幼虫3頭を採集。コクワは埋め戻して、ノコだけ持ち帰ることとした。 この日の採集はこれでおしまい。掘り出した土をしっかりと元に戻しておく。後片付けも結構重労働だ。

[ノコ幼虫]

残念ながらノコ幼虫

スコップで掘っている途中で、カメラを持って散歩している年配の男性が興味深そうに話しかけてきた。 「クワガタ採集です」と幼虫を見せると、「おもしろいんでしょうね」と少し感心した風だった。

さすがにのっけからミヤマは採れなかったが、深追いしていけば、本当にミヤマが出そうな気がする。

結果:ノコ3令幼虫3頭採集、コクワ幼虫3頭確認
 


2月15日(土)朝

1週間前のリベンジ。田んぼの脇はノコだったので、この日は山に入って立ち枯れを探ってみようと思った。

9時過ぎまでに自宅に戻らなければならない用事があるので、いつもより早く7時前に着いて探索開始。日の出が 早くなっているので助かる。

[里山風景]

今朝もいい天気

車から降りてスコップを取り出すと、犬を連れて散歩している人が「何を掘るんだい」といぶかしげに尋ねてきた。 どうやらこの辺りの地主さん。「虫とりです」と答えると、「カブトムシか。むやみに掘ってはいけないんだが、まあ、 黙ってやってもわからんけどな」と、目こぼししてくれた。荒らすことのないように気をつけなければならないと思った。

早速山に入り、山歩き用の道をたどる。道の脇に朽ちた切り株が見つかった。根元を掘って根を叩いてみると、 食痕が現れたが、態勢が悪くて追えなかった。あとは大きなカミキリの幼虫が見られたのみだったので、掘った 穴を埋め戻す。

[雑木林]

こんな林が広がる

さらに少し進むと、また別の切り株が。掘り起こすには太すぎるので、根の周りの様子をざっと見る。だが、 コクワ幼虫が見られただけで終わった。

筑波でのミヤマ幼虫採集の経験(→ くわ馬鹿2002年夏号「短編小説:深山掘り」)では、立ち枯れが根っ子ごと倒れている木が採集しやすい。 そんな目で歩き始めると、まもなく恰好のコナラの倒木が見つかった。根元が落ち葉に覆われていて、それを払うと 既に少し削られた跡がある。先行者がいたようだ。しかし、根部はほぼまるごと残っている。叩いてみると、すぐに 食痕が出た。固めの湿り気十分な根部だった。慎重に削っていったが、2令幼虫を潰してしまう。明らかにコクワではない。 ノコか、それとも・・・。

[倒木]

コナラの倒木

そこで、さらに慎重に、太めの食痕を追う。出た。狭い部屋に器用に身体を折りたたんでいる幼虫。尻を細枝でつっつき、 頭を向かせて、その細枝を無理矢理噛ませて釣り上げた。3令になり立ての幼虫であった。顔は・・・、ミヤマだ。口元の中央に 並ぶ4つの点刻が特徴的だ。体も毛深い。このポイントでのミヤマの存在が確認できたのだ。

[ミヤマ幼虫]

3令幼虫が出る

[ミヤマ幼虫の顔]

ミヤマの顔だ(ちょっとピンボケ)

気をよくしてもう1頭採る。やはり、ミヤマ幼虫に間違いない。まだ採れそうだったが、飼育が難しい種でもあり、 そもそも今は夏場のための下見が目的なので、とりあえずはこれでおしまい。その倒木にまた落ち葉をかぶせて原状回復しておいた。

どちらかと言えば、あまりにあっさりミヤマが採れた感じだった。改めて地図で確認すると標高は100mにも達していない場所なのに、 結構ミヤマが濃いポイントなのかもしれない。

結果:ミヤマ3令幼虫2頭採集、コクワ幼虫1頭確認

(注)このポイントの近くに住むヒデキ氏と翌週末に再訪。同じ倒木根部から3令幼虫を1頭割り出した。


おわりに

こうして、自宅から気軽に通える場所で、幸運にもミヤマの生息が確認できた。これは自分にとって結構嬉しいことである。 ミヤマがいることさえわかれば、そのポイントでもうこれ以上幼虫採集に励む必要はない。夏場に通って成虫を探すのが今から楽しみである。

首都近郊の市街地近くでも、湿潤な雑木林がある程度の規模で残されているところでは、注意深く探せばミヤマは見つかるのかもしれない。 こんどはもっと近い場所のミヤマ探索にトライしてみよう。



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