7.Mar.2001 by 田老

初見参(しかも初齢)のムシを、田老棚で育てるということが如何に大事業(暴挙?)であるかを読者諸兄諸嬢にご理解頂くことを兼ねて、少々ご質問のあった田老棚での諸原則についてご説明申しあげる ことにする。

第3章ー飼育上の五大原則(on田老棚)ー

第1原則   「採卵した卵は、卵のままその生涯を終える。」 

  (初齢、2令も上記原則を準用する。)

解説 まちかねさんのところにお邪魔するようになりたての頃、「デカいムシにするには、できるだけ早く菌糸に投入するのだ」という説が流行って いた。(今でもそかもしれない)話しを聞いり教わったりした人達が悉 く、「セット後1週間で割り出し(卵で出すため)、孵化、即時投入」とい うのを実践していた。もちろん田老もマネしてみた。が、取り出した田 老の貴重な卵は、ただ黒くなるだけであった。

初齢2令ならどうか? 初齢2令では、「イモムシは、黒化せず、ただ消え去るのみ」であった。

田老棚(ムシを置いている本棚のことだ。ーこの際、用語解説も行うことにする)では、自然孵化以外では決して卵は孵化しない。であるか ら、ゆめゆめ採卵などの危険な行為を行ってはならない。

また、産卵セット後1週間〜1ヶ月で割り出すなどの行為も採卵に等しい危険な行為として、田老棚では御法度である。 

第2原則   「☆定数」

解説 ☆定数とは、 「☆の頭数は、当該種、亜種、地域変異の各所持頭数に関係なく、各々ほぼ一定数である。」という法則を示している。

とかくイモムシというのは、よく死ぬものである。初齢2令に限らない。 暑くても寒くても、マットが気に入らないとかビンが気に入らないとかの 些細な理由で、即、昇天してしまう。

しかもある一定の割合(2割とか3割とか)で死ぬというのなら、納得もできる。一定の損耗割合であれば、「3頭居れば、1頭は成虫だ」などの計算も成り立つのである。

しかし、いもむし飼育は、そのような飼育者の甘い魂胆を打ち砕くの だ。ある一定の頭数に達するまで、☆頭数は累積していくのである。しかも、この法則は、「所持頭数の少ない&貴重なムシに限って、発現率が100%近い」という性質を持っている。(しかも、毎回☆頭数はリセットされるらしい...)

つまり、「所持頭数が少なければ少ないほど(=☆定数を満足していないため)、ムシは☆定数を満たそうとする(限りなく死に続ける=全滅まっしぐら)。」ということになる。もちろん、田老棚での「☆定数」の出現率は、100%近い。

仮に、アナタが「☆定数」など吹き飛ばすほどのドルクス長者だとして も、いもむし飼育には次ぎの難関が聳えている。

「損耗率50%の法則」である。 この法則は、全く別の未知の大系に属しているらしいのであるが、細部にわたってこの法則を熟知することは、ドル貧の私には叶わない望みである。

以前は、1頭死ぬ度に大騒ぎしていたが、この☆定数を発見して以 来、多少あきらめが、、、(つくわけないぞ)。

では、☆数(幼虫)の定数とは? 田老の研究によれば、下限は5頭である。上限は、いまだ研究中である。 

第3原則   「雌雄偏在の原則」

解説 雌雄偏在の原則とは、 「雌雄は、どちらか片方しか羽化しない。」というものである。

もちろん田老には雌雄が全く判っていない。それでも、雌雄の当て推 量を行うのはいもむし飼育の大きな楽しみの一つである。が、そこまで に止めておいた方が無難というものである。イモムシを数えて、2ペア だ4ペアだと喜んでペアリングの予定まで立てるようになってはイケナ イ。羽化してみれば、♂ばかりとか♀ばかりなどというコトになるのが (田老棚では)普通である。

田老棚では、次世代の繁殖予想を行うことを強く戒め「成らぬ雌雄の 皮(いもむし)算用」と呼んでいる。

で、この強力かつシンセイな二大原則(☆定数、雌雄偏在)を、特に 「10頭の壁」と呼んでいる。「10頭の壁」とは、田老棚の成虫1ペアの 影には、いもむし10頭が潜んでいるというイミである。

田老の繁殖計画は悉くこの「10頭の壁」に阻まれて来たといっても過 言ではあるまい。この壁の次には、第2、第3の壁(「相性の原則」だと か「羽化時期はズレる」、「マット産みは産まない」など)があるのだが、 本連載は羽化までなので、詳細は次ぎの機会に譲る。 

第4原則   「クワ7g、カブト17gの法則」

解説 巷では、30gオーバーにもなる巨大クワガタ幼虫の話しを聞く。種類に よっては確かにデカイ。化け物みたいな幼虫が居る。国産だって負け てはいない、オオクワの20gオーバーなんて超弩級の迫力である。

しかし、田老棚では、クワは7g程度である。コクワだろうがオオクワだ ろうが外産だろうと申し合わせたように同じである。ワンカップかせい ぜいゴールドブレンで十分である。しかし、それでは棚が寂しいので、 見栄でネスビンなども並べている。大きいビンだとムシも大きく見え る。(似たような大きさで見比べているので、いもむしの同定眼が鍛え られる。なんてことは、ない。田老には、コクワもオオクワも見分けが つかない。)

外産カブトはデカすぎる、増えすぎる、スペースが足りなくなると聞く。 が、田老棚ではそんなことはない。カブトも17gと決まっているのだ。ア トラスだろうがコーカサスだろうが外産カブトも国産と兄弟のようであ る。(コッチは、色形が明らかに国産と異なる種があるので、多少はワ カル。)

80g100gとなれば、狭い田老棚には不向きのハズである。しかし、ミ ニケースで十分な大きさなので、案外飼育できるのだ。(ビンでも大丈 夫と、囁かれている。否、小なりと言えカブトである。)一応、樽とか衣 装ケースも用意したが、一度も使われないまま没収されてしまった。問 題は、羽化である。クワと違ってちっこいままの羽化というのが難し い。

「クワ7gカブト17g」の原則には、しかし、大きな利点も隠れている。 そう、狭い日本家屋では常に問題と成らざるを得ない「飼育スペース の負担」が、相当程度軽減されるのである。

「巨大クワガタに4L菌糸ビン」とか「外産カブトに衣装ケース」は、理想 的である。が、理想は適わない(ムシは太らない)ものだ。加えて、拙 宅でそのようなマネごとをすれば、私の居場所が真っ先に削られるこ とは、間違いない。

衣装ケースは極端な例だが、クワ飼育でポピュラーな飼育ビンにす ら、危険な性質が潜んでいることに、田老は気付いている。それは、い つのまにか棚からあふれるほど増殖するという忌まわしい性質であ る。(ムシは増えないのに)

しかし、「クワ7g、カブト17g」原則の支配下にある田老棚では、実 際、ダンボール温室に相当数のムシを収容することが可能となってい る。「クワワンカップ、カブトミニケース」がなせるワザといおう。

しかもそれは小型種に限らないのである。実に魅力的ではないか! 残る課題は、ただ「羽化のみ」である。

第5原則   「盛者必衰の理」

解説 拙宅には、ムシ用の空調はない。人間用もあるのかどーか、あやしい ものだ。 というわけで、暑くなったり寒くなったりする度に、オロオロすることにな る。近頃のマンションでは温室ナシでも、冬期ムシが飼えるそうだが、 内陸性気候の我が家の室温(冬0〜20度、夏30〜4×度)では、ム リだ。冬はヒーターがんがんでも足元涼しく、夏はクーラービンビンでも 頭は天然サウナ風呂状態である。 ケースやらビンやらを抱え、季節ごとに大移動しなければならない。

「床下は涼しい」と聞けば、暑い夏には床下に潜り、ビンを並べる。 が、ただ並べれば良いというものではない。床下の風道を塞いではい けない。 そうはいっても、手近なところに山と積み上げたくなるのが人情という ものだ。 そうすると、通気が悪くなり、温度も上昇し、秋になってビンを引き揚げ てみるとビンの中にムシは居ないということが幾たびか。。。

寒い冬には、ダンボールに詰め、電気アンカなどを焚く。が、人間系の 制御に頼ってはいけない。蒸し焼きにしたり、凍えさせたりということに なる。だがまぁ、クワは、人間系制御でもなんとか冬越しができる。し かし、カブは、できない。あの頑強な外見とは裏腹に存外、繊細であ る。今年のダンボール改造温室は、サーモ+熱帯魚ヒータに進化し た。これで、なんとか無事に4月を迎えたいものだ。

結果的に、夏越し冬越しでムシが減るからといって、ゆめゆめ「田老 の天然リストラ」などとは、呼んではならない。ムシは生きたいように生 き、☆と成るべき時を選ぶのである。この、ムシが日々を好きなよう に、生き、☆する様を、古人は「日々是好日」と表した。(暑さに弱いハ ズのムシが夏を越し、寒さに弱いハズのムシが冬を越した実例が、幾 多となくあるのだ。田老棚の七不思議である。) 個々の皮相な現象に囚われてはならない。原則は、「滅びるムシは去 り、春(秋)を迎えるムシは残る」である。これを「盛者必衰の理」とい う。 問題は、生き残るムシが少なすぎるという(些細な?)1点にある。 

長々と述べてきたが、諸原則の説明は以上である。(まだまだ諸原則 の研究は続けるつもりである)田老棚に於ける前述の諸原則の下で のクワカブ飼育が、いかに困難と苦渋と悲哀に満ちたものであるか は、賢明なる諸兄諸嬢の想像に難くないであろう。しかし、かわいいイ モムシが、艱難辛苦を乗り越え、無事成虫となり、親虫となって、大量 の子孫を残してくれたときの喜びもまたお察しあれ。(田老はまだ、里 親探しには、苦労していない。)

さて、ここでは述べていないが、最も肝要なのは、「山の神」に対する 懐柔策である。各所苦労されているようだが、田老棚も例外ではな い。が田老の臥薪嘗胆話もつまらないので、次章ではニジに戻ろう。

最後に、 「創業成りやすく、守成成り難し」という。クワを入手することはできて も、維持増殖するのは困難だという先人の戒めである。未だ創業にも 至っていない田老であるが、いつの日か守成の諸原則についても、述 べることができるよう精進に勤めたい。 

注:本章の内容は、第三者による追試もなくかつ未検証の内容を含 み、田老棚における特異現象である可能性を有し独断と偏見に満ち 満ちているので、各方面で実際の応用を行う場合は、自己責任で行う こと及び詳細かつ緻密な検討&検証、を要す。尚、18歳未満には、 全く推奨できないので、本章の全面について保護者の承諾及び同伴 が、不可欠であることは、論を待たない。