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「WPC加工の都市伝説」 の巻

 述べ訪問者 :  (since 06, Sep./2004) 

 
 1.ネタ振り
    ↓
 2.お題目
    ↓
 3.私的考察
    ↓
 4.独り言
    ↓
 5.まとめ
    ↓
 6.あとがき
    ↓
 7.結論(再掲)
 
 
 1.ネタ振り
今回は 都市伝説ネタ(※注1) である。

レガシィ界では一時期、WPC加工(※注2) が流行ったことがある。
ここで言う 「レガシィ界」 とは、もちろんメーカーたる富士重工業(株)でもスバルのディーラーでもなく、ごく一部の 感度の高いレガシィユーザー群(※注3) でのことである。

曰く、

  「社外エキマニにWPC加工をすると、耐久性が格段にアップ!」

するということらしい。しかも

  「エキマニの ”内壁側” にWPC加工をすると、排気効率も格段に向上!」

するらしい。具体的には、

  「エキマニの割れを防止し、効率向上によりトルクアップも実現される!」

らしい。
 

(※注1):都市伝説
「明確な根拠が無いのに、あたかも事実のように人々に伝えられている内容」 のこと。もちろん都市部以外(=地方)で伝聞されていることも含む。

(※注2):WPC加工
ここでは通俗的にWPC処理 (特許第1594395号) のことを示す。ちなみに 「WPC処理(R)」 という表記は正式には登録商標だ。詳細は、株式会社不二機販(名古屋市) または 株式会社不二製作所(東京都) のサイトを参照のこと。
http://www.fujikihan.co.jp/wpc01.html
http://www.fujimfg.co.jp/p0401.htm

(※注3):感度の高い
ここでは 「客観的判断ができず、流行に流されやすいレガシィユーザーたち」 の意。なぜかこうしたユーザーの行動圏内に、レガシィを扱うチューニングショップが存在することが多いようだ。
 

 2.お題目
おいおい、ちょっと待て。それは本当か?
なぜ、そんなことが チューニングショップのサイトで、まことしやかに ささやかれるのだ?
いや、「ささやく」 どころではなく 「情報が立派に一人歩き」 しているぞ!

「社外エキマニの ”内壁” にWPC加工をすると、トルクアップする。」
だなんて、本当か?!
(今回のお題目はコレ↑)

これじゃ、インターネット経由で海外から日本のスバル車ユーザーの動向をつかもうとしている Subie たち(※注4) も、そういったサイトを巡回しながら、きっと目を丸くして不思議に思っているのではないだろうか。 「Oh〜, really? Is this a joke, or what?」 ってね。
 

(※注4):Subie たち
海外でのスバルの熱狂的なファンを称してこう言うらしい。日本語では、さしずめ 「スバリスト」 に相当するようだ。同時参照→(注18)。
 3.私的考察
もしも、前述のお題目の内容が本当なら、それは色々な意味で すごいこと だと思う(※注5)。本当にそういった効果が実現されるならば、それはWPC史上、新発見の効果となるに違いないからだ。その理由を以下に簡単に述べる。

 (1)まず第一に、WPCを含め、ショットピーニング加工(※注6) の類は
      「対象とする金属の表面を 硬化(※注7) するとともに、
       圧縮残留応力を付加 することによって 疲労強度を上げる
   ことを第一義とするものだ。つまり、引っ張りや回転曲げなど、繰り返し
   応力による疲労強度に関する耐力を向上させるための技術だ。

   特に、コストや重量、あるいは寸法的な制約により、該当部に十分な
   隅R径を確保させることが設計上困難な形状部位に適用されることが
   多い。具体的には、動力伝達系のシャフトやギヤ・その他の回転体や
   摺動部品など、高応力の発生する部品(部位)になるだろう。

 (2)ショットピーニング加工のその他の目的としては、
      「潤滑性・耐摩耗性の改善(※注8)
   も挙げられる。端的に言うと、摺動面に微少な凹加工を施すことによって
   油膜保持性を向上 させ、高回転・高面圧・高油温条件下でも 安定した
   摺動特性 (動μ特性・冷却バランスなど) を実現させるということである。

   具体的には、一部のチューニングショップがクランクメタルやロッドメタル
   などに施しているようである。
   (まぁ、これら以外にも、サンドブラストのような使い方もあるかもしれないが。)

ここで社外エキマニ (ステンレス・エキマニ) について、再度考えてみよう。
ステンレス・エキマニは、たとえばヘリカルギヤの歯元などのように、外力が加わることによる 両振りの応力(※注9) が発生し、疲労強度が問題とされる部品なのだろうか? 答えはNoだ。それでは、クランクシャフトやコンロッドのメタルのように、それ自身の潤滑状態がシステムの性能や耐久性に直接影響を及ぼすような部品なのだろうか? こちらも答えはNoだ。

このように、WPC加工を施す対象物について、
  (1)疲労強度の向上効果
でもなく
  (2)潤滑性や耐摩耗性の改善
でもない、
「内壁への処理で トルクアップを実現」 するという効能は、私の知る限り、未だ 学会(※注10) でも論議されたことが無い。果たして一体どういう理屈から、そうしたことが言えるのだろうか?

・・・だがここまで読むと、奴らの中でもちょっとだけ 理屈っぽいヤツ(※注11) は次のように反論するだろう。
  「水平対向エンジンは左右に長いから、左右バンクを結ぶエキマニとアルミエンジン
   との間では 熱膨張差 を吸収しきれない。したがって、エキマニには常に引張(または
   圧縮)の力が加わっているのだ。だから強化する必要があるのだ・・・(★)」 と。
 

(※注5):すごいこと
もちろんそんなことがあるわけが無い。反語的表現である。

(※注6):ショットピーニング加工
これが解らないと、この章は意味不明となるので、各自で調べること。

(※注7): 硬化
対象となる金属表面で、A3変態点(※注15、後述)以上に温度が急上昇→下降することにより、金属表面層の結晶構造がオーステナイトからマルテンサイトに変わる現象も含む。

(※注8):潤滑性・耐摩耗性の改善
ショットピーニング加工の中には、表面にディンプルを形成させることによって油保持性をアップさせ、潤滑性能(耐焼付限界)を向上させる目的の場合もある。
だが、こういった目的のショット(WPCを含む)は、今回のお題目:「社外エキマニにWPC加工をすると、割れを防ぎ、排気効率がアップする」 と信じて疑わない、高感度なレガシィユーザーの目的とは異なるものであるから、ここでは割愛する。

(※注9):両振りの応力
一般に、部材に繰り返し発生する応力が正弦波状の場合、
  平均応力:σm
  応力振幅:σa
を用いて下図のように示される。ここでσm=0の場合は両振り、σm=σaの場合は片振りである。
wit_stress2.gif (2930 バイト)

(※注10):学会
例えば、RC-156歯車分科会。自動車メーカーや自動車部品メーカー、あるいは大学の研究室などが参加して、歯車の強度向上技術などのトレンドを発表しあう技術分科会。もちろん他にも多種の関連学会がある。

(※注11): 理屈っぽいヤツ
”感度の高い” レガシィユーザーの中でも、特に中途半端に知識武装した者たち。あるいは、あえて書かないが、感度の高いレガシィユーザーの ”背後” にいて、中途半端な(間違った)知識を与えている存在。各自で想像してみてくれたまえ。
 

 4.独り言
ほほう、なるほど。だがその反論は、エキマニには熱応力が発生していることの説明にはなっても、どうして トルクアップするのかという説明にはなって いない

さらには、それは違う意味での自爆にもなりかねない。
もしも 左右完全一体溶接型で 中間接続部の無いステンレス・エキマニ(※注12) を市販している (or 市販していた) チューニングショップの口から、そういった言葉が出たとするならば、「自社のエキマニは危ないぞ。」 と自らゲロしたようなものになるからだ。「おいみんな! 左右完全一体型のステンレスエキマニは買わない方が良いぞ。左右アルミブロックの熱膨張差をエキマニが吸収しきれないんだってよ!そんなダメな一体型エキマニを売る方がおかしいぞ〜〜っ!」 つまり買うなら ベローズ付き(※注13) のエキマニってことだな。純正エキマニみたいにな。

・・・おおっと。思わず話題がそれてしまったい!話を元に戻そう。
ええーっと・・・。前述の奴らの言い訳:(★)の続きからだったな。

確かに程度の差はあれ、ステンレス・エキマニには、アルミヘッド(ブロック)との 熱膨張差による応力 が生じているのは事実であろう。しかし、一度エンジンをかけて暖機が完了した状態ならば、熱応力はほぼ一定の値に落ち着くし、仮に エンジン停止と始動が繰り返される運転モード(※注14) を考慮した場合であっても、その内部応力の変動幅は、エンジンやミッション内部の摺動部品 (駆動力など、物理的な力が外部から加わることで応力変化を生じる部品群) よりも穏やかであると考えられる。

もとより、特種なものを除くと、もともと社外エキマニは、排気抵抗低減のため曲がりや絞りを少なくしている関係上、応力集中しそうなキツイ隅R形状は少なく (>もともとそういった特徴が ”売り” のハズ)、また平坦なパイプ部分では曲げ応力もほとんど発生しないであろうから、そういった意味からも、WPC加工により 「圧縮残留応力が付加され、疲労強度向上効果が大きく発揮される」 ことは、ほとんど無い と考えられる。現代的なベローズ付きのエキマニならば、なおさら・・・である。

いやいや、もっと 根本的で決定的な話 をしよう。

「ステンレス・エキマニにWPC加工をすると、その熱膨張差による応力に抗するだけの強度アップが見込める。」 とする考えは である。なぜならば、ステンレス・エキマニはその名のごとく、もともとの 材質がステンレス であるから、WPC加工をしたところで、鉄系金属のように 「A3変態点(※注15) を超えることにより 結晶構造 が変わって硬度・強度がアップする」 などということは 起こり得ない のである。ステンレスは鋼材とは違う のだ。
 

(※注12):左右完全一体溶接型で〜
フランジを持つ 「左右+中間連結部」 の3分割タイプではなく、左右ヘッドから集合してタービンへと続くエキマニが溶接で完全一体化されているもの。具体的には、レガシィツインターボ用だけでなく、インプレッサ用にしばしば見受けられた。
(画像が見つかれば、そのうち載せる予定。)

(※注13):ベローズ付き
熱膨張吸収構造。内管はスライド式、外管は蛇腹式になっている場合が多い。最外部にはメッシュが巻かれていることもある。

(※注14):エンジン停止と始動が〜
ここでは、冷熱サイクル、またはヒートショックなどと呼ばれるものを指す。つまり、使用環境を含めて温度差が大きく(辛く)なる運転状況のこと。

(※注15):A3変態点
オーステナイトからフェライトが析出する変態点。鋼はFe-C系がベースである。純鉄は室温で bcc結晶構造=体心立方格子であり、強磁性でα-鉄=フェライトと呼ばれる。これを加熱するとA2点(780℃)で常磁性になり、さらにA3点(912℃)でfcc結晶構造=面心立方格子のγ-鉄=オーステナイトになる(〜1394℃まで)。
(※A1変態点は727℃。なお、加熱と冷却では変態点に若干のズレを生じることがある。)

 5.まとめ
だから、もともと 「ステンレス製のパイプ材」 の社外エキマニにWPC加工を施すこと自体が、材質的・形状的に考えると ナンセンス なのだ。ショットの粒径や流速、カバレージなどを調整したところで、材質がステンレスでは鋼材のような効果は得られないと言えるだろう。ましてや、その ”内壁” に処理しようだなんてことは、まず材料強度関係者であるならば、おおよそ考えることでは無い。

・・・百歩譲って、もしも・・・社外ステンレス・エキマニでWPC加工の効果が得られることがある・・・とするならば、それはエキマニ本体 (ステンレス・パイプ部分) ではなく、溶接部分 かもしれない。いや、仮に表面に露出している溶接部分(のみ)が強化されたとしても、溶接材がステンレス(母材)に とけ込んでいる部分 の強化には ならない から、やはり 「WPC加工でステンレス・エキマニ 本体 の強度アップ」 には、もともと 成り得ない のである。

さらに、他の ハード制御ソフト の変更無しに、「ステンレス・エキマニへのWPC加工(のみ)で、エンジントルクがアップする!」 などということは、まずあり得ない。

もしもそういったことを平気で口にするショップや、加工を勧めてくるショップがあるとすれば、絶対に 避けた方が無難 である。また、ステンレス・エキマニの ”内壁” への処理にこだわるショップがあるとすれば、バリ取り目的のサンドブラストと 勘違い しているのではないだろうか。
 

 
 6.あとがき
都市伝説を楽しみながら撲滅したいと考えている ひとりの翁(※注16) が、

  「エキマニにWPC加工をするんだったら、フロントパイプセンターパイプ
   そしていっそのこと リヤマフラー にも WPC加工をしてみろってぇの!
   ヤツらの理論によると、マフラーまでフル加工 (しかもその内側から)
   をしたら、さぞかし排気効率が上がるんじゃないのかね?」

と吐き捨てるように言うのを、私はかつて聞き逃さなかったことがあるが、まったくその通りだと思った。

例えば、パワーユニット(※注17) 内部のチューニング・・・競技に出場するために構成部品単位からの強度アップを図りたいとか、あるいはエンジンやミッション内部の回転部品の軽量化のため、薄肉化した代わりにWPC処理(R)して強度を確保する、などという目的ではなく、単にエアクリーナーやマフラーを交換したのみに留まる 主機関係ドノーマル車スバヲタ(※注18) が、意味も分からず単に 言葉の響きのみ で、摺動部品でも作動部品でもない 補機部品 に、いわゆるWPC加工の手を入れたがる・・・。

日本のユーザーはまだまだ平和ボケした 発展途上者の集団 であると言わざるを得ない。
 

(※注16):ひとりの翁
ここでは仮に 「プロフェッサー」 としておく。大変な身分のお方である。

(※注17):パワーユニット
通常は、エンジン(主機+補機)とトランスミッション(動力伝達装置)の両方をまとめて指す。

(※注18):スバヲタ
スバル車の 「オタク」。中途半端に理論武装している人々を指すことが多い。その一方、まじめなファンは 「スバリスト」 と区別されることが多い。ちなみに、にわかスバルファンは 「スバラー」。海外のスバルファンは 「Subie(スービー)」 と言うらしい。

 7.結論(再掲)
ということで、再度、結論を述べておこう。

ステンレス・パイプ材の社外エキマニの ”内壁” に
WPC処理をしても、エンジン性能はまず向上しない。
むしろ、「ショップの思うツボ (良いカモ)」 である。

※当サイトは独自の視点から 「都市伝説 撲滅運動」 を推進してまいります。
 

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