超不定期更新コラム

4/30 低温浸漬

今マット・クレイマー著「ブルゴーニュワインがわかる」という分厚いハードカバーの本を読んでいる。ブルゴーニュの各畑や生産者の詳細な情報が書かれていて、私のようなブルゴーニュ音痴にはことのほかためになる。

前半読み終えて、特に興味深かった一節がある。表題の通り、低温浸漬に関する記述とそれに関する著者の考え方だ。(P61〜)


低温浸漬 とは 、丸ごとのブドウか軽くつぶしたブドウを密閉式の冷却槽におさめ、多めの硫黄を投じて雑菌を駆逐し、発酵をさせないでぶどうの果 汁を果皮に漬けたままにしておくというものだ。ついで果汁をゆっくり温めてそのまま発酵させる。そうするとできあがったワインは実に色の濃い濃縮感のあるものになる。(「ブルゴーニュワインがわかる」より引用)

低温浸漬 といえば有名なのが、神様アンリ・ジャイエ。彼の醸造方法は4〜6日の間、低温浸漬を行い、それ以降はごくごくオーソドックスな醸造方法によって、ブルゴーニュで最高値を競う名醸ワインの数々を生み出してきた。
さて、ここにもうひとりギイ・アッカというレバノン人の醸造技師がいて、彼の手法はこの 低温浸漬 を極端に長く(15〜25日)行うというものだった。アッカ氏は70年代半ばにブルゴーニュに現れ、それ以降醸造コンサルタントとして、約15の得意先を持っていたとのこと。

彼のワインについては、R・パーカーやフランス人ワインライターのミシェル・ベターヌ が熱烈に支持しているそうだが、この本の著者のクレイマー氏は、「ワインの作りに派手な個性が出過ぎて、畑ごとの違いが隠れてしまう」「どのワインも細やかなえもいわれぬ 『あや』をもたない」と手厳しく批判する。

じゃあ、アンリ・ジャイエ氏の作るワインについてはどうかというと、 「かれのワインには、強烈でありながら澄んだ果 実味があって、色の濃さも尋常でなく、つねに深遠な味わいがある」と評している。低温浸漬を行いながらも畑本位 のワイン作りをしているのが違いということのようだ。

こういう議論はボルドーなんかでもミシェル・ロラン氏の指導するワインについて、よく賛否両論語られるところだけど、ピノノワール単一で作るブルゴーニュの場合、テロワールの要素と醸造技術とのせめぎあいというのはボルドー以上にセンシティブな問題なのだろうなあ、と思う。

さて、なんでこのことを長々と引用してきたかというと、このアッカ氏が指導したもっとも有名なドメーヌが「コンフュロン・コテーティッド」「ジャン・グリヴォー」(〜92年まで)だからだ。 この2銘柄、私自身たまたま飲む機会があって、結構心に残っていたものなのだ。だから、この本を読んではたと気がついた。

ジャングリヴォーのヴォーヌロマネ88は年末に小田島でを飲んで、ドルーアン・ラローズのグランクリュ2種類を向こうに回して、「この日最高の一本」などと書いた。つい先日シノワで飲んだコンフュロン・コテーティッドのヴォーヌ・ロマネについても、その色の濃さと豊かな果 実味 に「よくできたコートドボーヌのワインのようだ」なんて評したばかり。どちらも村名なのにすばらしい凝縮感だなあ、と思っていたら、こういう手法を使っていたわけだったんだね。
う〜む、ひとつ謎がとけたとともに、なにか手品師の手品にものの見事にひっかかった観衆のような、バツの悪さを感じてしまう。
クレイマー氏の力説するような「テロワールの表現」なんてことはみじんも感じずに、「濃縮感があってすばらしい」なんて一言で片づけている私って、やっぱりブル音痴?(苦笑)
でも、一方では多少テロワールを犠牲にしても村名クラスでこれだけの凝縮感を得られるなら、それはそれでパフォーマンスが良いという見方もあるような…。

ちなみにギイ・アッカ氏はその後ほとんどの契約を解かれ、今はブルゴーニュを去ったとも聞いているけれど、やはり彼のやり方はブルゴーニュでは受け入れられなかったということなのだろうか。この辺の事情は私はよくしらないので、知ってる方いらしたら、ぜひ掲示板にでも書き込んでいただければと思います。