都会でもあきらめてはいけない

何をいまさらの都市部採集方法

えいもん







都会の子供たちはクワガタはデパートで買うものと思っているらしい。 それも無理のないことである。身の回りにクワガタが見られないのに、 クワガタ採集に興味を持てといってもなかなか難しい。
昆虫が身近にいなければ、そもそも昆虫そのものへの興味の湧き方が 少ないのは当然のことだ。かのファーブルはフランス人でありながら、 パリの人達はファーブルのことをよく知らないのは有名な話である。 パリの市街地では蝉やコオロギが鳴かない。オープン・カフェでも蚊 に刺されることなんてめったにない。こんな環境でどうやってファー ブル昆虫記に興味を持てるだろうか。ファーブルが晩年過ごした家が 南仏のオランジュ郊外に残されているが、訪れる人の大半はなんと日 本人である。
その点、まだ日本の都会では蝉が鳴き、チョウもトンボも飛んでいる。 蚊やゴキブリを持ち出すまでもなく、昆虫は身の回りによく見られる。 都会で育ったとしても、ほとんどの人がファーブル昆虫記の存在くら いは知っている。
しかし、ことクワガタやカブトとなると、都会ではそうそう見かける ことはない。

都市部の公園で見つけたカブト幼虫



昔と比べると、見つけるのはさらに難しくなっているだろう。一方で、 子供の夏の遊び場もエアコンの利いている室内に重点が移っていて、 採れない昆虫採集よりもテレビゲームの方がよっぽど面白い、という ことのようである。


要するに、クワガタに関心を持つには、クワガタが採れるという環境 がやはり大事だということである。この点、東京は、大阪に比べても クワガタ環境に恵まれていないようだ。その証拠となるかどうかはわ からないが、東京はその人口に比べてクワガタ専門店が大阪に比較し て少ない。これはやはり興味を持っている人が関西と比べて少ないた めにほかならないのではないか。東京の、しかもその真ん中の方に住 んでいれば、それだけクワガタが身近でないのはやむをえない。大阪 では、都市部でもちょっとビルの上の方から見れば、北摂や生駒の山 々がよく見えるが、東京の真ん中からは山は遠い。

先日、NHKの「ためしてガッテン」で、身近なクワガタ採集を紹介して いた。コンセプトは、市街地でもちょっと目を凝らせばクワガタは見 つかる、ということだったかと思う。そこで出てきたのは、確か東京 都町田市。閑静な住宅街が広がるところである。そこは東京でありな がら、テレビ画面に野生のノコだけでなくヒラタまで登場してきて、 私は非常に羨ましく思ってしまった。

かくいう私は、東京都目黒区に育ち、今も同区に住んでいる。けっし て東京の真ん中ではないが、相当程度都市化されている地域である。 目黒区というと、小島氏著「クワガタムシ飼育のスーパーテクニック」 を読まれた方は、冒頭の少年期思い出の部分に出てくるのを想起され るのではないだろうか(私は小島氏を存じ上げないが、どうも氏と同 世代、同郷のようである)。その本には、かつて近所でノコがたくさ ん採れたという話がのっており、私はいたく感心してしまった。私の 場合は、身近の環境がよくなかったのか、はたまた単なる採集下手 のせいか、少年当時においてもノコは珍しいクワガタであった。よ くノコがコクワと並んで普通種と称されるのが、私にとっては不思 議で仕方がなかった。

ノコでさえ希少種


私の少年期の主な遊び場であった実家の隣の神社には、立派なシラ カシの木があり、6月になると樹液にシロテンハナムグリがつき、 コクワがまれに顔を見せた。その神社の敷地は小さなものだが、夕 暮れにはオオミズアオが飛び、ヤマトタマムシの死骸がよく見つか ったりしたので、当時はまだ自然が少なからず残っていたものと思 われる。だが、ノコについてはたった一度だけ、そのシラカシの洞 から、顎が立派に湾曲した雄の個体を大人が掻き出したのを覚えて いるが、それきりだ。ましてヒラタなどは、当時の私は図鑑でお目 にかかるだけであった。

今は、同じ目黒区のさらに都心寄り、山の手線の円内ほどの都市部 ではないが、その周辺部に住んでいる。物価が多少高い気もするが、 住むにはなにかと便利でいいところなのだろう。しかし、自然環境 はと言えば、もちろん貧弱の一言である。野生生物で勢力をひたす ら伸ばしているのはカラスとゴキブリくらい。昨今、自然環境の保 全のためにいろいろな努力が始められているが、私の少年期と比べ て状況が悪化しているのは間違いないだろう。自然破壊だけでなく、 カラスの繁殖などの環境変化は、ノコのような昼行性のクワガタに は相当辛いことと思われる。くわ馬鹿にとっては非常に不利な環境 であることを覚悟しなければならない。

まず、ノコが夏の最盛期にほぼ確実に採れる郊外のポイントまで、 早朝などの道路が空いているときでさえ車で走って優に30分はか かる。樹液採集のための最適時間帯と言われる午後8時にそのポイ ントに着くためには、当然渋滞が見込まれるため、行きだけで下手 すれば1時間以上かかるだろう。子供達を気軽に採集に連れて行く ことはとてもできない。