改造申請の詳細(1996年当時)

手作りEVの車検を通すまで

 改造車のナンバーを取って公道を走るようにするためには次のような手続きを踏む必要があります。なお、この内容は1996年に当支部で申請し、車検を取った経験にもとずいています。手続きそのものはそれほど変わらないと思いますが、
最近は市販EVが増えたことでEVの技術基準が確立し、以下に説明するような素朴な改造内容ではナンバーをとることはできません。EV草創期の、作るほうも許可を出すほうも暗中模索だった時代のお話としてお読みください。  申請を出す前に車を作っても構わないのですが、改造内容が適切でないと後からの修正は困難です。車検取得をめざす場合、構想が固まったら早めに申請した方が良いでしょう。軽自動車については申請および車検が普通車と異なり、軽自動車検査協会で行われる以外、基本的な手続きは同じです。詳細は地元の軽自動車検査協会に問い合わせてください。

注意:原付などの改造について

 車検の無い原付やバイク、小型特殊などの改造車については、登録を管轄する市役所などへの届出だけで済みます。
しかし、車検が無いといっても保安基準は適用されます。登録車のように車検でチェックされることが無いので、技術的に問題のないレベルに仕上がっているかどうかを確認するのが困難です。車検が無いからと安易に作成せず、十分に情報収集して安全な車を作ってください。
また、建設機械や農機などは、労働安全衛生法など他の法律による規制もありますので十分注意してください。


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@ベース車の選び方

 コンバートのベースにする車両が乗用車の場合、問題となる重量は+100kg±60kg(製作誤差)程度までは定員を減らさずに済むようです。商用車の場合、積載量を減らす事になります。関東陸運局の見解としては、定員減やバッテリーを減らすなど性能を下げる形で車検に通すのはできるだけ避けたいとの事でした。

 EVに改造するベース車としては自分の好きな車で良いのですが条件を挙げると

   ・重量が軽いこと
 どうしても重くなるEVとしてはベース車の重量は軽ければ軽いだけ有利です。

   ・十分な強度があること
 100-300kgの重いバッテリーを積むため強度が耐えられる物であることが必要です。フレームを持ったトラックや古い車の方が強度があり、ボディの改造が自由にできるのでやりやすいと思います。しかしモノコックでもボディ自体を大きく加工しなければ問題なく車検を取れます。

   ・余計な装備が少ないこと
 最近の車にたいてい付いているパワーウインドウやエアコンのような装置は発電機を持たないEVには負担になり、かつ重くなる原因になります。それでもブレーキサーボとパワステはほとんどの車に付いていますから補助ポンプは必要になるでしょう。また、ミッションを残す場合A/Tは制御が難しいためギヤを固定する場合以外はM/Tが良いでしょう。EVの運転にクラッチ操作は不要ですが、ペダルが残っている場合はオートマ免許での運転はできません。

 したがってEVのベース車にはトラックやバンのような商用車、タクシー仕様の乗用車、年式の古いシンプルな車などが適しています。なお、車検証や譲渡証明書などの登録に必要な書類が揃っていない車は改造してもナンバーが下りません。注意してください。また、国産車、または正規輸入された外国車以外の珍しい車を選ぶと諸元表の入手などに苦労します。

 手作りEVはまだ珍しく、マスコミなどに紹介される機会もある事から、できるだけごまかしは避け、正攻法でナンバーを受けるようにすべきと思います。EVへの改造には節税のための8ナンバー取得のような後ろめたい部分はありません。今回申請してみて陸運局側は素人の手作りEVに対して好意的に見てくれているという印象を持ちました。それだけにこちら側も誠実に事に当たりたいものです。

 また、細かい事ですが車検の残っている車を改造して申請が通る前に公道を走らせたり、仮ナンバーでテスト走行するのは違法です(車検などのために仮ナンバーで移動するのは良い)ので、マスコミに取り上げられる際など特に注意してください。

 コンバートする場合、単にEVとしての改造個所だけでなく、自動車としての基本的な条件を満たしている事が必要です。通常の車検に通らないような不具合があると、改造車検以前の問題となりますのできるだけ程度の良い車を選ぶようにします。外してしまうエンジンや燃料系統は壊れていても問題ありませんので、エンジンが壊れた、車体の程度の良い車を安く入手するというのも良いでしょう。

申請作業開始まで

改造申請書類を作るにはには自動車の構造に関する規定を理解する必要があります。このために保安基準を一通り勉強しておく必要があります。当サイトの図書案内 で参考書を紹介しています。

改造内容の検討

 改造内容については基本的にフレーム、またはモノコックに加工を施すと、車台、車枠についても申請が必要になります。フレーム付きの車の車体を加工する場合は手続きは比較的容易なようです。モノコックを加工した場合など強度計算書が計算だけで作成できるなら面倒なだけですみますが、試験機関による試験、もしくは測定設備や試作車を要するデータが必要になると費用が桁違いになり、現実的でなくなります。ミッションの省略などで駆動系を大きく変更したときも申請が必要になる可能性があります。簡単に済ますにはできるだけ基本的な車の構造を変更しないのが一番です。


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A陸運局との打ち合わせ
 ベース車が決まり、使用部品や大まかな構想ができたら、改造したい車種の構造が分かる資料(整備書など)、使う予定のモーターなどの資料を揃えて、どのような申請内容になるか、登録は可能であるかを陸運局と打ち合わせます。
 EVへの改造は基本的に原動機と燃料装置(電池は燃料なのです)の変更になるため、通称車検場、または陸事と呼ばれている陸運支局ではなく、陸運局に申請する事になります(注)。どこの陸運局に出してもよいのですが、改造車や輸入車に慣れている3大都市圏の陸運局を選んだ方が良いと思います。関東陸運局では私の車も含めEVの改造申請を何件も受け付けています。申請をスムーズに通すにはまず担当者と相談する事です。陸運局の担当者は多忙なので必ず電話でアポをとる事、また、具体的な構想を練っていかないとおたがいに時間の無駄になります。

 なお、軽自動車については陸運局でなく、軽自動車検査協会、原付については車検がないので在住の市役所などへの届出になります。

(注)国土交通省運輸局の組織変更により、2002年7月1日より改造申請は「自動車検査独立行政法人」の地方検査部に申請するようになりました。地方検査部は地区の中心となる運輸支局(旧陸運支局)内に設けられています。このため、陸運局に出向く必要はなくなり、車検場で申請できるようになったため便利になりました。この後の文章の「陸運局」は「地方検査部」に読み替えてください。
審査は従来どおり陸運局で行われます。審査する部署である整備部は自動車技術安全部に再編されました。
車検や軽微な改造申請などについては従来どおり陸運事務所(自動車検査独立行政法人事務所)で取り扱います。


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B書類作成、提出
 書類は、第1号様式、第2号様式と呼ばれる申請用紙(整備振興会等で入手できる)以外の添付資料はA4版の用紙を使うほかに決まった書式はありません。添付資料は申請用紙に指定されたものの他、陸運局との打ち合わせで要求されたもの、必要と思われるものを用意します。
車検証(または抹消登録証明書)、自賠責保険や納税証明などは車検まで不要です。
私が用意したのは
   諸元表   (ディーラーで入手)
   外観3面図 (整備書のコピーを使った、明瞭なら手書きでも可)
   改造概要等説明書
   改造個所、削除、追加した部品の仕様、説明を記述したもの
   追加した部品の資料(カタログ、説明書、仕様書など、コピーで良い)
   既成品以外の部品は図面など
   改造部分詳細図
   改造個所、部品の取り付け、加工などについて説明したもの

   能力強度等計算書
 改造個所の強度が十分である事を証明する書類。EVは通常改造前よりパワーが小さくなるためよほど構造に大きな変更を加えない限り大半の計算は省略できます。私の場合、出力が小さくなる事から十分な性能がある事を証明するため走行性能を計算したのと、製作したシャフトカップリングのボルトとキーの強度計算のみでした。
計算には前記参考書のほか、JISハンドブックや機械設計便覧等を参考にしました。

   形式の同一性を示す理由書
 この車は並行輸入車で形式名が不明だったため正規輸入車と同一である事を説明した書類を添付しました。このように特別な事情があるときはそれについての理由書などが必要となります。
 書類ができたら、陸運局に提出します。提出時に書類の確認や質問などがありますので指定された日時に持参する事になります。改造申請自体は手数料などは一切不要(つまりタダ)です。  改造の内容は作った本人が一番良く知っているはずです。その内容を十分に理解させられる資料を作成する事が大切です。


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C車両の製作
 改造は申請書類にのっとって行いますが、極端に諸元と変わらない限り、書類と寸分違わず一致してなくてはいけないという事ではないようです。
 EVに改造するにあたってモーターのマウントの方法、バッテリーの搭載方法、などを考えるにあたっては電解液の飛散防止、活電部の絶縁、ノイズ対策など、いろいろな条件をおさえる必要がありますが、保安基準には電気自動車に関する基準はありません(2002年現在)。基本的にはきちんと作ってあればOKという事のようです。見るからに雑な作りや適当な材料で作った素人工作ではいけません。また、実験中のようなバラック的な配線や工作も良くありません。あくまでも登録を受けるからには完成された製品を作るつもりで製作する必要があります。最低限必要な事は

   室内の配線は固定されている事(保安基準にある)
   室内から電源を開閉できること(イグニッション・キーのこと)
   バッテリーは適当な方法で被われている事

といった事くらいです。海外の安全規格(UL、IECなど)には、EVの部品や試験法などを定めたものがありますので、可能であれば参照することをお勧めします。

 保安基準にEVのバッテリーについての記述はありませんが、燃料であるのできちんと固定されている必要があります。
同形式であればバッテリーのメーカーが申請時と違っていても問題ないでしょう(どこのガソリンを入れても構わないのと同じ)。 規制緩和により改造に対しては従来より寛容になりました。改造申請で求められるのは保安基準に適合していて駆動系が破損したりブレーキが効かなくなる、といった重大な問題が起きないようにする事だけといってよいでしょう。
 しかし、車検が通ればよいというだけでなく、自動車、そして電気製品として当然の安全装置、絶縁、表示、束線などは言われなくとも実施すべきです。EVを実際に実用に使ってみて必要性を感じた装備としては

   電圧、電流計
   通電表示灯(音がしないのでキーを切り忘れてバッテリーが上がる)
   充電中のインターロック機構(コードをつないだまま発進できない事)

などです。なお、表示灯については異常を示すもの以外は赤色を使わないのが常識です。
また、モーターの型番は、通常打刻形式が届出されていないため、車検場で職権打刻を受けることになります。この場合、車検証には本来のモーターの型番ではなく、打刻された番号が記載されるため、モーターを故障などで交換するときには再打刻が必要になります。もちろん、異なる形式のモーターに交換したときは再度改造申請が必要です。

 車検後の話になリますが、走行距離を伸ばすためにバッテリーを追加したくなることもあると思います。まず、追加したものが工具を使わず取り外し可能な形で適切な位置に搭載される場合は積載物扱いとなります。この条件を満たせば搭載してもかまわないと解釈できますが、バッテリーはかなりの重量で、感電や火傷などの事故を引き起こす可能性のあるものですので、搭載が安全性を損なうようなことがあってはなりません。あくまでもバッテリーは「燃料装置」なのです。
D車検
 書類を提出して2週間ほどで受理されれば、あとは車が完成すればいつでも車検を受ける事ができます。改造車検は改造前の車検証に有効期間が残っていても新規車検となります。必要な書類は通常の車検に必要なもののほかに現車確認のための審査結果通知書および申請書類の写しが必要です。
 車検は通常の車検ライン(EVは排ガスはもちろん省略)のほかに改造車の確認のラインを通すだけです。このラインでは寸法と重量の測定、および実車と申請書類との照合が行われます。書類と寸分違わず一致している事は求められていませんが、かけ離れていると問題になります。重量はスペアタイヤや工具を降ろし、燃料満タンの状態で測定します。
 車検を通すためには通常の車検整備を実施し、アライメント、ブレーキ、灯火類、スピードメータ等の機能を完全な状態にしておく必要があります。2EVの場合、改造内容の確認は問題なく終わったのですが、光軸の不良で3回もラインに並ぶ事になりました。それでも排ガスがない分古いガソリン車を通すのより楽です。

 ラインを通ってナンバープレートと車検証が交付されれば、晴れて公道を走ることができます。書類を作るのは車を作るのより面倒かもしれませんが、検査に通ったときの達成感は格別のものがあります。EVの製作を考えている方は、ぜひ車検に挑戦してください。


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