松本支部1号車Citroen 2EVについて


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シトロエン2CVの歴史、そして2EVへ

 シトロエン2CVは1936年、シトロエン社副社長ピエール・ブーランジェの発案により、農民や労働者のミニマム・トランスポータとして開発された。開発にあたっての条件は
  長身のブーランジェ自身がシルクハットをかぶって乗れること
  籠一杯の卵を積んで荒れ地を走破しても1個も割れないこと
  4人の大人と50kgの荷物を積んで50km/hで快適に走れること
という厳しいものであった。開発には多くのシトロエンの名車を開発したアンドレ・ルフェーブルらがあたった。この条件を満たすためにボディは徹底的に軽量化、簡素化され、エンジンはわずか375cc、9hpの空冷(試作時は水冷)4サイクル水平対向2気筒であったがバイクのエンジンをオリジナルとすると伝えられる高能率の物が採用された。また、卵を割らないためにサスペンションは前後輪の間にばねを配置した、シンプルかつストロークの長い形式が採用された。このエンジンとサスペンションの形式により、2CVはその背の高い外見に似合わず、きわめて低重心に仕上がっている。また、少し古いカローラ並みのサイズでありながら重量は最終型でも590kgにすぎない。
 1939年には試作車が完成したが、ナチスによるフランス占領のため計画は凍結され、発表は戦後の1948年であった。「ブリキの缶詰」「醜いあひるの子」とあだ名されながらもその高い実用性は庶民に受け入れられ、最終的にエンジンが602cc、29hpまで"パワー・アップ"されたが、形はほとんど変わらずに40年間生産され、惜しまれて1989年に生産を終了した。1998年は発表から50周年にあたり、世界中のファンによってイベントが開催された。

シトロエンに関するリンク集http://huizen.dds.nl/~toi/citroen_links.html

 2CVの最小のパワーで最大の結果を得る事を目標とした設計思想そのものは現代のEVに共通する。ガソリン車としてはいわゆるNVHの点で快適とはいえなかった2CVもEVに改造すれば、振動や騒音がなくなる事で元々すぐれたサスペンションによるしなやかな乗り心地とあいまって非常に快適な高級車になる可能性を持っている。
 私はこのEVに2CVの現役時代に付けられることのなかった”電気時計”を付けてやりたいと思う。偉大な大衆車でロールス・ロイスの伝説を確かめるために。
"At 60 miles an hour the loudest noise in this new Rolls-Royce comes from the electric clock"(R/R Motor Co. 1956)

 われわれはこのEVを2CVをもじって2EVと名づけたが、このシャレは欧米人にも通じたようである。この"2EV"は英国最大のシトロエンに関するクラブCitroen Car Club(CCC)によって2CVを改造したEVの世界第1号であるとされたが、最近1959年に製作された第1号車が発見された。
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2CVのコンバートについて -作ってみたい方のために-

 私が改造したEVは、コントローラーこそPWM(PULSE WIDTH MODULATION)方式を用いていますが、基本的には19世紀末から今世紀初めにかけて使われたEVと変わるところはありません。直流モーターをエンジンの代わりに搭載し、120Vのバッテリーを接続し、アクセルペダルで可変抵抗器を動かして制御するというものです。DCモーターはごく低回転で最大トルクを発生するためにミッションは無くてもよいのですが、2CVの場合、ミッションとデフが一体のためミッションおよびクラッチはそのまま使っています。もちろん停車中はモーターも停止していますので発進時にクラッチを使う必要はありません。  自分の2CVをコンバートしようと考えられた方もいると思います。2CVはボディーの構造が簡単なので、作業自体は容易で、大掛かりな道具がなくてもできます。また、ブレーキサーボ、パワステ、エアコンなどを駆動する補助動力も必要ありません。ただし、ヒーターはなくなってしまいます。ヨーロッパで実用に使われている配達用EVがどのような暖房を備えているか、知りたいものです。まずはEV用のモーターなどを入手しなければいけません。アメリカでは趣味としてのEV製作が盛んで、部品を専門に販売する会社があります。私はその中の一つ、KTA SERVICES INC.KTA SERVICES INC.から購入しました。連絡先は
944 West 21st Street - Upland, CA 91784 U.S.A.
TEL:(909)949-7914,FAX:(909)949-7916
です。
 また、EVの自作の詳細については以下の書籍を参考にしました。CONVERT IT by Michael P. Brown, PUBRISHED by FUTURE BOOKS
BUILD YOUR OWN ELECTRIC VIHICLE by Bob Brant PUBLISHED by TAB BOOKS Division of McGraw-Hill,Inc.

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使用部品について


モータ

 今回使用したAdvanced D. C. 203-06-4001モーター($1398)はブラシを持つ直流直巻き型です。このため定期的なブラシ交換が必要ですが、作業はさほど難しくはありません。性能は120V印加時に連続出力25.2HP/5200rpm,5分定格で43HP/3520rpmの出力を発生し、最大トルクはわずか300rpmで11.3kg・mを発生します。  同じ様な定格のモーターであれば他のEV用のモーターやフォークリフト用のモーターの流用も可能です。

アダプター・プレートおよびマウント
 モーターとトランスミッションを接続するためにベル・ハウジングおよびシャフト・カップリングを製作します。カップリングの先端が、エンジンのクランクシャフトの先端と同じ位置になるようにし、ここにフライホイールを取り付け、クラッチをエンジンと同じ様に取り付けます。モーターのマウントは現在はリジッドにシャーシに固定しています。ドライブシャフトの上下動によって力がかかりますが、エンジンのような上下の振動がないためこれでも問題ありません。ゴムマウントが可能であればその方が良いでしょう。。

コントローラー

 CURTIS-PMC model 1221B-7401($750)は同社PB-6型Throttle Potbox($65)との組み合わせでモーターを制御します。保護回路なども内蔵され、大変良くできたコントローラーです。この部分だけはこれを購入することをお勧めします。最近のものはともかく古いフォークリフト用のコントローラーは効率が悪いだけでなく、始動時の制御が不完全で、駆動系に負担をかけることがあります。

コンタクター、ブレーカー、ヒューズなど

 メイン・スイッチとしてのブレーカーと、バッテリー保護用のヒューズ、イグニッション・スイッチによってPROPULSION BATTERIESの電流を断続するための電磁式コンタクタが必要です。ブレーカー、ヒューズは250V,400-500A程度の容量、コンタクターは接点容量連続250A程度あれば使用可能です。  私はG.E.modelTQD-150 Circuit Breaker,およびALBRIGHT model SW-200B Main Contactor を使用しました。また、コンタクターを追加してモーターの接続を切り替えるようにすれば、モーターを逆転させて電気的にバックさせることが可能です。簡単に逆転できるというモーターの特徴を使えば特殊なミッションを使わなくとも2CV SAHARA(50年代に存在したツインエンジン、4WDの2CV)を作ることができます(前後のモーターの高度な電子制御が実現できればトルクスプリット型フルタイム4WD、ツインモータのSAHARAも夢ではありません)。

バッテリー

 最小限の費用と重量に抑えるために日本で小型車に広く使われ、安価に入手できる28AHの開放型バッテリーを10個使用しました。メンテナンスや安全性の点からコストは上がりますが、密閉型のバッテリーのほうが好ましいといえます。ただし、密閉型は過充電で発熱や破損の可能性があるため、充電には注意が必要です。バッテリーからの発生ガスについてはほとんど危険はないといわれています。しかし、事故の際の破損を考慮すると、バッテリーはしっかりと固定し、できるだけ車室内に置かないほうが良いと思います。 また、駆動用バッテリーの他に、ライトやコンタクターの電源として、オリジナルの12Vのバッテリーは残しておきます。  バッテリーの寿命はトヨタのエンジニアによれば1年から2年位とのことです。

コスト

この2EVを製作するのにベース車の価格を別にして70万円程かかりました。主な部品の価格はここの項目に記しましたが、モータを取り付けるアダプタの機械加工の工賃が高く、アメリカからの運賃もかかっていますので、中古部品などをうまく使えばもっと安くできると思います。
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性能

 日常的に使用していないため耐久性には未知数の部分がかなりあります。計算上の最高速度は115km/h、40km/h定値走行でのレンジは57km,1.4hとなります。平均的な乗用車の燃費から換算した実用レンジの推定値は約30km、40分となります。市街地走行では40km程度と思われます。実力としてはバッテリーが新しいときに市街地で20-30km、登記はバッテリーの性能が下がり、また、エンジンよりモータの発熱が少ないため走行抵抗が大きく、距離は2/3程度になります。普通のEVよりかなり短い値ですが、これはバッテリーを最小限にしたためで、重く、高価にはなりますが、バッテリーを増やせばレンジを伸ばすことは可能です。パワーはオリジナルより大きく、特に、低速トルクが大きいためにバッテリーが劣化した場合を除けば2nd以下のギヤを使うことはなく、ローやバックで急加速するのは駆動系にとって危険ですらあります。充電には一般的なAC100Vの電源では一晩かかりますが、AC200Vであれば2/3以下の時間で充電可能です。
 重量は改造車検時の計量ではわずか650kgで、オリジナルの日本仕様車の重量620kgよりわずか30kgの増加ですみました。コンバートEVでオリジナルに対してこの程度の重量増加で済むのは極めて異例の事です。これはひとえにアンドレ・ルフェーブルをはじめとする1930年代のシトロエン社のエンジニアの功績といえましょう。優れたガソリン・エンジンを電気モーターにたとえることが良くありますが、本当に電気モーターに載せかえることで2CVの本来持つ優れたコンセプトを理想に近づけることができたと思います。

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